本記事が対象としているのは、これからエンジニアになろうとしている方、エンジニア経験の浅い方、エンジニアとしてキャリアパスに悩んでいる方です。主に若手のエンジニアを想定しています。「プログラミングが好きだけど、仕事にしたらどうなるのだろう?」「エンジニアになったけど、キャリアパスってどう考えればいいの?」「自分の評価は正しいのだろうか……モヤモヤする」そんな疑問や不安に、趣味プログラマー45年、職業エンジニア30年、マネジメント歴20年、採用・教育歴10年以上の私の考えをお伝えします。
職業エンジニアの「役割」と「当面の目標」を知るメソッド
エンジニアの領域
結論、「技術力」と「ビジネス力」の2軸で自分の立ち位置をマッピングし、そこから自分の「役割」「当面の目標」を判断しましょう。
使うのは、以下の図です。
スタート地点は人によって異なりますが、目指すのは右上の領域「花形エンジニア」です。
それぞれの軸の判断基準を説明していきます。
「どっかで見たことある」と思った方……そうです。プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)のエンジニア版です。PPMについては以下の記事で詳しく解説されているので、ぜひご一読ください。プロダクトポートフォリオマネジメントとは?メリットや企業の分析事例を解説 - GMOリサーチ&AIhttps://gmo-research.ai/research-column/product-portfolio-management
技術力(縦軸)
プログラミングやサーバー構築など、純粋にエンジニアスキルのことです。それが仕事になっているかどうか、社会に貢献しているかどうかは関係ありません。シンプルに技術力で判断してください。
レベル判断基準一人前一人でWebサービスやアプリケーションを開発・提供できるレベルです。オープンソースへのコミットや、ちょっとしたライブラリを公開するレベルもここに含まれます。一人前~ハイレベルOSやプログラミング言語そのものを一人で開発できるようなレベルです。 「サービスやアプリは当たり前のようにつくることができる」「それ以外にも自分は○○のようなすごいことができる」 そう言える方は、このレベルに属していると思います。
ビジネス力(横軸)
「ビジネス力」と一言でくくりましたが、いろいろなスキルが含まれます。会計の知識・商品企画力・コミュニケーション力・マネジメント力などなど……「サービスを考えて」「実現し」「社会と会社に貢献する」ために必要な、技術力「以外」のスキルすべてと思ってください。
レベル判断基準一人前ビジネスの仕組みを理解しているレベルです。 社会がどうやって回っており、どうやって会社にお金が入ってきていて、それがどうやって自分の給料になっているのか、その仕組みを理解しているレベルです。会社の組織と役割についても理解できている状態かと思います。一人前~ハイレベル自らビジネスの拡大もしくは拡大の提案ができるレベルです。 そのためにはマネジメントや課題解決・企画提案など、様々なスキルが必要になってくるでしょう。
自分の属する領域を把握する
この2軸にそってマッピングした場合、皆さんはどの領域のどの辺りにいるでしょうか?
新卒・若手エンジニアの多くの方は、以下の辺りにいるのではないかと思います。
ご自身がどこにいるかで、会社や社会に対する「役割」、花形エンジニアになるための「当面の目標」が異なります。いずれにせよ、「花形エンジニア」以外の方は「花形エンジニア」になることが当面のゴールとなります。
領域ごとの「役割」と「当面の目標」
見習いエンジニア
技術力もビジネス力も、一人前以下の状態です。この領域にいる人は、だいたい「まだ一人前じゃない」という自覚があります。
あなたの役割は、先輩やリーダーからの指示に対して100%以上の成果を返すことです。仕事を進めながら、ビジネスの仕組みを勉強、未知の技術スキル習得を進め、いずれかの軸で一人前を目指してください。
「知らない」「やったことがない」仕事があればラッキーです。先輩やリーダーを質問攻めにしながら、どんどん取り組んでいきましょう。
「成長を感じない」のは危険信号です。すぐに先輩・リーダーに相談してください。
ギークエンジニア
技術力はあるけれど、ビジネス力が足りていない状態です。趣味プログラマーの人は、ここからスタートもしくはあっという間にこの領域に達することが多いです。
役割は、手持ちの技術力で会社に貢献することです。先輩やリーダーからの指示に対して100%以上の成果を返してください。もし自分より技術力が低い先輩やリーダー・仲間がいたら、彼らの技術面をサポートしてください。
技術力で会社に貢献しながら、ビジネスの仕組みを理解していくことが「当面の目標」です。ビジネス力が成長していけば、自然と先輩やリーダーから仕事を任せられるようになってくると思います。
社会人エンジニア
「見習い」状態から、ビジネス力が先に一人前になった方です。もしくは、すでに社会人として活動されている方が、エンジニアに転職されたパターンです。
あなたの役割は、「ビジネスがわかる」点を活かして、「要件の伝わりやすいエンジニア」(=要件を伝えるのに手間がかからないエンジニア)として活動することです。チーム内に要件を理解していない人がいればサポートする、要件が曖昧だったら「こうですよね?」と確認する。
ビジネスを企画する人から出てくる要件は、エンジニアから見たら曖昧・矛盾していることがしばしばあります。そんなときに企画者を質問攻めにするのではなく、「こういうことですよね?」と企画者とエンジニアの隙間を埋めるようにしましょう。徐々に企画者やチームの仲間から信頼を得られるでしょう。
技術力が見習いレベルであることを忘れないようにしてください。花形エンジニアになるためには技術力は欠かせません。技術力の向上にも積極的に取り組んでください。
花形エンジニア
当面のゴールです。この領域まで来て、エンジニアとして初めて「一人前」と呼べると思っています。経験では、エンジニア歴5~10年ぐらいでこの領域に達する人が多いようです。
役割は、自身の「技術力」と「ビジネス力」で会社に貢献することです。指示待ちはダメです。自ら提案することで、組織に貢献しましょう。他の領域にいる人たちのサポートも、あなたの役割です。
花形エンジニアになってから先が、本当のキャリアパスなのですが、それはまた別の記事で語らせてください。以下の図のように「花形エンジニア」になってからのほうが、ずっとずっと広い世界です。
「半人前」に要注意
半人前とは?
