少し前まではRPAを導入する場合、初期導入で数十万円、月額利用料でも数十万円という費用が必要でしたが、Power Automate ・ Power Automate Desktopを利用することで、月額数千円程度でRPAが利用できるようになりました。ですが、これまでに開発し利用しているRPAが多数に及ぶ場合はなかなか簡単にPower Automate ・ Power Automate Desktopに切り替えるといったことが難しいとも考えられます。
今回はRPA導入に関してこれらコストに見合った効果をいかに発揮してゆくのか、その方法や効果測定の指標、RPAの導入効果について考えてみたいと思います。
目次
RPA導入にかかるコスト
初期導入費用
まずは、RPAを導入する場合どれくらいのコストが発生するのかを見てみましょう。どのようなRPAを導入するかによって金額はさまざまですがある一例ということで考えてみます。
項目 | 金額 | 数量 |
RPA本体 開発用 | 60 万円 | 1 |
RPA本体 実行用 | 30万円 | 1 |
開発費用 (外部委託) | 50万円 | 1 |
RPA実行専用PC | 10万円 | 1 |
こちらの例の場合初期導入費用で150万円となりました。 この例以外でも、販売元からの導入支援費用や、初期設定費用など発生する場合もあります。
運用費用
次にRPAを利用することで必要となる月額費用です。こちらも製品やサービスによってさまざまです。RPA1体につき月々ライセンス費用が発生する場合や、本体費用にこれらが含まれている場合もあります。
項目 | 金額 | 数量 |
ライセンス | 5万円 | 1 |
サポート | 5万円 | 1 |
RPA1体を利用するだけでも10万円ほどの費用が必要となります。稼働するRPAの数が多くなればライセンス必要もそれに伴い追加購入する製品もあります。
教育・研修費用
さらに、RPAを活用するためには利用する側の技術習得も必要となります。独学で開発方法や利用方法を習得することも可能ですが、場合によっては開発セミナーや利用者向け教育プログラムに参加するこが必要となります。
項目 | 金額 | 数量 |
開発者セミナー | 30万円 | 1 |
利用者セミナー | 5万円 | 1 |
RPA技術者採用費用
企業によってはRPA導入を機に専門部署の設立や、RPA開発・運用のための人財を採用することも考えられます。
項目 | 金額 | 数量 |
採用費用 | 20万円 | 1 |
技術者給与 (月額) | 50万円 | 1 |
単純にRPAの購入代金だけでは無く、初月まで含めると数百万円の導入費用が必要となる場合も考えられます。
RPAを導入することによる人件費削減を目指している一方、RPAを開発・運用するために新たな仕事と人件費が発生することも念頭に置いておきましょう。ただし、RPAの中にはMicrosoft365のPower Automate・Power Automate Desktopなどのように月額数千円から無料でも利用できるものがあります。機能と費用を検討した上でこういった低価格のサービスをうまく利用することも導入費用を抑えるコツとなります。
PRA導入への期待
これら数百万円の費用を投じて、企業が期待できる効果を挙げてみましょう。
作業時間の短縮
RPAの導入効果で一番に実感できるのが作業時間の短縮です。一定の規則にしたがってロボットが人に代わって自動的に作業を処理してくれるので、スピードの優位性は当然のこと、多岐に渡る作業も滞り無くこなしてくれます。
生産性の向上
業務時間の短縮に伴い、処理できる仕事の量も格段にアップします。休憩も無く、深夜までもRPAは稼働し続けることが可能です。人の数十倍、数百倍もの処理能力で生産性の向上が期待できます。さらに、作業時間の短縮や単純作業をRPAに置き換えることで、人でしか出来ない仕事や、より創造的な仕事へシフトすることで売り上げアップなどの取り組みが可能になります。
コスト削減
新たに人を採用して業務の処理量を増やすといった取り組みは、RPAの導入に置き換えることができます。採用費、入社に伴う教育費も抑えることができます。業務時間の短縮は人件費など残業コストの削減にもつながります。
