テスト業務の属人化を防ぐためのアプローチ

この記事は GMOインターネットグループ Advent Calendar 2025 2日目の記事です。
GMO TECHホールディングス株式会社の陳です。
テスト業務における属人化がもたらすリスクや影響、属人化を防ぐ対策について記事を書きました。

1. テスト業務の重要性と属人化の現状

ソフトウェア開発におけるテスト業務は、プロダクトの品質保証に不可欠なプロセスです。
新機能の実装確認やバグ修正後の検証、システム全体の品質評価など、迅速かつ正確なテストの実行は、顧客満足度の向上や市場での競争優位性を支える要となっています。
しかし、多くの現場ではテスト業務が特定の担当者に依存し、属人化が進んでいる現状があります。
業務知識やノウハウが個人の頭の中に留まり、文書化や標準化が進んでいないため、担当者が不在の場合にテスト工程が滞る、または品質にばらつきが生じるといった重大なリスクが発生します。
たとえば、テスト運用が特定の担当者に依存していた場合、担当者の退職や異動により関連知識(ナレッジ)が失われ、結果的に同品質のテストが行えなくなるケースが少なくありません。

本記事で解説するテスト業務の属人化は、以下の複数の要因が重なり合うことに起因しています。

  • 知識・スキルの偏在
  • 文書化・情報共有の不足
  • プロセスの非標準化

結果として担当者の異動時や不在時に、テストが遅延または一部停止するリスクがあるという点です。
本記事では、以下の主要な構成に沿って、詳細な分析と対策を順を追って解説します。

  • 特に属人化が発生しやすいテストタスクの詳細
  • 評価基準の不統一
  • 属人化を防ぐための対策(業務手順の標準化、ナレッジ共有、ローテーションなど)

2. 属人化を招く主な原因

テスト業務が属人化する背景には、以下の主な要因があります。

  • 知識・スキルの偏在
    特定の担当者のみがテストケースの作成、バグ修正時のテスト対応を担当しているため、業務全体の知識が一部に集中しています。これにより担当者の退職時や異動時にテスト業務の継続性が損なわれるリスクが高まります。
  • 文書化・情報共有の不足
    テスト方法や手順、評価基準が明確なマニュアルや手順書として文書化されていない場合、担当者個人の持つ知識は他のメンバーに伝わりません。結果として、後任者が同等の品質でテスト作業を遂行することが困難となります。
  • プロセスの非標準化
    各メンバーが自分のやり方で業務を進めると、テストプロセスにばらつきが生じ、品質の一貫性が確保されなくなります。また、基準や評価指標が曖昧なため、テスト結果の分析にも大きな差が生まれます。

組織に与える影響
属人化は単に担当者の負担増や業務の非効率化だけでなく、組織全体の品質やリスク管理に深刻な影響を及ぼします。

  • 業務効率の低下と停滞
    特定の担当者が不在の際、とくにバックアップ体制や自動化が未整備な環境では、テスト作業が遅延または一部停止するリスクが高まり、プロジェクトの進捗に影響し得ます。
  • 品質のばらつき
    担当者ごとにテストの基準や手法が異なるため、プロダクトの品質に一貫性がなくなり、結果的にユーザーの信頼が損なわれる可能性があります。
  • ナレッジの散逸
    属人化により、知識やノウハウが個人に集約され、退職や異動によってその貴重な情報が失われるリスクがあります。

対策の要点
属人化のリスクを解消し、業務の持続可能性を高めるためには以下の対策が必要です。

  • 業務手順の標準化と文書化
    テストプロセスを明確な手順書やチェックリスト、報告テンプレートなどを用いて文書化し、全メンバーが随時参照できる環境を整える必要があります。
  • 定期的なレビューとナレッジ共有の実施
    チーム内で定期的にレビュー会議や勉強会を開催し、担当者間で知識や経験を共有することが重要です。
  • 運用ローテーション
    特定の担当者に知識が集中しないよう、ローテーション制度を導入し、チーム全体のスキル向上を図ることが必要です。

3. 属人化が起きやすいテストタスクの詳細

テストケースの作成・更新の問題点
テストケースの作成や更新が特定の担当者のみで行われている場合、その背景には、特定の担当者へ経験と技能が集中するという問題があります。

【問題点】

  • 知識の偏在:テストケースの意図や背景が担当者個人の経験に依存しており、他のメンバーが同等の理解をすることが難しい。
  • 更新の遅延:担当者の業務負荷が高くなると、テストケースのアップデートが滞り、最新のプロダクト仕様や改修内容に追従できなくなる。
  • 網羅性の不足:担当者の判断に依存しているため、テストケースの範囲が偏り、あらゆるシナリオを網羅できなくなるリスクがある。

