GMO AI&ロボティクス商事株式会社は2026年4月2日、日本一の走りをヒューマノイド開発に生かす新プロジェクト「GMOインターネットグループ陸上部 – GMOロボッツ」を発表しました。ニューイヤー駅伝で大会新記録優勝を果たしたGMOインターネットグループ陸上部の走行データを活用し、ヒューマノイドの社会実装につながる走行技術の高度化を目指します。一見すると、とても大きな挑戦に見えるかもしれません。しかし私たちの中では、このプロジェクトは突然生まれたものではありませんでした。ヒューマノイドを社会実装する会社として見てきた技術の潮流があり、国際ロボット展で得た手応えがあり、そしてニューイヤー駅伝で日本一になった陸上部の存在がありました。それらがつながった先に、「GMOインターネットグループ陸上部 – GMOロボッツ」があります。前編では、このプロジェクトがなぜ今立ち上がったのか、なぜテーマが「走る」だったのか、そしてなぜGMOインターネットグループだからこそできるのか、その背景をたどります。
「GMOインターネットグループ陸上部 – GMOロボッツ」発足記者会見を開催!
2026年4月2日、AI・ロボティクスの社会実装を手掛けるGMO AI&ロボティクス商事株式会社(以下、GMO AIR)は、日本トップレベルの陸上選手とヒューマノイドロボットを掛け合わせた新プロジェクト「GMOインターネットグループ陸上部 – GMOロボッツ」の発足記者会見を実施しました。
本プロジェクトでは、2026年1月1日に開催されたニューイヤー駅伝で大会新記録を樹立して優勝したGMOインターネットグループ陸上部の選手たちの「走る」動きを、ヒューマノイドロボットの学習に取り入れ、高度化させる技術実証に取り組みます。
左から今江勇人選手、黒田朝日選手、嶋津雄大選手、吉田祐也選手、ひとみん選手
ロボットが「走る」という基本動作を極めることは、単に見栄えのするチャレンジという話ではありません。走行技術が確立されれば、物を運ぶ、階段を上る、障害物を避けるといった複雑な動作へ応用できる可能性が広がります。だからこそ私たちは、この挑戦をヒューマノイドの社会実装を前に進めるための重要な一歩だと位置づけています。
さらに、私たちはヒューマノイドロボットによる陸上競技の世界大会に出場し、優勝を目指します。
なぜ今、GMO AIRがヒューマノイドに向き合うのか
GMO AIRは、2024年6月に立ち上がった会社です。私たちは、自分たちの役割を「AIとロボットを社会実装すること」だと捉えています。
私たちは、世界中の優れたロボットを見極め、そこにGMOインターネットグループの通信やセキュリティをはじめとするインターネットインフラ技術、AI技術、各種サービスを掛け合わせ、実際の現場で使える形まで持っていくことを役割としています。
この背景にあるのが、私たちがAIとロボットの進化を「インターネット革命の後半戦」と捉えていることです。インターネットが情報流通や商取引のあり方を大きく変えてきたように、これからはAIが判断を担い、ロボットが現実の現場で動く時代が本格化していく。私たちはその変化を、デジタル空間の先にある次の産業基盤の変化だと見ています。
そして、その変化は思っている以上に早く進んでいます。中国やアメリカでは、ヒューマノイドが走ったり、工場や物流の現場で実際に稼働したりするところまで来ています。一方で、日本ではその現実がまだ十分に共有されているとは言えません。昨年中国で開催されたヒューマノイド競技大会でも、中国・米国の企業が存在感を示す一方で、日本企業の存在感は限定的でした。私たちは、この現実を変えたいと考えています。
加えて、日本は労働人口の減少という大きな社会課題に直面しています。だからこそ、ヒューマノイドの社会実装は「できたら面白い技術」ではなく、取り組むべき現実的なテーマになってきています。2026年を「ヒューマノイド元年」と呼ぶのは、単にキャッチーだからではありません。技術、事業、社会課題の三つが、いま同時に動き始めているという感覚があるからです。
実際、2025年からはヒューマノイド領域に注力し、ヒューマノイドの人材派遣提供も含めて、実際の現場でどのように活用できるのかを検証しています。また、「GMOヒューマノイド.shop」というプラットフォームの提供も開始しました。このプラットフォームでは、ヒューマノイドロボットそのものだけでなく、ロボットハンドをはじめとした各種モジュールも扱っていきます。単に機体を紹介する場ではなく、現場で必要な選択肢へアクセスしやすくすることも、社会実装の土台づくりの一つだと考えています。
国際ロボット展で得た手応え――ダンスとモーションキャプチャ
「GMOインターネットグループ陸上部 – GMOロボッツ」は、まったく何もないところから始まったわけではありません。その前段には、2025年の国際ロボット展での取り組みがありました。
私たちはそこで、ヒューマノイドによるダンスの実装に挑戦に挑戦しました。人の動きをモーションキャプチャで取得し、ロボットの関節構造に合わせてリターゲティングし、シミュレータ上で学習させ、最終的に実機へ反映する。言葉にするときれいですが、実際にはかなり泥くさい工程です。
人の動きは、そのままロボットには乗りません。関節の数も可動域も違う。シミュレータではうまく見えていたものが、実機では崩れることもある。それでも、その試行錯誤の中で、人の動きを丁寧に扱うことで、既定の歩様にはない、人らしいニュアンスが見え始める感触がありました。
ダンスシミュレーション中の様子
国際ロボット展での取り組みや、ダンス実装とモーションキャプチャの詳細は、関連記事でも紹介しています。今回のプロジェクトは、その延長線上にある挑戦でもあります。
ダンスの次に、なぜ「走る」を選んだのか