私の経験から、最も注意しなければならないのが「半人前」の方々です。ここをうまく導けるかどうかで、その人が花形エンジニアになるか、脱落(退職)していくかが決まります。
「半人前」とはギークエンジニア・社会人エンジニアの領域に属する方です。技術力とビジネス力、いずれかの軸が一人前ですが、もう一方の軸が見習いレベルです。
ひとつの軸が一人前なので、ご自身を一人前と勘違いする危険があります。例えば、以下のような疑問を抱いたことはないでしょうか?
「自分は○○さんと同じスキルがあるのに、何で○○さんがリーダーなのか」「自分はこのサービスについてよく理解している。なのに何でリーダーをやらせてもらえないのか」
それは、ひとつの軸で他者と比較しているからです。「エンジニア」という仕事には、技術力とビジネス力、いずれも欠かせません。リーダーを、ふたつの軸で眺めてみてください。おそらく、いずれも一人前以上ではないかと思います。
ひとつの軸のみで他者と比較し、そこに疑問を持ち続けると、いずれは「自分は評価されていない」という不満になってしまいます。
他者と自分を比較する際は、必ず「技術力」「ビジネス力」のふたつの軸で比較するようにしてください。
ギークエンジニアが注意すること
「自分は技術力で勝負する(だからビジネス力はいらない)」という考えはとても危険です。
ビジネスの仕組みがわかっていない状態で「技術力」にこだわると、組織から浮いた存在になりがちです。「仲間にわからないコードを書く」「運営を意識しない実装をする」「つくるものの優先順位がおかしい」「職場環境への要求が多い」……仲間から「あの人、実力はあるけどチーム適応力がなくて困る」と思われてしまいます。結果、組織は扱いに困り、あなたも評価に不満を持つという、悪い状態になります。
「技術力で勝負する」という目標を実現するためには、ビジネス力を一人前にする必要があります。
社会人エンジニアが注意すること
ビジネスがわかるからこそ、「○○のサービスを担当したい」「こうすればもっとよくなる」と思うことが多いでしょう。「エンジニアだからできる」とも思うでしょう。上流工程にシフトしたがる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
でも、落ち着いてください。あなたにはまだ技術力が足りません。あなたはあくまでも「エンジニア」です。いま上流工程に注力してしまうと、「技術のわかる企画者」になるチャンスを失うことになります。
「技術のわかる企画者」になるためには、技術力を一人前にする必要があります。
規格外の人に「なろうとする」のはやめよう
規格外の人とは
何事にも例外があるように、このメソッドにも例外があります。いるんです。とんでもない人が。表現すると以下の通り。図の遙か外にいるような人です。
ウィザード
魔法みたいな技術力を持った人です。Excelマクロと同じレベルのマクロ言語を、スクラッチから3日でつくっちゃうとか、分散型ファイルストレージが一週間でできちゃうとか……そんな人です。2千人以上のエンジニアと仕事をしてきましたが、2名ほど出会ったことがあります。
CTO
新卒で入社した瞬間からCTOみたいな人です。決して技術力は高くないのだけれど、人を巻き込んで、一年目からプロジェクトリーダーをやったりします。なぜか経営陣まで巻き込んでいたりします。たいていの人は、2年目には独立して起業します。こちらも、過去に2名ほど出会ったことがあります。
目標にするのは危険
いずれも0.1%レベルのレアキャラクターです。有名になりがちなので、「目標にしよう」「あんな人になりたい」と思ってしまうかもしれません。
やめておきましょう。
おそらく彼らは、何らかの天賦の才を持って生まれています。「なろう」と思ってなることができるレベルではありません。「目標にしない」「なろうとしない」のが賢明です。
まとめ
職業エンジニアには「技術力」と「ビジネス力」が必要技術力とビジネス力で自分の立ち位置を把握しよう。立ち位置によって「役割」「当面の目標」は異なる。どんな人も、技術力とビジネス力の一人前以上(花形エンジニア)を目指そう。キャリアパスは、花形エンジニアになってから考えよう。