小学校プログラミング教育に従事するGMOインターネットテックリード成瀬 允宣にKids VALLEYの活動内容や取り組み詳細についてインタビューしました。
目次
Kids VALLEY 未来の学びプロジェクトとは?
2019年6月17日に、東京急行電鉄株式会社、株式会社サイバーエージェント、株式会社ディー・エヌ・エー、GMOインターネット株式会社、株式会社ミクシィ、渋谷区教育委員会の6者が渋谷区立小・中学校でのプログラミング教育の充実を図り、次世代に必要な資質・能力を持った人材を渋谷から輩出する土台作りを進めることを目的に、「プログラミング教育事業に関する協定」を締結し推進しているプロジェクトです。
プレスリリース:https://www.gmo.jp/news/article/6471/
当社のKids VALLEY取り組みについて
2021年度、当社は20回程度渋谷区の小学校へ訪問しプログラミング教育授業の協力を行いました。
その他にもKids VALLEYを推進する関係者と連携し、教育関係者向けのシンポジウムの配信や子ども向けのプログラミング授業をオンラインイベントで開催いたしました。
IT企業の開発者が考えるプログラミング指導方針
小学生へプログラミングを指導する上でどんなことを工夫していましたか?
いちばん難しかったことは授業のレベル設定ですね。
たとえば、はじめて経験する児童にはまずプログラミングに触れることや成功体験を積むことを目的としたいという一方で、すでにプログラミング経験がある児童は同じプログラムでは飽きてしまう懸念がありますよね。
そこで、私たちは指導指針として以下3つを掲げました。
- 座学よりもワークに注力した授業を組み立てる
- 演習レベルの調整ができるプログラムの用意する
- 論理的思考を伸ばすための仕掛けやサポートを徹底する
ワークに注力した授業の組み立て
プログラミングのよいところは何度でもやり直しができるということです。 間違えてもいいからとにかく考え、手を動かして組み立ててみるということが大切だと考えています。
そこで、1つのコンテンツにつき10分座学に対して30分ワークという流れで、学んだことをアウトプットする時間を多く設定しました。現地に赴くサポートメンバーはとくにワークで手を止めることがないよう目を配っていました。
演習レベルの調整ができるプログラム
経験の差や習得にかかる時間の差によって進行のスピードにはどうしてもばらつきが出ます。そこで大切なことは、どんどん課題をクリアしていく児童のモチベーションをどう維持していくのかということです。具体的には演習のレベル調整ができるプログラムを多く用意していくことが大切です。
たとえば、ロボットをゴールに導くというプログラムでは、簡単に一直線でゴールできるものから障害をクリアする必要があるもの、複雑な道筋になっているものといった多様な演習を事前に用意しておくことで多くのチャレンジや学びを得る機会を提供できるようになりました。
論理的思考を伸ばすための仕掛けやサポートの徹底
本取り組みでいちばん大切なのは、「プログラミングとは何なのか?」を理解することではなく、「プログラムを使えるようになること」です。つまり、プログラミングに限らず、論理的思考を伸ばせるようサポートすることがいちばんの目的です。
プログラミングを好きになってくれる児童がいればぜひ続けてほしいという思いはありますが、そうでない児童ももちろんいますよね。そういった児童も含め、本学習を通してさまざまな場面で応用できる論理的思考を身に着け、生きていく力にしていってほしいと考えています。
「目的を達成するためのプロセスを自ら考え、実行してみる」といった経験を積んでもらえるようなプログラム設計やサポートを目指しました。
プログラミングと日常生活を結び付けて理解してもらうことの大切さ
指導案をオリジナルで作成されたとのことでしたが、具体的にどのようなものですか?