では、なぜ次のテーマが「走る」だったのか。
それは、走ることがヒューマノイドの基礎性能と社会実装の両方に直結しているからです。
私たちは、ヒューマノイドには大きく三つの優位性があると考えています。一つ目は、汎用性です。専用機のように一つの作業だけに閉じるのではなく、1台で複数の作業を担える可能性があります。二つ目は、環境への適合性です。人間が働くために設計された設備や動線、道具がすでに世の中には数多くあり、ヒューマノイドはそうした既存環境へ比較的入りやすい。三つ目は、人との親和性です。人と同じ空間で働くとき、見た目や動作の受け入れられやすさは無視できず、人型であることは協働する存在としての分かりやすさにもつながります。
ただ、その価値を本当に社会実装へつなげていくには、現場で安定して動けることが欠かせません。走るためには、まず直立を維持できなければいけません。転倒を避け、重心を制御し、左右のバランスを取りながら前へ進み続ける必要があります。さらに、速く動くほど、わずかなズレが大きな不安定さとして表れます。
ただ、ここで誤解してほしくないことがあります。いまヒューマノイドメーカー各社が、ハードウェアや基本歩様を整備してくれているからこそ、私たちはその先の挑戦ができます。一方で、そこに用意されたハードや標準的な歩様があるからといって、そのまま滑らかで人らしい走りが実現するわけではありません。
ハードの制約がある中で、どうすればより自然に、より安定して、より速く走れるのか。ここにソフトウェアと学習の力、そしてロボットエンジニアの工夫が入ります。私たちGMO AIRが担いたいのも、まさにその役割です。
記者会見でヒューマノイドとの併走を披露
走行技術が磨かれれば、その先には物の運搬、障害物回避、現場内の移動など、さまざまな応用が見えてきます。だから「走る」は、ヒューマノイドを社会実装へ近づけるための、本質的なテーマだと考えています。
なぜGMOインターネットグループだからできるのか
今回のプロジェクトの独自性は、何よりも「お手本データの質」にあります。
ここで大きな意味を持つのが、GMOインターネットグループ陸上部の存在です。GMOインターネットグループ陸上部は、2016年4月に創部された実業団陸上部で、「世界に通用するNo.1アスリートの育成」を目標に活動を続けてきました。ニューイヤー駅伝には2020年から連続出場し、2026年1月1日には、創部10年、7回目の挑戦にして初優勝。しかも3つの区間新記録と大会新記録を樹立しての優勝でした。
写真:長田洋平/アフロスポーツ ※写真の転用はご遠慮ください
私たちが採用している手法では、まず大規模なシミュレーション環境の中で、直立の維持や転倒の回避といった汎用的な動作を学習させます。そのうえで、走行のような特定の動作については、お手本となるデータを与えて精度を高めていきます。
ここで重要になるのが、お手本データの質です。通常のデータ取得では、どうしてもばらつきが出ます。しかし、トップアスリートの動きは一貫して質が高い。私たちは実際のモーションキャプチャを通じて、そのことを強く実感しました。学習データは量よりも質が重要だと言われますが、今回の体験は、まさにそれを裏づけるものでした。
そして、その高品質なお手本データを用意できるのが、ニューイヤー駅伝で大会新記録優勝を果たしたGMOインターネットグループ陸上部です。これは、GMOインターネットグループだからこそできる、独自性の高いアプローチです。
加えて、技術面でも強い座組があります。GMO AIRは、モーション強化学習に強みを持っています。一方、2025年12月にグループジョインしたGMO Various Roboticsは、自律走行技術に強みを持っています。
ここでいう自律走行技術とは、単に前へ進む制御だけではありません。ロボットがカメラや各種センサーで周囲の環境を認識し、レーンや障害物、進行方向を判断しながら、自ら経路を決めて動くための技術です。ヒューマノイドが実際の環境で走るには、脚の動きが洗練されているだけでは足りません。周囲を見て、自分で判断しながら動けて初めて、実環境で使える技術になります。
今回の「GMOインターネットグループ陸上部 – GMOロボッツ」では、GMO AIRがトップアスリートの動きを学習に取り込み、走りそのものの質を高める役割を担います。そこにGMO Various Roboticsの自律走行技術を掛け合わせることで、ヒューマノイドが実環境の中でレーンを認識し、周辺状況を把握しながら、自律的に走行するための基盤技術を磨いていきます。
つまりこのプロジェクトは、単に「人のように走る」ことを目指すだけではなく、「実際の環境の中で、自分で認識し、判断しながら走る」ことまで見据えた取り組みです。その意味で、GMO Various Roboticsの技術は、このプロジェクトの中核の一つになっています。
まとめ
「GMOインターネットグループ陸上部 – GMOロボッツ」は、突然生まれた企画ではありません。
GMO AIRがヒューマノイドの社会実装に向き合ってきたこと。2026年を「ヒューマノイド元年」と捉える問題意識があること。国際ロボット展で人の動きをロボットへ学ばせる手応えを得たこと。そして、ニューイヤー駅伝で日本一になった陸上部という、質の高いお手本データがグループの中にあったこと。それらが重なって、このプロジェクトが生まれました。
後編では、モーションキャプチャ、陸上競技場での走行テスト、記者会見当日の選手コメントや質疑応答を通して、「GMOインターネットグループ陸上部 – GMOロボッツ」がどのように立ち上がったのか、その実際の道のりを追います。
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