GMOインターネットグループ株式会社・グループ研究開発本部のA.T.です。今回は、ラスベガスで開催されたCES 2026の現地視察より、特に熱気を帯びていた「ロボティクス関連企業」の展示を中心にご紹介します。
なお、出発前の事前調査については、こちらの記事(事前調査編)をご覧ください。
目次
はじめに:CES 2026で感じた潮流
今回のCESで特に強く印象に残ったのは、「フィジカルAI(Physical AI)とロボティクスの接続が、一気に“実装フェーズ”へ進みつつある」という点でした。
会場を歩いて感じた全体的なトレンドは以下の通りです。
- VLA(Vision-Language-Action)の一般化
IK(逆運動学)で事前に作り込んだモーションを見せる展示から、VLAモデルを前提に「認識して、その場で判断して動く」展示へと、明確に軸足が移っているように見えました。
- 業界ごとに異なる参入の文脈
家電メーカーは「スマートホーム」の延長として、産業系メーカーは「省人化・自動化」の延長として参入しており、同じヒューマノイドでも“解くべき課題”が異なることが際立っていました。
- グローバル競争の加速
米中に加え、韓国やシンガポール企業の存在感が増していると感じました。一方で、日本企業のロボティクス領域でのプレゼンスは、会場全体ではやや控えめに見えました。
1. NVIDIA:フィジカルAI開発の「基盤」を押さえる戦略
ロボティクス開発において、NVIDIAの存在感は別格でした。
多くの企業が、シミュレーションや学習・評価の基盤としてNVIDIAのエコシステムを前提にしており、ハードウェア開発企業が「いかにこの基盤の上で開発ループを回すか」が、開発スピードを左右する段階に入っていると感じました。
特に、ロボット開発が「機体を作る」だけでなく、データ → シミュレーション → 学習/評価 → 実機展開を反復して成熟させるプロセスになっている以上、この“反復の速さ”を支える基盤の重要性は今後さらに増していくはずです。

2. 家電メーカーの参入:LG, Hisense
「規格化されていない環境」への挑戦
家電メーカー勢は、家電がAIによってスマート化していく文脈の中で、個人に最適化されたサービスを提供するインターフェースとしてヒューマノイドを位置づけているように見えました。
LG:生活に溶け込む「LG CLOiD」
LGはAI搭載ホームロボット「LG CLOiD」を発表し、洗濯機へタオルを投入するデモなどを披露していました。
工場とは異なり、家庭内は環境が規格化されておらず、タスクに「正解」がありません。
- 散らかった部屋の認識
- 人や家具を傷つけない安全性
- 住人とのHRI(Human-Robot Interaction)
LGはこれらの課題に対し、単なる家事代行だけでなく、声かけや状況理解といった「生活に溶け込む体験設計」を重視している点が印象的でした。

Hisense:家電メーカーが“ヒューマノイド”を持つ意味
Hisenseブースでは、ヒューマノイドロボットの展示が見られました。デモの詳細までは確認できませんでしたが、家電メーカーがヒューマノイドを「次のインターフェース(家の中の“動く端末”)」として捉え始めている兆候として興味深いと感じました。

3. 産業用メーカーの進化:Boston Dynamics, NEURA Robotics
「魅せる」から「使える」へのシフト
Boston Dynamics:役割分担が成立している強さ
Boston Dynamicsは新型Atlasを披露していました。かつてのようなパルクールによる運動性能アピールから一転し、車両組立など「現場でいかに使えるか」に焦点を当てたデモへ移っているように見えました。
特筆すべきは、エコシステムとしての“役割分担”が見えやすい点です。
- 機体:Boston Dynamics
- AI:Google DeepMind
- 実証フィールド:Hyundai
この分担がうまく機能すれば、単体のロボット性能だけでなく「現場導入までの距離」を縮められる可能性があり、ロボティクス企業が目指すべき一つのモデルケースを示しているように感じました。

NEURA Robotics:実タスクに寄せた“堅実な前進”
NEURA Roboticsは新型「4NE1」を披露し、NVIDIAとの協調も強く打ち出していました。
また、衣類の仕分けのような実タスクを想起させるデモがあり、動作速度はゆっくりながらも、外乱への耐性や実運用を意識した堅牢さを感じました。

4. 新興企業の躍進:Sharpa, Realhand
「実タスク」へのこだわりと技術の可視化
Sharpa:触覚 × 長期推論 × HRI
今回の展示で個人的に最も印象に残ったのが、Sharpaによるデモでした。
派手なバックフリップのような“運動性能”ではなく、以下の要素を同時に成立させる「実タスク」の構成になっていました。
- 紙風車の組み立て:長期的な工程遂行(Long-horizon tasks)
- ブラックジャックのディーラー:マルチモーダル推論+対話
- 自撮り補助:人との関わり(HRI)
手先の触覚制御と、長い工程を理解しながら遂行する推論能力を組み合わせていた点は、実用化への解像度が非常に高いと感じました。

Realhand:技術を「見える体験」へ
セミヒューマノイドを展示したRealhandは、手先の精巧さが際立っていました。
報道でも話題になったピアノ演奏のデモは、技術要素を誰もが直感的に理解できる「体験」に落とし込む好例として参考になります。
5. 依然として強い中国企業:Unitree, EngineAI
圧倒的な運動性能とパフォーマンス
- Unitree:ボクシングデモを披露。運動性能の高さはもちろん、開発者に対して高い自由度を提供している点が強みだと感じました。
- EngineAI:新型「T800」によるデモが目を引きました。注目度は非常に高かった一方で、具体的な用途(Use Case)の着地点については、まだ探索段階に見えました。

まとめ:日本企業はどう戦うか
CES 2026を通して、ロボットは「動くもの」から「考えて働くもの」へと、フェーズが確実に移行していることを実感しました。
VLAモデルの実装が進むにつれ、ハードウェアの差分だけでなく、それをどう制御し、どのフィールド(家庭、工場、接客)に適用するかという「ソフトウェアとUX」の戦いになっていく印象です。
世界中で「百家争鳴」の様相を呈するフィジカルAI市場において、私たち日本の開発者がどのような価値を出していくべきか。大いに刺激を受けた視察となりました。

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