現場で活用した指導案は小学校の指導要領を参考にしながら、オリジナルの題材で作成しました。大目標を「Scratchとホワイトボードでログラミングの基本を学ぶ」とし、時限ごとの指導内容を検討しました。
とても濃密なカリキュラム構成となりましたが、児童たちの集中力や理解力は大人と同じくらいあります。
いかに興味を引けるか、自分事として取り組んでもらえるかというところがポイントとなりましたが、そこは私たち講師陣の腕の見せ所でしたね。
指導案作成にあたって工夫したことがあれば教えてください。
児童たちが学習をする上で学ぶ動機が何かというと、「興味」と「自分の身近に関係のあること」の2つだと考えています。そのうえで、学習意欲を高めるためには、成功体験を積むことが必須です。
そこで、プログラミングと日常生活がかけ離れたものでないと感じられるような題材探しや楽しく学ぶ進行ができるような工夫していました。
たとえば、題材でいうとすいか割り。やったことがあってもなくてもすいか割りと聞けば子どもたちはその全容をイメージできます。目隠しした人間がすいかを割るにはどんな声掛けが必要でしょう?間違った動きをしていたらどう正しましょう?「正解やゴールを導くために考え、指示を出す」という目的を伝えるための事例としてわたしはすいか割りを活用しました。
要は、プログラミングが難しくてイメージしづらいものではなく、身近なところでも同じような考え方をすることがあると伝えたかったわけです。
現場で感じた成果と課題
実際に現場に行ったからこそ感じた成果や課題があれば教えてください。
成果
授業前にできなかったことができるようになる、理解できるようになる瞬間に立ち会えたときには「やってよかった」と純粋に思えましたね。授業後に成果物を見せにきてくれたり、質問を受けたりといったコミュニケーションの中で私自身も先生として少しでも影響を与えられていると実感できうれしく思いました。
これは現場で指導にあたったからこそ感じられたとても大きな成果だと感じます。また、逸材と出会って危機感を覚えることもあり、エンジニアの私にとっても刺激を受ける機会でしたね。
課題
とある授業で、「スクラッチに飽きてしまった」という理由でプログラミングをやめてしまった児童に出会いました。もちろん経験を積み上達すれば、やってみたいことが広がります。たとえば、スマホアプリをつくってみるなどです。
スマホアプリをつくるには、Scratchではなく他のツールや言語の習得が必要です。
学ぶべきことは数多くあるのですが、そういった選択肢を知らずに「Scratchに飽きてやめてしまった」ということでだったんですね。これは将来のIT人財が成長する機会を逃している現実であり、課題だなと感じました。
部活や学校の授業で、さらに学びたい児童が学べる環境があるのが理想ですが、学校教育の現場を知るほどなかなか難しい問題であるということも知りましたね。
GMOインターネットが企業としてプログラミング教育に携わる意義とは?
企業としてプログラミング教育に携わる意義を成瀬さん自身はどう感じていますか?
Kids VALLEYの目的は2つあります。
- ビジネス拠点としてお世話になっている渋谷区への恩返し
- 世の中的なICT人財不足に対してのアプローチ
個人的な感覚ではありますが、中長期的な取り組みであることは前提として上記2つの目的を達成することは可能ではないかと感じています。
恩返しというと少し大げさではありますが、早い段階で児童たちの可能性を広げる機会提供ができることは有意義だと思っています。そういった意味で企業として活動に携われることはうれしいですね。
また現場へ赴き、改めて「先生」という存在が子どもたちにとって大きな存在であるということを再認識しました。「ただの知らないおじさん」だった人が、授業を通して「GMOインターネットで働くエンジニア成瀬先生」に変化していくわけです。受講をきっかけに、”GMOインターネット”という企業名が記憶に残り将来就職につながる可能性は十分にありますし、将来の選択肢や考え方を広げてあげられるという点においても意義はあると思っています。
また別軸でいえば、社内においても活動意義はあるのではと考えています。
それはパートナー(社員)のリテンションにもつながる活動であるという点です。子どもや教えることが好きな開発者にとって、自分たちの経験や知識を伝えられる場があることはとてもポジティブです。
昨年は私以外に3名のエンジニアが実際に現場で講師をつとめられるまでに成長してくれました。
後進育成にも力を入れることで、パートナー自身が自分の仕事に誇りを持ち、楽しんで仕事ができる環境をつくることができたという意味でKids VALLEYの活動を企業として行う価値はあると思いました。
今後のKids VALLEYの取り組みに関する方向性
2022年度の取り組み内容は決まっていますか?
はい、今年度同様に小学校への講師派遣は継続して行っていきます。
さらに新たな取り組みとして、総合授業の一環である課題解決型授業への参入を絶賛小学校側と調整しているところです。課題解決型授業についてはあまり聞きなれない言葉かと思いますが、従来の「先生に教えてもらう」という授業ではなく「児童主体で学び考える」というアクティブラーニングのことを指しています。
総合の授業において1年間かけ、生徒たちの考える課題解決に私たちGMOインターネットも協力していけたらと考えています。テーマやどの学年を担当するかなど具体的なことはこれから詰めていく段階です。
IT企業として、次世代を担う子どもたちの考える未来の実現を手助けできるような活動ができればいいなと思っています。
GMOインターネットのテックリード成瀬が考える今後求められるIT人財とは?
私がなぜKids VALLEYの活動に従事しているかといえば、これからの時代ITを活用できなければ選択肢が狭まると感じているからです。
私たちはIT企業だからもちろんITを駆使していますが、たとえば自動車業界においてもAIや自動運転が出てきています。また身近なところでいえばパン屋さんも自動スキャンで無人会計できるようなところがすでにあるわけです。それは今後子どもたちが生きていく上で、ITは切っても切れないものになっていくということでもあると思うんです。
そういう意味で業種や仕事内容にかかわらず、課題解決や目的達成に向けて「どうすれば」「何をすれば」ということを自ら考え、実行できる人が求められるIT人財といえるのではと考えています。そんなIT人財育成のために僕らがやるべきは、考え方やノウハウを伝授していくことですね。
その上で数十年後、もし彼らがGMOインターネットに入社してくれることがあれば・・僕はもう勝ち目ないよねぇ・・笑 だって10歳からプログラミングを始めてるんですよ?
そんな日が来ることを願って、わたしもいちプログラマとして日々精進しなければと思っています。
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