前編では、「GMOインターネットグループ陸上部 – GMOロボッツ」が生まれた背景をたどりました。なぜ今ヒューマノイドなのか。なぜ「走る」なのか。なぜGMOインターネットグループだからこそ、この挑戦ができるのか。
後編では、その構想が実際にどう形になっていったのかを追います。モーションキャプチャで見えてきたこと、陸上競技場での走行テスト、記者会見当日の選手たちの言葉、そして質疑応答で語られた技術と事業の見通しまで、発足の舞台裏を振り返ります。
目次
発足までの道のり
ここからは、記者会見までの道のりを時系列で振り返ります。
まずは走らせる準備
最初に取り組んだのは、ヒューマノイドを「走れる状態」に近づけるための準備でした。
私たちの手法では、まずシミュレーション環境の中で、直立の維持や転倒の回避といった汎用的な動作を学習させます。いきなり走りだけを教えるのではなく、まず立つ、崩れない、前へ進める、という土台を整える。そのうえで、走行のような特定動作へ進んでいきます。
派手な工程ではありませんが、この基礎がなければ先へ進めません。どこで姿勢が崩れるのか。どの条件で安定性が落ちるのか。どこまでを基礎学習で押さえ、どこからをお手本データで引き上げるのか。そうした検証を重ねながら、まずは走る準備を進めました。
陸上競技場の屋外で走らせてみた

3月10日には、ロボットを陸上競技場の屋外で走らせてみました。
屋内と屋外では、やはり見える景色が違います。陸上トラックの足裏の接地感や周囲の環境。整った検証環境では見えにくい要素が、現場に出すと一気に表に出てきます。
この段階では、まだヨタヨタした印象が強く残っていました。ただ、早い段階で屋外のトラックに出せたことには大きな意味がありました。社会実装を見据えるなら、最終的に向き合うのはノイズのない理想環境ではありません。多少のばらつきや予期しない条件を含んだ現実です。その現実の中で、どこが通用して、どこから崩れるのかを知れたことは、その後の開発にも効いてきました。

陸上部選手をモーションキャプチャしてみた
3月17日には、GMOインターネットグループ陸上部の嶋津選手、今江選手のモーションキャプチャを行いました。


通常のモーションキャプチャデータ取得では、どうしてもばらつきが出ます。しかしトップアスリートの動きは、やはり安定して質が高い。フォームが洗練されていて、再現性も高い。お手本データの価値を現場で実感できた一日でした。


モーションキャプチャで見えたこと
実際にモーションキャプチャを行ったときのことは、かなり印象に残っています。
走る動きをデータにして見ると、選手ごとの特徴が想像以上にはっきり表れます。会見でも、左に今江選手、右に嶋津選手のフォームを反映したシミュレーション映像が紹介されました。同じ「走る」でも、フォームの個性ははっきりあります。
しかも面白かったのは、その可視化がロボット開発側だけの学びで終わらなかったことです。選手の皆さんからも、「自分たちの特徴が可視化されることで、新たな気づきにつながっている」という声が出てきました。
人間がロボットに動きを教えるだけではなく、ロボット開発の過程で整理された知見が、人間にも返っていく。この往復の可能性は、今回のプロジェクトの大きな魅力の一つだと思います。
フォームの分析データを選手の競技力向上に生かすこともできるかもしれませんし、ロボットが学習の過程で見つけた効率的な動きを、将来的にコーチングへ還元できる可能性もあります。人とロボットが互いに高め合う。私たちは、このプロジェクトをそうした挑戦にしていきたいと考えています。


モーションキャプチャデータを取り込んでみる
3月30日には、モーションキャプチャで取得したデータを取り込んだヒューマノイドを、実際に陸上競技場で走らせました。
この日のポイントは、単にデータを学習系へ取り込んだ、ということだけではありません。モーションキャプチャで得たトップアスリートの走りを反映した状態で、屋外のトラックという実環境に出してみたことに意味がありました。
もちろん、この段階で完成していたわけではありません。まだ不安定さは残っていましたし、理想的な走りからは距離がありました。ただ、3月10日に走らせたときと比べると、強く出ていたぎこちなさが少しずつ薄れ、デフォルトの歩様にはない人間らしさや、嶋津選手らしい特徴も見え始めていました。
だから競技大会を目指す
私たちは、2026年8月に中国で開催予定のヒューマノイド競技大会への出場を目指しています。
ここで大事なのは、競技大会がゴールそのものではないということです。競技という明確な舞台があるからこそ、技術は磨かれ、チームは強くなります。高い目標を掲げることが、エンジニアの挑戦を引き出し、技術開発のスピードを高める。私たちはそう考えています。
このプロジェクトを通じて、特に三つの重要な技術を高い緊張感の中で検証できることに、大きな意味があります。
一つ目は、走行制御です。早く走れるということは、歩行制御を高い次元でマスターしているということでもあります。走行制御を磨くことは、ヒューマノイドの基礎性能を引き上げ、社会実装に直結します。
二つ目は、動作学習です。人手不足の解消に向けて、現在人が行っている動作をロボットで再現できるようにすることが、社会実装への鍵になります。まずアスリートの走行動作から着手し、将来的には工場などの現場で求められる特殊動作へと展開していきます。
三つ目は、自律走行です。レーンを認識し、周辺環境を把握しながら、自律的に走行するには、カメラや各種センサーによる認識とリアルタイムの運動制御を高いレベルで統合する必要があります。