これらの問題は、ドキュメント整備不足と連動して、後工程でのバグ見逃しや再発防止策の不備につながります。

バグ修正時のテスト対応のリスク
バグが発生した際の修正後テストは、担当者に依存した形で実施されがちです。

【リスク】

  • 再発防止策の抜け漏れ:各バグ修正毎に、担当者の経験により対応が個別化されるため、同様の問題の再発を防ぐための一貫した対策が欠如しがちです。
  • テスト漏れ:修正に伴う影響範囲の全体把握が不十分な場合、関連機能のテストが抜け落ち、システム全体に不具合が残る恐れがある。

テスト結果の分析・報告の課題
テスト結果の報告や分析も、属人化の影響を受けやすい業務のひとつです。

【課題】

  • 報告形式の不統一:各担当者で異なる形式・基準により報告が行われるため、数値や評価の信頼性にばらつきが生じる。
  • 主観が入りやすい:個人ごとの解釈や取り組み方によって、同じテスト結果でも評価に差が生じ、客観的な改善策が採用されにくくなる。

4. 評価基準の不統一とその影響

評価・合否判断基準の不統一とその影響
テストにおける評価基準や合否の判断が各担当者でばらつくと、プロダクトの品質に大きな影響を及ぼします。

【影響点】

  • 品質のばらつき:担当者ごとに異なる評価基準を用いることで、同一のテスト結果でも合否判断に違いが出るため、全体的な品質が不安定になります。
  • 顧客満足度の低下:評価基準が統一されていないと、テスト結果の信頼性が低下し、顧客からの信頼を失う可能性が高まります。
  • 改善の優先度の曖昧さ:どの基準に基づいて改善が必要かが明確にならず、リソース配分や対策の策定が困難になります。

5. 対策の詳細

属人化の解消に向け、対策の方向性を検討することが重要です。
ここでは、取り組むべき対策の類型をいくつか紹介します。

業務手順の標準化と文書化

  • 手順書やマニュアルの作成
    テストプロセス、テストケースの作成方法、バグ修正後のテスト手順、報告フォーマットを標準化したマニュアルを作成します。
  • ナレッジベースの構築
    過去のテスト結果、バグ対応の事例、改善策などを収集したナレッジベースを社内ポータルやWikiとして構築し、チーム全体で情報を参照できるようにします。

定期的なナレッジ共有とレビューの実施

  • 定期的なレビュー会議の開催
    テスト工程の定期レビューおよび振り返り会議を実施することで、業務上の課題や属人化の兆候に早期に気付き、改善策を全員で検証します。
  • 勉強会や計画的なトレーニングの実施
    テストツールや新しいテスト技法に関する内部勉強会やワークショップを定期的に実施し、計画的なトレーニングを行います。これにより、最新のノウハウを全メンバーで共有し、スキルレベルの底上げを図ります。

組織内での担当業務ローテーションの推進

  • ローテーション制度の導入
    自動化ツールやテスト管理ツールの設定や運用、あるいは特定の複雑な機能領域のテスト担当など、特定の担当者に依存させないため、定期的に担当業務をローテーションします。

これにより、全メンバーが同等のスキルを持つようになり、担当者不在時でもスムーズな業務遂行が可能となります。

6. まとめ

テスト業務の属人化は、単に担当者の個々のスキルに依存するだけでなく、業務の停滞、品質のばらつき、さらには知識の散逸という重大なリスクをはらんでいます。
これらの問題は、特にシステム開発の複雑化と市場の変動が激しい現代において、組織全体の競争力低下につながる可能性があります。
本記事で紹介した改善策は、以下の3点に集約されます。

  • 業務手順の標準化と文書化
    全メンバーが同じ手順で作業を遂行できる環境を整えることで、属人化による品質のばらつきを防ぎます。
  • 定期的なナレッジ共有とレビューの実施
    組織内での情報共有を促進し、継続的な改善と共同作業を通じて業務の透明性と信頼性を高めます。
  • 組織内での担当業務ローテーションの推進
    特定の担当者に依存しない体制を構築するため、ローテーション制度で全体のスキル向上を図ります。

標準化されたプロセスと効率的なナレッジ共有体制は、業務の効率向上に資します。
また、手順の再現性とレビュー容易性の向上を通じて品質保証への寄与も期待できます。

ブログの著者欄

ながまさ

GMO TECHホールディングス株式会社/システム本部/品質管理グループ

品質管理グループでQCを担当しています。 UX改善の提案と、検証・テストを推進しています。

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