GMOインターネットグループのエキスパートをゲストに迎え、全11回の連載でAI活用の事例や取り組み、技術的な展望を深掘りする対談企画「AI TALK」。進行はGMOペパボ株式会社・取締役CTOの栗林(あんちぽ)が務めます。
第1回のゲストは、オリジナルグッズを在庫リスクなしで作成・販売できるオンデマンドECプラットフォーム・SUZURI、ハンドメイド作品のマーケットプレイス・minneを束ねる黒瀧悠太さん。
黒瀧さんはGMOデベロッパーエキスパートとして、GMOインターネットグループ全体のテックブランディング向上にも寄与しています。今回は、事業部におけるAI活用の姿やSUZURI、minneの今後の展望について伺いました。
目次
事業部CTOの役割と、会社を超えた多彩な活動

あんちぽ
今日は記念すべき第1回目のゲストとして、GMOペパボの黒瀧さんにお越しいただいております。 簡単に自己紹介をお願いします。

黒瀧
はい、よろしくお願いします。GMOペパボ株式会社のSUZURI、minneの2つのサービスで事業部CTOを務めている黒瀧です。またGMOインターネットグループのエキスパートもやっておりまして、IPA未踏ターゲット2年連続採択(リザバーコンピューティング×WebAssembly)、IEEE MEMS 2025への登壇など、事業と研究の両輪を回しております。

あんちぽ
黒瀧さんはエキスパート何年目ですか?

黒瀧
今年で4年目ですね。0期生からやってます。

あんちぽ
黒瀧さんはGMOペパボでは「事業部CTO」という肩書ですよね。各事業部をひとつの会社と見立てたときに、CTOの目線で技術面を牽引してほしいという意図で設けたポジションです。事業部の中で、具体的にはどんなことをされていますか?

黒瀧
SUZURI、minneの2つの事業部で、技術面の責任を持ちつつ、事業を運営する中で出てきた課題を技術・非技術の両面から解決しています。

あんちぽ
社外での活動もいろいろされていますよね。

黒瀧
まず、日本CTO協会で幹事をしています。会社の枠を超えて日本全体のエンジニア育成を推進する場を提供しており、合同研修の企画や、エンジニアとしてキャリアを積んでCTOになった方の話を聞けるイベントの運営などを行っています。
また、2023年・2024年に私の提案したプロジェクトがIPAの未踏ターゲット事業に採択されました。リザバーコンピューティングの社会実装に向けた研究開発も行っていて、小さな計算資源で時系列データを学習・推論できる手法を、WebAssembly化することでPWA(Progressive Web Apps)で動かしています。
ユーザーの行動時系列をその場で取り込みながら学習・推論し続ける体験を作り出すべく、ユーザーが介在しながらどこでも機械学習の恩恵をうけることができるアプリを作りました。
そのつながりで、小学生から中高生までが参加する若い世代向けのプログラム「未踏ジュニア」にも関わっています。GMOインターネットグループがトップスポンサーを務めている事業なので、発表会で審査員を務めたり、学生の皆さんと交流したりしています。
研究活動としては先ほど挙げたもののほかに、ウェアラブルデバイスの研究もやってますね。ストレッチャブルセンサ × 機械学習をテーマにしています。グローブ型デバイスで口唇周囲の筋電位を取り込み、機械学習で発話認識を行うというものです。機械を操作したり、人とコミュニケーションを取ったりするようなデバイスを、AIと統合する形でゼロから作るという内容です。この研究については、台湾で開催されたIEEE MEMS 2025で発表しました。

あんちぽ
本業のWebアプリ開発を中心に、本当に幅広くやっていらっしゃいますね。
画像チェック自動化とインフラコスト最適化で守る「マーケットの健全性」

あんちぽ
AIを活用して、組織やサービスとして大きな成果が出たトピックはありますか?

黒瀧
SUZURIを例にとると、企業ロゴの無断使用や著作権侵害にあたる画像がアップロードされていないかを、工場へ発注する前に確認するという工程を効率化しました。
以前はカスタマーサクセスのメンバーが、購入された商品の画像を1件ずつ複数人で目視チェックしていました。これをAIで自動化したところ、1人あたり1日90分ほどかかっていた作業が10分の1以下になったんです。週にすると6〜8時間の削減に成功しました。

あんちぽ
大幅な省力化ですね!すり抜けが出ないかが気になりますが、実際どうですか?

