2017年5月23日~24日、「de:code 2017」がザ・プリンス・パークタワー東京にて2日間にわたり開催されました。22日には前夜祭、25、26日には初の試みとしてde:codeで紹介された最新技術を使い実際にハンズオンにて成果物を作成する「Hack Days」も開催されました。
今回は、このde:code 2017のイベントレポートをお届けします。
目次
Keynote Session
オープニングのキーノートから「AI」をテーマとした様々なMicrosoftテクノロジーの紹介からはじまりました。「Cloud First. Mobile First.」がこれまでのMicrosoftのテーマでしたが、今年は「Intelligent Cloud. Intelligent Edge.」を掲げ、Azureで提供されるサービスや、Windows、Officeなどデスクトップ、その他製品すべてにAIの機能を搭載すると宣言しています。「AIをすべての開発者に」をキーワードとし、「これは技術者にとって大きなチャンスの到来であり、また、AIを正しく使い世の中をより便利にする責任を技術者は併せて担うことになる」と述べました。
AI関連の様々なデモンストレーションが、キーノートの2/3、およそ2時間続きます。まずはMicrosoftのAI技術を一般の人が気軽に利用できるLINEの「りんな」の登場です。今回はde:codeの特別バーションとして男子高校生「りんお」として期間限定でお披露目されました。「りんな」は機械学習によってLINEユーザーと自然な対話をすることを目標に開発されたAIです。単なる言葉の羅列による会話ではなく、会話としてのちょっと崩れた日本語使いなどなかなか自然な感じのチャットが楽しめます。写真を送ったりすると写真を送り返してきたり、しりとり対決などはとても勝てそうにありません。
続いて、プレビュー版として新しいAIサービス「Custom Vision」が紹介されました。スマートフォンで撮影した写真を元にAIが画像を解析し、写真に写っている物の名称を答えるというものです。これまで画像認識では難しいとされていた植物をあえてデモで使用して、会場ホテル周辺から採取したカエデの葉を見事認識しました。MicrosoftがAIでの画像認識分野に取り組み始めてから今日まで蓄積した技術を元に、機械学習の性能が進化してきた成果を見ることができます。
次は、「すべての製品にAIを」ということで、慣れ親しんだOffice製品のひとつPowerPointを使ってのデモです。PowerPointに「Microsoft Translator」の機能を追加し、会議資料を見ながら英語、スペイン語、日本語による3ヶ国語でそれぞれスマートフォンアプリを使ってリアルタイムに会話する様子が披露されました。会話だけでなく、共有している資料も翻訳され、もはや言語によるコミュニケーションの壁は崩れ去ろうとしています。
さらに言語処理のAIサービスとして「Bot Framework」の紹介です。Chatボットを作成して仮想の保険会社と保険加入希望者とのやりとりを紹介。保険加入希望者はチャットを使い、ボットであるカスタマーサポートオペレーターとごく自然な会話でやりとりを進めることができます。もちろん多国語対応です。様々な要望を取り入れ最終的に契約見積もりを作成し、希望金額と合わなければ人間のオペレーターにエスカレーションする工程が披露されました。これは、基本的なサポートオペレーションをまずはAIが担当することで、人間による業務負担を軽くするといったデモとなっています。あえて、最後までAIが業務を完了することなく、人による業務に対し的確なサポート情報とともに引き渡すといった点において非常に好感が持てたデモでした。
人相手のインタラクティブなAIのデモの次は、膨大なデータをどう処理するかという問いに対する答えとして、クラウドとAIを駆使してデータ分析するというものです。これまでアプリケーションがデータの解析を担ってきましたが、データベースのすぐ近くにAIを置くことで、開発者にとってのメリットを最大限にする「Intelligent Database」という概念を発表しました。ストアドプロシージャ形式の問い合わせで深層学習ライブラリを呼び出し、膨大なデータの分析を行うことができるようになっています。デモでは、大量のCTスキャンの映像を解析してガンを見つけ出す様子が披露されました。さらに、膨大なデータをいかに安全に保存するか、という点について「Azure Cosmos DB」が紹介されました。これは全地球規模で展開する分散データベースとなっており、冗長性だけでなく低いレイテンシと高いSLAを保障するものとなっていました。