これらは競技のためだけの技術ではありません。むしろ、こうした技術を磨くことが、物流倉庫での荷物運搬、製造現場での部品搬送、災害現場での救助活動支援など、あらゆる現場での社会実装へつながっていきます。
記者会見で伝えたかったこと
4月2日の記者会見で、私たちが本当に伝えたかったのは、「GMOインターネットグループ陸上部 – GMOロボッツ」は単発の話題づくりではない、ということでした。
ニューイヤー駅伝で日本一になった陸上部の走りがあること。GMO AIRがモーション強化学習を進めてきたこと。GMO Various Roboticsが自律走行技術を持っていること。そのすべてがつながって、このプロジェクトになっています。

だから会見でも、単に「ロボットが走る」という話ではなく、なぜ今ヒューマノイドなのか、なぜ「走る」なのか、なぜGMO AIRだからできるのか、そしてこの挑戦が誰に返っていくのかを、できるだけ丁寧に伝えたいと考えていました。
記者会見当日、陸上部の選手たちが語ったこと
記者会見当日は、実際にモーションキャプチャに参加した陸上部の選手たちの言葉も、とても印象的でした。
吉田選手は、このプロジェクトを聞いたときに「革新的で面白いと思った」と語ったうえで、陸上部としてはニューイヤー駅伝2連覇を、「GMOインターネットグループ陸上部 – GMOロボッツ」としては初優勝を目指したいと話しました。陸上部と「GMOインターネットグループ陸上部 – GMOロボッツ」がそれぞれの挑戦を進めながら、相乗効果を生み出していく。今回の取り組みの関係性を、とても分かりやすく表した言葉だったと思います。

嶋津選手は、「ロボットが隣にいて緊張する」と率直に話しながらも、「こういうことが日常になっていく今日がスタートライン。一緒に走りたい」と続けました。ヒューマノイドがいる風景を特別なものとしてではなく、これから当たり前になっていく未来として受け止めているのが印象的でした。

今江選手は、モーションキャプチャについてかなり具体的に触れています。普段はスマホカメラで撮った映像でフォームを確認している一方で、今回は頭や関節などにセンサーを取り付けることで、自分たちの走りをより客観的に見られたと話していました。そして、そのデータをロボットに落とし込むだけでなく、自分たちにもフィードバックすることで、競技力向上につながるのではないかという期待も語っていました。

同じく嶋津選手は、全身黒タイツでモーションキャプチャを行い、詳細な動きを確認したことにも触れ、「普段の競技中にも着て走ってみたい」とコメントしています。選手にとっても、今回の計測が単なる協力ではなく、新しい発見のある体験だったことがうかがえます。
吉田選手は、今回はロボットがある程度長い距離を走ることにも注目していました。駅伝やマラソンを走る自分たちの動きをもとに、ロボットがどこまで長く走れるのかが楽しみだと話しており、短いデモにとどまらない今回の技術検証の特徴が、選手の目線からも語られていました。
入社したばかりの黒田選手も、モーションキャプチャには強い関心を示し、「ぜひやりたい」とコメントしています。フォームを客観的に見ることをこれまであまりしてこなかったからこそ、楽しみだという言葉が印象に残りました。

記者会見では、ロボットならではの特徴について、選手たちらしい軽やかなやり取りもありました。今回、デモンストレーションを披露したヒューマノイドの「ひとみん選手」は「まだ疲労という機能を搭載していないので元気一杯」と話し、嶋津選手は「疲れを知らないということなので、どこまでも走っていってほしい」とコメント。今江選手も、「疲労がないということは怪我をしないということ。僕らにもそんな機能が欲しい」と続け、会場を和ませていました。