人的ミスの回避
RPAで置き換える仕事として多いのが、データの転記です。Excelのデータを基幹システムへ手入力していた業務を自動化するなどです。その際、人が目で見て手で入力といった作業になるのでどうしても見間違いや入力ミスなどが起こりがちです。こういったミス回避のための二重チェックやデータ修正などRPAを活用していれば不要な業務が一掃されます。
属人化の回避
仕事の中にはその人でしか分からないといった業務がいくつか存在する場合があります。その方がお休みでどう処理してよいか分からないなど困ることもしばしば。退職するとなれば代わりの担当者を採用して引継ぎマニュアルを作成しなければなどと、お金も時間も必要となる場合が多く見受けられます。ある程度の業務をRPA導入により見える化することでこういった混乱を回避できます。
労働環境の改善
一日に数百件のデータを画面をじっと見ながら転記するような単純作業を毎日繰り返す業務は人によってはかなりの負担を生じさせます。精神的、肉体的にハードワークとなり得ます。こういった労働環境を改善するといった役割もRPAは担っていいます。長時間労働やストレス過多など職場に潜在的に潜んでいる悪しき労働慣習なども改善できる可能性があります。
RPAの使いどころ
RPA(Robotic Process Automation)はロボットというだけあって人の代わりに何でも仕事を自動的にこなしてくれそうなイメージですが、RPAは得意なことと不得手なことがあります。
得意分野
- 人が行う画面上の操作の代行
- ルールが決められたパターン化された作業
- 繰り返しの反復処理
- 長時間作業
- 複数のシステムを組み合わせた処理など
不得意分野
- あいまいな情報からの判断
- ルールが決められていないもの
- 実行環境が整っていない状況での作業など
これらを踏まえた上でRPAの効果を最大限に引き出せる環境での活用が必須となります。
「パターン化されているけれどもシステム連携など複雑な反復処理を1日に何度も実行する」など、一番の活躍の場となります。
さらに、RPAは必ずしも既存の業務を置き換えるだけのものではないということも覚えておくとよいでしょう。これまでは業務システムなどはプログラミングのできる専門のエンジニアが担当して作りこむものでしたが、多くのRPAはローコードと呼ばれる簡易プログラミングで開発可能です。ローコードの恩恵によりシステム開発という分野のハードルがかなり低くなっています。何か新しい仕組みやシステムが必要となったとき、自分達でそのシステムをRPAで開発することが可能です。
導入体制
RPAはその高額な費用から会社としては専門の部署や人員が開発~運用までを担うことを想定していると思います。確かに部署間を横断するようなシステムや、全社員向けの人事システムなどは専門部署管轄で開発運用すべきです。
一方、RPAの活躍の場は実は個人の仕事の中に数多く存在しています。こういった1つ1つの案件にRPA部門が開発から運用までを一手に引き受けてしまうとRPAを作れば作るほどRPA部門や開発担当者への負担が増加してゆきます。せっかく現場では効率的に仕事ができるようになってきたのに、RPA部門は毎日残業、人員もどんどん増やさねばという事態もあり得なくはありません。
こういった事態を回避するためにもRPA導入は効果を発揮します。通常のシステムだと、専門のエンジニアが開発~運用まで行う必要があります。一方RPAなら、最初の開発こそRPA部署に依頼をしたとしても、ちょっとしたメンテナンスや修正はローコードのおかげで現場担当者レベルで可能となります。RPA部門にとっても手離れのいいシステムとなるのです。さらに言えば、個人で完結するようなお助けツール程度であれば担当者でもRPAで開発が可能です。RPAを導入した場合の体制としては、会社全体として専門部署を構えることと併せて個人での開発利用も推進すべきと考えます。
RPA導入の費用対効果の測定
RPAの導入費用が算出できたら、その費用に対する効果を検証する必要があります。費用に見合った、もしくはそれ以上の効果を期待しているからこそのRPA導入です。その具体的な効果測定方法は以下の3つとなります。