黒瀧
AIが確信度をランク付けしていて、明らかにNGなものは自動で処理しますが、グレーゾーンのものは最終的に人間がチェックする形で運用しています。
悪気なくアップロードした場合は勝手に止めて終わりにするのではなく、本人にメールで連絡します。「これは自分が権利を持っている」という確認が取れればOKとするルールです。
メールの文面作成にLLMを使うと細かいテキストが大量に出てきますが、そのまま送っても伝わらないので、クリエイターさんが次のアクションを取れる粒度に調整しています。こうしたフィードバックのわかりやすさも工夫した点ですね。

あんちぽ
マーケットの健全性を保ちつつ、クリエイターの創造性を間接的に支えるためにAIで作業を省力化し、浮いた時間をクリエイターとのコミュニケーションに充てるというのは素晴らしい活用だと思います。

黒瀧
他にもLLMを使い、アクセスログやレイテンシ・エラーバジェットといったSRE的な目標値を統合的に分析して「ここ減らせますよ」とコンサル的に提案してもらう仕組みを導入しました。
もともとSREとしてレイテンシーの目標を設定して監視しているのですが、SUZURIやminneはアクセスが多く、画像合成サーバーだけでも何十台と動いています。目標を達成している裏で、サーバーが増えすぎてコストがかさんでいたため改善する必要があったんです。
以前はエンジニアが手動でアクセスログやインフラコストを照らし合わせてコストパフォーマンスを判断していましたが、夜間は見られませんし、他の業務があると抜け落ちることもありました。
今では適切なコストを保ちつつ、ユーザー体験は損なわない運営手法へと改善されましたね。運用改善のやり方をAIが人間に教えてくれるみたいで、これまでにない働き方だなと。そこはすごく便利になった部分ですね。

あんちぽ
パフォーマンス目標の達成とコスト削減は相反しがちですが、AIに両面を見せることで両立できるようになったということですね。具体的にはどのくらい改善しましたか?

黒瀧
画像合成サーバーのKubernetesポッド数を、平常時で80〜90から約40に削減できました。パフォーマンス目標を達成しつつ、リソースをおよそ半分にできたことになります。コストはポッド数ほど綺麗に半分にはなりませんが、だいぶ減らせましたね。
SUZURIは大量の画像を処理するサービスですから、半分近く減らせたのは年間数百万規模の大きなインパクトだと思います。
エンジニアの役割変化がもたらした「新たなボトルネック」

あんちぽ
話は変わりますが、今やコーディングAIエージェントをみんなが当たり前に使う時代になりましたよね。こうした状況で、エンジニアの役割も変わってきましたか?

黒瀧
変わらない部分と大きく変わった部分があるととらえています。以前はコードを自分の手でタイピングしながら設計を考えていましたが、今は自然言語でAIと壁打ちし、実装を複数のAIエージェントに並行して依頼するスタイルになりました。
たとえば10個のエージェントに同時にタスクを振って、先に終わったものからレビューして追加指示を出し、最後にリリースの意思決定をする。エンジニアがAIエージェントのマネージャーのようになってきたと感じています。

あんちぽ
黒瀧さんは事業部CTOとして、エンジニアのマネジメントもしていますよね。人のマネジメントとAIエージェントのマネジメントはどう分けているんですか?

黒瀧
チームメンバーに対しては、プロダクトや事業を伸ばすセンターピンの見極めに集中してもらっています。社外のキーパーソンに会いに行くなど、まだAIにはできないことに注力してもらいつつ、それ以外の部分はAIエージェントを活用してもらう形です。具体的には表示変更やロジック修正、バグ調査といったタスクはAIエージェントの領域ですね。
インシデント対応も変わりました。以前は人が集まってそれぞれにログ調査・問題解決・関係者への連絡と役割を振っていましたが、今はAIエージェントがまずログ調査を開始してエラー状況を報告してくれます。人間はインシデントハンドラーとして意思決定とハンドリングに集中し、調査や修正はAIエージェントに指示する形です。

あんちぽ
なるほど、面白い変化ですね。こうした変化の中で新たに出てきた課題はありますか?

