今回は2018年9月に経産省より発表されたDXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~について綴ってまいりますが、ショッキングなサブタイトルでしたので記憶に新しい方も多いと思います。そして、間もなく崖とされる2025年(2024年8月寄稿時点)を迎えるにあたって、発表当時と比較したITテクノロジーの変革とともに振り返ってみたいと思います。
経済産業省 DXレポート
「2025年の崖」についてはたくさんの解説がありますのでここでは詳細を割愛致しますが、DXというと業務プロセスの改善などのバックオフィスのIT化や自動化をイメージしがちなところ、当レポートではむしろ顧客向けシステムやITサービスを含めたあらゆるシステムの老朽化・複雑化・ブラックボックス化に警鐘を鳴らすと共に、IT企業のみならず様々な産業が抱える問題に触れておりますので、まだご覧になられていない方は是非オリジナルをご参照頂ければと思います。経済産業省 DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html
テレワークを起爆剤としたDXの加速
2018年以降ITシステムにも大きく影響したニュースとしては、やはり新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけとしたテレワークの急速な普及です。総務省の情報通信白書によると民間企業におけるテレワークは1回目の緊急事態宣言時には56.4%へと上昇したそうです。
総務省 情報通信白書令和3年版https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd123410.html
テレワークの普及に伴い、Web会議やチャットの活性化、VDIやBYODへの移行、勤怠管理システム等のバックオフィスツールのクラウド(SaaS)化、VPNやゼロトラスト導入、電子契約や電子印鑑によるペーパレス化が、図らずも加速する結果となりました。これらはそのままではラン・ザ・ビジネス(現行ビジネスの維持・運営)の為のコストでしかありませんが、RPAやERPを活用したシステム間連携や自動化をすすめること、またオンライン予約や申込、チャットボット導入などの顧客接点においても同様で、ラン・ザ・ビジネスにかかる人的リソースをE2Eで最小化し、バリューアップ投資に繋げていく必要があります。そして来るマシンカスタマー時代に備えなくてはなりません。
また、2020年のDXレポート2では、「コロナ禍で起きたこととDXの本質」と題して、事業環境の変化に迅速に適応すること、ITシステムのみならず企業文化(固定観念)を変革することの重要性が明らかになったと分析しています。経済産業省 DXレポート2https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation_kasoku/pdf/20201228_3.pdf(2以降に2.1、2.2と続きます)
テクノロジーの進歩がDXに与えた影響
続いて2018年以降に注目を集めたテクノロジーとしては5G通信、NFT、エッジコンピューティング、XR (VR/AR/MR) などがあげられますが、大きなインパクトがあったのはなんと言ってもLLMをはじめとする生成AIの急速な進化と普及です。実は「2025年の崖」の中でもAIについて複数個所で言及しており、その活用やスキルシフト、人材の確保を講じる事が必要であるとしています。AIが普遍化しビジネスや社会生活にAIが浸透しあらゆる領域でAIが活用できる環境にあり、ユーザーがAIを利用していることを意識しているかどうかは問わないことをIDC Japan様では「パーベイシブAI」と定義しているそうです。まさにそういった時期に差し掛かかりつつあるのではないでしょうか。
まとめ
本レポート内では、DXを実現するシナリオとして共通PFの活用、マイクロサービスの導入やテスト環境の自動化、クラウド・モバイル・AI等のデジタル技術をアジャイル開発、DevOps等で迅速に取り入れることなどをあげていますが、これらの技術や手法は当時から珍しいものではありませんでした。しかしながらこうしてあらためて読み返してみると、この数年で様々なテクノロジーやソリューションが急伸しましたが、技術的負債を抱えるレガシーシステムが生まれる基本的な構造や、その対処方法の本質は変わっておらず、経営戦略におけるDXの位置づけを明確化すること、そしてラン・ザ・ビジネス(現行ビジネスの維持・運営)から脱却し、バリューアップ(サービスの創造・革新)に投資することを念頭に置いたシステム刷新が必要であることがわかります。当社はIT企業であり多数のITエンジニアが在籍しておりますので、「2025年の崖」とは無縁のように見えるかもしれませんが、インターネットインフラ事業は他のITサービスと比較してプロダクトのライフサイクルがとても長く、かつお客様のご要望や環境の変化が激しい事業ですから、その間基幹システムには多くの機能追加・改修と負荷対策を積み重ねてきました。その結果、巨大なモノリスが複数立ち並ぶ状態であり、今まさに本レポートが指し示すようなアプローチでシステム共通化と刷新、エンジニアのスキルシフト、開発ライフサイクルの改革に取り組んでいるさなかです。
私はこのレポートの副題を2025年の「壁」とせず「崖」と表現したことに強いメッセージを感じました。崖ならば、何もせずにそのまま進めば落ちるだけですが、本質的なDXという翼を身に着ければSociety5.0に向けて飛び立つこともできるのですから。
DALL-Eが描いた「2025年の崖」(社内Slackアプリで簡単に描けます)悲壮感はなく、ドローンが飛び交う自然と融合した未来都市が描かれてました。