削減費用
いくら作業時間が削減されたとはいえ、具体的な金額に置き換えてみないと費用対効果の判断は困難です。1つの例としてその金額を計算してみましょう。ポイントとなるのは削減時間と人件費です。具体的には以下となります。
削減費用 =(業務1件当たりの削減時間 × 担当者の人件費)× 業務数 + 残業削減コスト
この金額と、RPA導入にかかった費用を比較することで費用対効果の有無を判断できます。
生産性向上
RPAの導入で得られる効果はマイナス(削減)だけではありません。プラスに働く効果も必ず測定する必要があります。1つの効果としては処理件数の向上です。これまで100件しか処理できなかった作業が1000件処理できるようになったなど、明確に効果として現れます。さらに、処理時間の削減や創造的な仕事へのシフトなどRPA導入後の売り上げの増加分も効果として含めることができます。
生産性向上 = 業務1件当たりの売り上げ単価 × 増加処理件数 + 売り上げ増分
定性的効果
上の2つは具体的な金額まで落としこみ可能な範囲の効果測定となりますが、RPAの導入効果には数値に表しきれない部分も期待できます。仕事へのストレスが減って働きやすくなったとか、引継ぎが簡単、業務の見える化を実現などさまざまな効果が期待できます。
定性的効果 = 人的ミスの回避 + 属人化回避 + 労働環境の改善
これら3つの効果測定方法を踏まえてRPAの導入が果たしてどれだけの効果があったのかを判断してみてください。
考察
RPAの導入効果では「作業時間をどれだけ短縮したか」だけに焦点を当てて効果の有無を判断する場合がしばしば見受けられます。もちろん作業時間の短縮も効果として十分期待できる部分ではありますが、残念ながらRPAを導入したからといって、すぐに人を辞めさせて人件費が削減できるといったものではありません。どれだけ作業時間を削減したとしても、いまいる人達で売り上げアップなど生産性の向上に向け取り組まなければRPAの導入効果は道半ばと考えてください。
手の空いた時間をどれだけ生産的な仕事に還元できたとか、人がすべき仕事に時間を振り分けられたなど、1人1人の生産性を上げる取り組みが必要です。
また、生産性を上げるための取り組みがRPAの導入でしか実現できないというのも誤りです。RPAは生産性を上げるための1つの手段でしかありません。RPAを使わなくともExcelの関数やマクロ、仕事のやり方や業務フローの見直しなど費用をかけずとも出来ることはたくさんあります。これらをRPAと組み合わせることでより一層の業務効率化を実現し、生産性を上げることが可能です。
中には、RPAを魔法の道具のように理想を描いてしまい、RPAを導入した時点で満足してしまったり、RPAの稼働数を上げることだけが目的となってしまっているケースも見受けられます。よくよく効果を検証してみれば、RPA導入費用に見合うコスト削減も生産性向上も図れずにいるのにまったく気づいていないという有様です。
使いどころの章でも述べましたが、RPAは必ずしも既存の業務を置き換えるだけのものではないということです。業務担当者自ら仕事を効率化するための道具でもあります。何か新しい取り組みをする際にもRPAを前提に仕事のやり方を考えてみることが必要です。
一人一人がちょっとしたことでも効率的に取り組む姿勢が、集まれば会社全体の生産性の向上へとつながります。RPAの導入がこうした意識改革のきっかけとなることこそ一番の効果と言えるかもしれません。
先日MicrosoftはPower Automate Desktopを無償提供すると発表しました。これまで仕事のスキルとして「Word、Excelは当たり前に使えます」とうのが普通でしたが、これからは、「RPAは当たり前に作れます」といった時代となるでしょう。RPAで置き換えられる仕事はどんどんRPAにやってもらい、人がやらなければいけない仕事により多くの時間を費やすといった効率的かつ創造的な仕事のやり方が今求められています。
以上、RPA導入における効果について考えてみました。
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