黒瀧
今までボトルネックではなかった部分が詰まるようになりました。たとえばリリースフローでは、以前は1人1日に数個だったプルリクエストが、AIエージェントの活用で1人10個ほど出せるようになりました。しかしSUZURIほどの規模のサービスになると、テスト・ステージング確認・承認・デプロイまで含めて1回のリリースに30分以上かかります。
10人のチームなら1日100個のプルリクエストを出せるわけですが、直列に処理すると100個では到底さばけません。翌日にはまた100個出てくるので、どんどん溜まっていく一方になるんです。

あんちぽ
30分×100個だと到底1日では終わらないですね。

黒瀧
これもAIエージェントに相談しながら解決を進めていまして、各工程の高速化に加え、複数のプルリクエストをまとめて1回のリリースにする方法を取り入れました。
またAIエージェントは24時間働けるので、夜間にプルリクエストのテストや作成を進めてもらっています。朝出社したらAIがアウトプットしたものをリリースブランチに入れて、ボタンひとつでデプロイするという仕組みも作っています。

あんちぽ
人間前提のワークフローではもう立ち行かないから、AIエージェント前提でワークフローそのものをゼロベースで見直すというのは、どの会社も直面しているホットな課題ですよね。
そのうえでエンジニアをどのような方向で育成するのかというのも、企業を問わない共通の課題のように思います。
GMOペパボでもAIエージェントを前提としたサービスをどんどん提供していますが、AIが当たり前になった時代に入ってくる若い世代の育成も変わってきていますか?黒瀧さんは新卒エンジニアの合同育成にも取り組んでいると伺いましたが、その立場から見えるものもあるでしょうか。

黒瀧
合同エンジニア研修を3年ほど企画していまして、毎年100名を越える方々に参加いただいていますが、初年度と今年ではまったく状況が違いますね。
カリキュラムこそ変えていませんが、これまでは困ったらまず調べてから人に相談するといった試行錯誤がエンジニアの学びでした。しかし今はAIエージェント前提になっていて、わからないことがあればまずAIに聞くのが当たり前です。
CTO協会で行う研修の最後にはチームでWebサイトのパフォーマンスチューニングを競う「合同ISUCON研修」を実施しているのですが、AIを使って過去のパターンを学習し、当日も未知の問題にAIを活用して高得点を叩き出す方がいました。
サービスを運営するにしろ、新規で何か作るにしろ、常にエンジニアの近くにはAIがいます。AIを活用できないとこうしたスピードに追いつけないと思っているので、AI活用はもはや「前提」になってくるかなと思ってますね。
AIエージェント「前提」のサービスを提案

あんちぽ
最初からAI前提で使いこなしてくる世代は、時にベテランも敵わないスピードで問題を解決していくので、新しい世代がそれぞれに面白いエンジニアに育っていく期待がありますね。そうした変化の中で、事業部としての展望も聞かせてください。

黒瀧
今後はエンジニアだけでなく一般の方もAIエージェントを活用するようになると見ています。ECサイトで自分が商品を選んで購入するという買い物の姿も、将来は「この予算で、この日までに揃えておいて」とAIエージェントに頼めば、エージェントが提案・購入してくれるようになるでしょう。
我々のようなECプラットフォーム側としては、AIエージェントが買い物できるようにAPIやリモートMCPサーバーを整備する必要があると思いますね。SUZURIとminneでも対応が必要だと考えています。

あんちぽ
これまでWebブラウザやアプリ経由で人が直接買っていた「面」が変わり、AIエージェントが代理で探して買ってくれる未来が来そうですよね。その未来に対して先手を打ってキャッチアップしていくという意気込みを感じました。最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

黒瀧
SUZURIやminneでは、より多くのクリエイターの方に活用していただけるよう、AIを使った提案をもっと増やしていきたいと思います。GMOインターネットグループのエキスパートとしては、事業サービスとは別の軸で、GMOインターネットグループが推進するフィジカルAIやロボティクスにも取り組んでいきます。
私の専門であるデバイスとAIの統合はロボティクス領域に直接活かせるはずなので、事業でクリエイターをAIで支援しつつ、研究を通じてグループの次の展開を盛り上げていきたいと思っています。

あんちぽ
AIエージェント前提のサービス開発と、研究や未踏で培った技術を活かしたフィジカルAIへの挑戦。ますますGMOインターネットグループの技術が面白くなりますね。黒瀧さん、本日はありがとうございました。

黒瀧
ありがとうございました。
まとめ
GMOインターネットグループでは「AI&ロボティクスで未来をつくるNo.1企業グループ」というコンセプトを掲げています。AIやフィジカルAIへの取り組みをグループ一丸となって進めるなか、黒瀧さんのようなエキスパートはこうしたAI活用を推進するだけでなく、活用した結果を出すという点でグループ全体を引っ張っていく存在です。
実際に2026年3月の社内調査では、グループ全体の生成AI業務活用率は97.8%に達し、一人あたり月間53.9時間の業務時間削減を実現。グループ約8,000名の合計では、35.2万時間の削減に成功しました。
GMOインターネットグループでは、今後もAI活用を進めながらクリエイターの皆様の創造性を発揮できる環境づくりを進めてまいります!
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