皆様こんにちは。GMOインターネット株式会社の吉田です。
本記事ではVPS基盤におけるCPU選定に焦点を当てて解説します。
サービスのコストパフォーマンスを最大化するために、私たちが普段どのような視点でハードウェアを選定しているのか。スペック表だけでは見えてこない「現場の思考プロセス」を共有できればと思います。
目次
― 利用特性とラック電力制約から導く、環境に合わせた最適なCPU選択
VPS基盤を運用しサービスを継続していく中で、必ず訪れるのが「サーバー増設」のタイミングです。
この際、単に「前回と同じものを買う」のではなく、その時々の利用状況に合わせて最適なCPUを選定することは、サービス品質とコストに直結する極めて重要なプロセスです。
特にVPSサービスにおいては、適切なハードウェア選定によってコストを適正化できれば、その分を「提供価格の引き下げ」や「キャンペーンの実施」といった形でお客様に還元することができます。
本記事では、EPYC 9004シリーズ を題材に、増設タイミングにおける現状分析(プラン利用率)と、8kVA・24台運用(モデルケース) という物理制約を照らし合わせ、どのようにしてその環境における最適解を導き出すか、その選定プロセスを整理します。
1. 増設タイミングごとの利用傾向を分析する
サーバー増設の判断をする際、まず見るべきは「直近のお客様の利用傾向」です。
前回の記事でも触れましたが、VPSの利用傾向(プラン利用率)は期間によって変化します。
A期間/B期間のプラン利用比率(モデルケース)
| プラン | A期間 | B期間 |
| 2GB 3コア | 85% | 60% |
| 4GB 4コア | 10% | 30% |
| 8GB 6コア | 5% | 10% |
このデータから、増設タイミングごとに求められるリソースの特性が見えてきます。
A期間の特徴:CPUリソースが枯渇しやすい
小容量メモリ・多コア割り当てのプラン(2GB・3コアなど)が多いため、メモリよりも先にCPUコアが埋まります。
このタイミングでの増設では、「コア数が多いCPU」 を選ぶことで収容効率を最大化できます。
B期間の特徴:メモリリソースが枯渇しやすい
メモリ容量が大きいプランの比率が増加するため、CPUコアよりも先にメモリが上限に達します。
この状況下でコア数を増やしても余剰となるため、「中コア数+高クロック」 のCPUを選ぶ方が、コストを抑えつつ性能を提供できます。
このように、環境(利用状況)に合わせて「64コア」と「48コア」を柔軟に使い分けることが、無駄のない設備投資への第一歩です。
2. EPYC 9004シリーズの主要4モデルを比較
今回の要件で候補となりうる、AMD EPYC 9004シリーズの主要4モデルをピックアップしました。
なお、最新世代(EPYC 9005シリーズ等)はTDPが上昇傾向にあり、採用するには収容率(台数)の見直しなど、今回とはまた別の視点での検討が必要になります。そのため本記事では、利用特性と物理制約の関係性を整理するための「分かりやすいモデルケース」として、9004シリーズを題材としています。
(※価格は参考用としてUSD表記のままとしています。出典:AMD EPYC™ Server Processors Specifications)
| CPU | コア数 | ベースクロック | TDP | 価格(USD) |
|---|---|---|---|---|
| EPYC 9534 | 64C | 2.45 GHz | 280W | 8,803 USD |
| EPYC 9454P | 48C | 2.75 GHz | 290W | 4,598 USD |
| EPYC 9474F | 48C | 3.6 GHz | 360W | 6,780 USD |
| EPYC 9554P | 64C | 3.1 GHz | 360W | 7,104 USD |
スペックだけを見れば、「高クロックな9474F」や「バランスの良い9554P」も有力な候補です。しかし、ここで 「物理制約(電力枠)」 との整合性を確認する必要があります。
3. ラック電力枠(8kVA)による「333W」の制約
VPS基盤の収益性を高め、お客様へ安価に提供するためには、1ラックあたりの収容効率(集積度)が重要です。 本記事では検証のためのモデルケースとして、「8kVAの電力枠で、1ラックに24台のサーバーを稼働させること」 を前提条件とします。
1台あたりに許容される最大電力(W数)を算出すると、以下のようになります。
設置台数ごとの許容W数(8kVA前提)
| 設置台数 | 1台あたりの最大W数 |
| 24台 | 約 333W |
| 20台 | 約 400W |
| 16台 | 約 500W |
今回のモデルケースで「24台構成」を維持するためのデッドラインは、サーバー1台あたり 333W 以内という数値です。
ここで重要なのは、CPUのTDPはあくまで選定の目安(参考値)に過ぎないということです。 333Wという枠に対し、ファン、メモリ、ストレージなどを含めた 「サーバー全体の実測データ」 がその範囲内に安全に収まるかどうかが、最終的な採用基準となります。
理論値だけでなく、実測データで安全を担保する
「333W」という数字自体は、あくまで 8kVA ÷ 24台 で導き出した理論上の割り当て枠(キャップ)です。 そのため導入前には、CPU単体のTDPを見るだけでなく、システム全体での高負荷試験(ストレステスト)を行い、実消費電力がこの枠内に確実に収まることを物理的に確認しています。また、運用中も電力ログを常時監視・分析し、理論値ではなく「実績値」に基づいて安全性を担保しています。
