2025年5月30日、京都大学 学術情報メディアセンター 南館4Fにて、「第4回 京大ミートアップ supported by GMO」が開催されました。このイベントは、京都大学 首藤研究室とGMOインターネットグループが共催し、アカデミアとビジネスの垣根を越え、AI・ブロックチェーン・サイバーセキュリティなど先端テクノロジーの「実践知」を学ぶことを目的としています。
今回は、こちらのイベント開催レポートをお届けします。
目次
イベント概要
【セキュリティ×先端研究】第4回 京大ミートアップ supported by GMO
先端研究を社会に届ける: サイバーセキュリティの先駆者からのメッセージ
日時:2025年5月30日(金)17:30~20:20
場所:京都大学 学術情報メディアセンター 南館4F
参加費:無料(学生限定、学生証提示あり)
形式:現地+オンライン配信、懇親会あり(飲食提供)
https://kmu.connpass.com/event/352727/

Session1:「準同型暗号の研究動向」松岡 航太郎 氏(京都大学大学院)
松岡氏は、京都大学 情報学研究科 博士課程に在籍しつつ、セキュリティ・キャンプ開発コースのプロデューサーも務める若手研究者です。今回の講演では、「準同型暗号(Homomorphic Encryption)」の本質と研究トレンドについて、理論から応用、実装、高速化まで幅広く解説しました。

暗号学とは何か?から始まる本質的な問いかけ
暗号学は「信用を代替する手段」を設計する学問であり、暗号技術は「信用のコスト」を定量化する道具になるという本質的な視点から導入。
- 準同型暗号とは、暗号文のまま加算・乗算等の演算ができる暗号方式。
- 秘匿計算(secure/private computation)の文脈において重要な技術であり、「暗号化されたまま計算できる」特性がクラウド計算・プライバシー保護に役立つ。
- 準同型暗号の分類として、「部分準同型暗号」「レベル付き完全準同型暗号(LHE)」「完全準同型暗号(FHE)」を紹介。
実用事例
Microsoftの「パスワードモニター」、Appleの「迷惑電話通知(Caller ID)」「画像ベースの検索(Enhanced Visual Search)」などに実際にFHE技術が応用されている事例を紹介。
技術的な課題と最先端の研究
課題1:スピード(10の8乗遅い)
課題2:利便性(限られた演算しか扱えない)
課題3:安全性(ノイズの蓄積など理論未解明な部分)
高速化のためのハードウェアアプローチ(FPGA、アクセラレータ)についても言及。DARPAによる512並列の演算機など、最先端のプロジェクトも紹介されました。
まとめ
完全準同型暗号は「信用のない世界で信頼を構築する手段」として急速に進化していることを知りました。応用の現場と研究開発の現場が結びつくことで、社会実装の加速が期待されます。松岡氏の講演は、参加者にとって難解な理論を日常的な応用と結びつけて理解するための「道しるべ」となりました。
資料はこちらから
https://nindanaoto.github.io/pdf/Kyodai-MeetUp.pdf
映像はこちらから
Session2:「秘密計算の紹介とIETFでの標準化動向」酒見 由美(GMOサイバーセキュリティ byイエラエ)
GMOサイバーセキュリティ byイエラエでセキュリティアーキテクトを務める酒見は、GMOインターネットグループを代表するセキュリティ領域におけるエキスパートという肩書も持ちます。「暗号のおねぇさん」としても親しまれている実務家研究者である酒見は、研究から社会実装へと広がる“秘密計算”の技術と、国際標準化団体IETFでの活動をテーマに講演しました。