その一方で、選手たちの言葉には勝負への意識もしっかりありました。吉田選手は、「僕たちも駅伝に初出場した時は5番だった」と振り返りながら、今の技術力や熱意を結集すれば、ヒューマノイド競技会でも絶対に優勝できるはずだと語りました。黒田選手も、ヒューマノイドはこれからさらに進化して速くなるだろうと話しつつ、自身も今年GMOインターネットグループに入社して陸上部に加盟した一人として、「GMOインターネットグループ陸上部 – GMOロボッツ」に負けないよう進化し、チームのニューイヤー駅伝連覇に貢献したいと語っています。今江選手もまた、「GMOインターネットグループ陸上部 – GMOロボッツ」の新しい挑戦に携われることへのうれしさと、それが自分たちにとっても刺激になっていること、そして陸上部としてニューイヤー駅伝連覇に向けてしっかり活動していきたいという思いを言葉にしました。
技術の記者会見でありながら、そこには選手たち自身の挑戦もありました。ロボットの進化を見つめるだけでなく、自分たちもまた進化しようとしている。その空気が伝わってくる時間でした。
質疑応答で見えた、プロジェクトの解像度
記者会見では、発表内容に加えて、内田社長や滝澤シニアエンジニアへの質疑応答も行われました。ここでは、そのやり取りから見えてきた、このプロジェクトの輪郭を整理しておきます。
内田社長が語った「社会実装」と陸上部へのフィードバック
内田社長は、ヒューマノイドを取り巻く市場について、人手不足は大きな社会課題であると同時に、大きなビジネスチャンスでもあると語りました。GMO AIRとしてはソフトウェア開発にも力を入れており、加えてハードウェア側の進化も非常に速い。そのため、1年後、2年後にはヒューマノイドを現在よりも多くの現場へ派遣できるようになると見込んでおり、今後は実際の現場への展開をさらに進めていきたいという考えが示されました。

また、陸上部へのフィードバックという観点でも、興味深い話がありました。ロボットと人間は当然メカニクスが異なりますが、それでも得られた知見は十分に参考になるといいます。実際、生体力学的なデータが可視化されること自体が、陸上部にとって新しい気づきにつながっているようです。
たとえば、ある選手の膝の出方に左右差があり、その動きをヒューマノイドに落とし込むと、機体が右に傾いて転倒してしまう。選手本人が普段は意識していないようなわずかな差や傾きでも、ヒューマノイドに反映すると非常に分かりやすく現れることがあります。そうした現象を通じて、人間の側にも新たな気づきが生まれる。このプロジェクトを、ロボット開発だけでなく、陸上部にも還元していきたいという考えが語られました。
滝澤シニアリサーチエンジニアが語った「どんな走りを目指すのか」
滝澤シニアリサーチエンジニアからは、技術目標について、より具体的な説明がありました。
まず、北京のヒューマノイド競技大会には1500メートル種目で出場を予定しており、その中で駅伝のフォームのエッセンスを取り入れていく方針だといいます。効率的な走りをAIが学習していくことが重要であり、単に速さだけを追うのではなく、持続して走れることも含めて磨いていく考えです。速度の面では、昨年の優勝チームが毎秒5メートル強で走行していたことにも触れられました。現時点では毎秒3メートルまで来ており、まずはその水準へ近づいていくことを目指しているとのことです。

ただし、このチャレンジの目的は、人類を超える最速のロボットをつくることではありません。あくまで社会実装に向けた課題解決の土台として、人間のフォームを真似し、人間と同じくらいの速さで走らせることを目指している。そこが今回の取り組みのスタンスです。
その意味で、現時点では人間のフォームとまったく違う形で走らせることは考えていないそうです。まずは、プロのアスリートの動きをロボットに再現する。その応用を通じて、人が行ってきた技術や作業をロボットへ落とし込むための技術を獲得していく。その積み重ねが、将来の社会実装へつながっていくという考え方が示されました。
まとめ
私たちの目標は優勝です。同時に、その過程で得た技術を社会実装へつなげていくことにも大きな意味があります。競技の場で磨く技術を、将来の社会実装へとつなげていく。それが、このプロジェクトの本質です。
人の走りをロボットへ学ばせること。ロボット開発で得た気づきを人へ返すこと。そして競技という明確な目標を通して、社会実装に必要な技術を磨いていくこと。「GMOインターネットグループ陸上部 – GMOロボッツ」は、そのすべてを同時に進めようとしているプロジェクトです。
2026年は、「ヒューマノイド元年」。その年に、GMO AIRとして、日本企業として、この挑戦に名乗りを上げます。

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