4. 電力制約による候補の絞り込み
この「333W制限(実測ベース)」を念頭に先ほどのリストを見ると、TDPが高い2つのモデルはサーバー全体の消費電力が枠を超えるリスクが高いため、選択肢から除外されます。
| CPU | コア数 | TDP | 判定 |
| EPYC 9474F | 48C | 360W | ❌ 電力超過のため除外 |
| EPYC 9554P | 64C | 360W | ❌ 同上 |
これらを採用した場合、安全マージンを確保するためにラック搭載台数を20台や16台に減らす必要が生じます。台数の減少はラックあたりのコスト効率を悪化させるため、今回の「24台前提」の要件には合致しません。
5. 最終選考:残った「64C」と「48C」の使い分け
電力制約を踏まえ、最終的に残ったのは以下の2モデルです。
| CPU | コア数 | クロック | TDP |
| EPYC 9534 | 64C | 2.45GHz | 280W |
| EPYC 9454P | 48C | 2.75GHz | 290W |
ここで冒頭の分析に戻ります。
・A期間(CPU重視)の増設時
→ 64コアの EPYC 9534 を選択
・B期間(メモリ重視)の増設時
→ 48コアの EPYC 9454P を選択
このように、増設のタイミングで「今の環境に最適なのはどちらか」を判断することで、「利用特性」と「電力制約」の双方を満たす最適な構成 が実現できます。
6. 1ラックで1,500万円のコスト差と、お客様への還元
適切な選定ができた場合、コスト面でどれだけのインパクトがあるかを試算します。(1ドル=150円換算)
| CPU | 円換算価格(概算) |
| EPYC 9534 (64C) | 約 1,320,000円 |
| EPYC 9454P (48C) | 約 690,000円 |
その差額は、CPU1個あたり 約63万円。
これを1ラック分(24台)に換算すると、以下のようになります。
630,000円 × 24台 = 約1,512万円
もし利用特性(B期間の特徴)を考慮せず、「とりあえずスペックの高い64コアで」と画一的な判断をしてしまうと、1ラックあたり1,500万円以上のコストが余分にかかる計算になります。
逆に言えば、環境に合わせて適切な48コアを選定することで、このコストを圧縮できます。
浮いたコストは、サービス価格の引き下げや、お得なキャンペーンといった形でお客様に還元することができます。これが、私たちがCPU選定にこだわる最大の理由です。
7. メーカー提案の「落とし穴」と「チャンス」
選定の過程では、メーカーから魅力的な新製品の提案を受けます。その際、表面的なスペックや価格だけにとらわれず、サービスの未来を見据えた判断が求められます。
ケース1:「世代が上がってコア数も増えましたが、消費電力も上がりました」
→ 判定:要検討(導入に向けた課題解決へ)
最新世代でのTDP上昇は避けて通れませんが、それによって「24台搭載」が「16台搭載」になってしまえば、ラックあたりの収益性が悪化し、結果としてお客様への提供価格に跳ね返ってしまいます。
TDPを軽視して収容率を下げることは、1台あたりのラックコスト負担増に直結するため、特に慎重な判断が必要です。
しかし、そこで「導入できない」と諦めることはありません。
私たちは新世代の情報をいただいた段階から、すぐに「どうすればこの最新モデルを導入できるか」の検討を開始します。「ラック冷却効率の改善」や「電源設備の見直し」など、受け入れる側の設備を進化させることで課題をクリアし、一日も早い最新技術の投入を目指して準備を進めていきます。
ケース2:「世代が上がった分、価格も上がりました」
→ 判定:工夫を凝らして採用へ(サービスの継続性向上のため)
新世代CPUの導入は、処理能力の底上げや最新セキュリティ機能の提供など、サービスの品質と継続性を高めるために不可欠な投資です。
そのため、「価格が高いから見送る」という消極的な判断は極力避けるべきです。
ではどうするか? ここでこそ「エンジニアリングの工夫」が問われます。
B期間(メモリ重視)において、もし何も考えずに高価な多コアCPUを採用してしまえば、「コア数増=価値ゼロのコスト増」となり、誰も幸せになりません。
今回のように利用特性に合わせてコア数を最適化したり、ラック収容率を限界まで高める設計を行ったりすることで、ハードウェア単体の価格上昇分を吸収しにいきます。
「最新の技術を、変わらない価格で」。この難題をクリアし、新世代を積極的に取り入れていくことこそが、長く愛されるサービスを作るための私たちの使命です。
まとめ
今回の検討プロセスをまとめます。
・増設のタイミング で、直近のプラン利用率(環境)を分析する。
・A期間(CPU比重) なら64コア、B期間(メモリ比重) なら48コアと、柔軟に使い分ける。
・電力制約(TDP 333W) を考慮し、ラック効率を最大化できるモデルに絞り込む。
・新世代CPUは、「サービスの継続性」のために、構成の工夫でコスト課題を克服して採用を目指す。
・適切な選定によるコスト圧縮分は、お客様へのサービス還元 につなげる。
VPS基盤の設計において、CPU選定は単純なスペック比較だけでは完結しません。
「実際の利用環境(ワークロード)」 と 「物理的な制約(電力・スペース)」 の両面から常に最適解を模索し続けること。それが、高品質でコストパフォーマンスの高いサービスをお客様に提供し続けるための鍵となります。
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