秘密計算とは?
データを秘匿化したまま 統計処理などの計算処理ができる技術で、プライバシー保議と利活用を両立 。
この講演では、秘密計算の応用として、不正送金検知やクレジットカードの不正利用検知などへの応用 が期待される、プライバシー保護連合学習技術に注目します。この技術では複数組織が機密情報を開示せずに共同でAI学習・分析を安全に実現します。
社会実装に向けた取り組み
- SIP国プロにおいて、「プライバシー保護連合学習」の社会実装を推進。
- 各銀行での機械学習の結果に対して準同型暗号化を行い、中央サーバーで復号せずに統合・学習できる仕組みを紹介。
- GoogleのFederated Learning技術を応用し、準同型暗号を加えることでより安全な仕組みに。
普及への壁と可視化アプローチ
「暗号=難しい」「導入が大変」という心理的障壁を超えるため、産総研の「物理的暗号教材」やストーリーベースの学習動画を紹介。
恋愛リアリティショーを題材にした秘密計算の可視化例は、多くの学生参加者に刺さったのでは?!
IETFでの標準化活動
酒見はインターネット標準団体IETFにも積極的に参加。秘密計算のRFC(技術標準文書)化を目指し、インターネットドラフトを提出。IETFは誰でも参加可能なオープンな場であり、研究成果のグローバルな普及に貢献できる重要なチャンネルといいます。
まとめ
暗号技術の研究成果を社会実装につなげるためには、「技術・品質・ユーザー理解」の3軸が重要。
参加者には、研究・標準化・実装までを一貫して牽引する酒見の姿勢に感銘を受けたという声も多数ありました。
映像はこちらから
Session3:「コンピュータサイエンス研究を事業を通して世の中に届ける」竹迫 良範 氏(神山まるごと高専 教授)
Web開発技術やセキュリティを軸に、日本のエンジニア文化を支えてこられた竹迫氏が「技術と社会の橋渡し」をテーマに講演を行いました。

研究と事業をつなぐR&Dの実践知
- 長年の研究開発経験をもとに、エンジニアとしてどのように研究成果を事業に変えてきたか、具体的なR&D活動のサイクルや手法を紹介。
- 「技術を社会に届ける」には、単なるプロダクト化ではなく「事業を通じて新しい価値を多くの人に届けること」が重要であると強調。
技術キャズムとハイプサイクルの乗り越え方
新技術の普及には“キャズム”と呼ばれる断絶がある。その橋をどう架けるかを、キャズム理論・ガートナーのハイプサイクル・リボンモデルなどの理論を交えて解説しました。テクノロジーが実用レベルに至るまでの「死の谷」をどう乗り越えるかが、R&Dとプロダクトチームの鍵になると示唆しています。
事例紹介とOSS・データ公開の力
量子アニーリング、変分量子アルゴリズム、推薦システムなど、先進的な研究成果をどのように社会に還元してきたか、リアルな事例を交えて紹介。OSS公開、オープンデータ化、産学連携によって、研究成果の価値が“広がり”を持つことを強調しました。
エンジニアの未来を語る
エンジニアは単に技術を開発する人ではなく、「価値を届ける人」であるべき。
神山まるごと高専での教育実践を通して、次世代エンジニアに「技術×ビジネス×社会貢献」を伝える役割も担っていると語りました。
まとめ
「社会に届ける」というキーワードが、イベント全体の通奏低音であったことを強く印象付けるセッション。研究者、エンジニア、教育者という3つの視点から、“届ける技術”へのヒントが凝縮された講演でした。
映像はこちらから
懇親会
この後は会場に訪れてくださった学生さんを交えての懇親会が行われました。
3名の登壇者の方に、実際の現場でのお話を聞いたり今後のキャリアを相談したり、活発なコミュニケーションが行われていたように思います。
研究室以外の学生との交流があまりないということも聞き、学生同士の交流もとても貴重な機会になったのではないでしょうか!


さいごに
京大ミートアップは、年に2回、6月と12月ごろを目安に開催しています。
単なる講演イベントにとどまらず、「研究×実装×キャリア」の交点を体験できる場として、学生への学びを提供してまいります。次回も「アカデミアと実務をつなぐ場」として進化し続ける京大ミートアップにぜひご注目ください!

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