こんにちは。GMOインターネット株式会社の松下です。リモートワークの普及とともに、VPNからZTNA(Zero Trust Network Access)への移行が進んでいます。しかしZTNAはVPNの単純な置き換えではなく、VPNの発想のまま導入すると失敗しがちです。本記事では、ZTNA導入でよくある「VPN置き換え失敗パターン」を3つに絞って解説します。
✅ ZTNAはVPNの代替にならない理由とは?
ゼロトラストセキュリティの潮流の中で、多くの企業がZTNA(Zero Trust Network Access)を導入し始めています。
そのとき必ず出てくる疑問がこちら:
「VPNの代わりにZTNAを導入すればいいですよね?」
確かにZTNAは、従来のVPNが抱えていた課題(境界防御依存・横展開リスク・運用負荷など)を解消できる技術です。しかし、ZTNAは単なるVPNの置き換えではありません。
ZTNA導入に失敗する組織の多くは、VPNの設計思想をそのままZTNAに持ち込んでしまうことで、本来のゼロトラストのメリットを活かしきれずに終わってしまいます。
本記事では、VPNからZTNAへの移行時によくある失敗パターンを3つに整理し、失敗を避けるための具体的な設計ポイントを解説します。
🔄 VPNとZTNAの本質的な違い
観点VPNZTNA信頼の起点ネットワーク接続の確立を信頼ユーザー・デバイス・状態を都度検証し信頼しないアクセス制御の単位ネットワーク/サブネット単位アプリケーション単位アクセス後の可視性接続後は内部ネットワークが見える許可されたリソースのみ見える
ZTNAを“新しいVPN”と見なすと、この根本的な違いが無視され、設計ミスが発生します。
🔄 なぜゼロトラストはランサムウェア対策に効くのか
ランサムウェア対策で重要なのは、「侵入を完全に防ぐこと」ではなく「侵入後に被害を広げないこと」です。
ゼロトラストは、アクセスをアプリ単位で制御することで、侵害が発生しても被害範囲を限定できます。
被害抑制のポイント
ポイント説明横展開を防ぐネットワーク単位で繋がせず、アプリ単位で許可信頼を固定しないユーザー・端末・状態を毎回確認被害を局所化侵害されても影響は許可済み範囲のみ
ゼロトラストは「攻撃を防ぐ仕組み」ではなく、攻撃されても被害を最小化するための設計である。
❌ 失敗パターン1:ZTNAで「社内ネットワーク丸ごと」許可してしまう
💥 起きがちな現象
VPN時代と同じ感覚でサブネットごとZTNAに許可「まず繋がるように」と広範囲を通してしまう結果としてZTNAが「VPN 2.0」状態に
⚠ なぜ失敗する?
ZTNAはアプリ単位のアクセス制御に価値があり、ネットワーク全体を許可すると:
最小権限が崩れるポリシーが複雑化し運用不能にセキュリティ例外が常態化
✅ 回避策
公開単位をアプリケーション/サービスレベルに限定最初は社内Webアプリ(HTTP/HTTPS)からZTNA化すると導入しやすい「入れる」ではなく「必要なものだけ通す」思想を徹底
❌ 失敗パターン2:「VPN時代のIP制限」をZTNAに持ち込む
💥 起きがちな現象
社内IP以外を拒否する設計をそのままZTNAに適用ZTNAユーザーに固定IPを割り当てて制御
⚠ なぜ失敗する?
ZTNAはIdentity(ユーザー)とDevice(端末)がコアです。IPベース制御は:
NATやProxyで不安定複数ユーザーで共有されやすい攻撃者に悪用されるリスクも
→ IP制限中心では、ゼロトラストではなく境界防御の延命になってしまいます。
✅ 回避策
ZTNAでは、以下の指標を主軸に制御するべきです:
ユーザー属性(部署、役割、グループ)多要素認証(MFA)端末の準拠性チェック(セキュリティ状態)
IP制限はあくまで補助的な制御に留めましょう。
❌ 失敗パターン3:「VPNの常時接続体験」をZTNAに期待してしまう
💥 起きがちな現象
VPNと同じように「常時接続で社内全体にアクセス可能」にしたくなるユーザーが「ZTNAは遅い」「面倒」「結局VPNの方が楽」と感じてしまう
⚠ なぜ失敗する?
ZTNAはアクセスごとに都度認証・端末チェック・ポリシー検証が入ります。
この挙動が「VPNのような常時接続モデル」とは相容れず、ユーザー体験の期待値設計に失敗すると形骸化します。
✅ 回避策
「VPN置き換え」ではなく用途ごとに再設計常時接続の代わりにSSOやシームレス認証で利便性確保例外ルールは最初から設計・棚卸し・KPI化
🧠 まとめ:ゼロトラストは「被害を最小化する設計思想」
ZTNAはVPNの単なる代替技術ではありません。その本質は、ネットワークではなくアイデンティティとコンテキストを基点にアクセスを設計する「ゼロトラスト」という思想にあります。
特にランサムウェアのように侵入後の横展開が前提となる時代においては、侵害を完全に防ぐことよりも、被害を最小化する設計が重要です。
ZTNAは、攻撃を防ぐ魔法ではなく、侵害が発生しても影響を局所化するためのアーキテクチャと言えるでしょう。