キーノートの残り1/3は、この秋予定されている「Windows 10 Creators Update」と「Mixed Reality(MR)」の紹介です。Windows10も今後のアップデートでAIの機能がふんだんに搭載されることになりそうです。最後に登場したのは、MR端末HoloLensの生みの親、Alex Kipmanです。Kipmanは日本のHoloLensのコミュニティーの盛況ぶりを称賛していました。すでにビジネスとしてHoloLensが導入されている事例として、建築会社が建築設計を仮想空間に作成し、それ対して設計者や顧客がHoloLensを使って壁を透かして設計の変更などを行う様子が紹介されました。最終的にはHoloLensごと顧客に納品するというのも、かなり洒落ています。HoloLensが発表された当初、イメージ映像として紹介されたような世界がすでに実際の建築設計の過程で行われているという事実に、大きな衝撃と刺激を受ける内容でした。
Breakout Session
1日目の午後から2日目はすべて個別のセッションとなっています。12のトラックに分けられた138セッションです。
とてもすべては見きれないので、今年はXamarinとAIにターゲットを絞ってセッションに臨みました。
AIを使ってみたい
↓
AIを手軽に使うにはデバイスとしてスマートフォンが最適
↓
何かアプリを作りたい
↓
アプリを作るにはVisual Studio
↓
Xamarin
という単純な思考です。
Xamarinセッション
Visual Studio 2017にXamarinがバンドルされ、インストールも簡単になったということで、いざアプリケーション開発をという意気込みです。Xamarin自体は去年のde:codeでもいくつかセッションがありましたが、最新の開発環境ではたしてどこまで使いやすくなったかを確認する必要があります。XamarinではC#でAndroid、iOS、WUPのアプリケーションが90%以上のコードを共通化して開発できるといったすぐれものです。
GitHubにアップされているサンプルコードを元に解説しながらのセッションは非常に参考になります。一人でサンプルコードだけを追ってアプリケーションを作成するのとは違い、Xamarin特有のファイルの構成やコードの相互関係など、よくわからずなんとなく放っておいた点がクリアになりました。
さらに、開発したアプリケーションに対して、公開前に様々な仕様のデバイスを想定したテスト機能や、リリース後のバクレポート機能を備えた「Visual Studio Mobile Center」は、アプリケーション開発に必須のサービです。まだプレビュー版ということもあり、現在は無料で利用できるようです。
https://www.visualstudio.com/ja/vs/mobile-center/
Visual Studio Mobile Centerで利用できる機能
・リポジトリ(GitHub, VSTS, Bitbucket)と連携しての自動ビルド
・Xamarin.UITestなどのテストコードをプールされた様々な実機上で実行
・アプリケーションのテスト配布
・クラウド上のデータストア
・SNSやAzure ADと連携した認証機能
・テレメトリ収集
・クラッシュレポート
今回、de:codeの登録証やスケジュール管理ツールとして、Xamarinで開発された専用アプリケーションが公開されていました。実際にこのアプリケーション開発に携わった河合氏(https://twitter.com/_shunsuke_kawai)によるセッションも非常に参考になりした。ただ、各デバイスによるコントロールの細かい形状や仕様を統一するために、カスタムコントロールを作成するといった部分についてはハードルが高そうです。要調査ポイントとなります。
個人的には、Mac環境もiPhoneも手元にはないので、android向けだけに試しに開発してみてもよいかと思います。Xamarinには各デバイス共通コードを利用するXamarin.Formsと、それぞれのネイティブなAPIをC#で利用できるXamarin.Nativeと呼ばれる開発手法があります。Xamarin.Nativeでandroidアプリの開発をする場合は、Xamarin.androidというキーワードでサンプルコードなどを探せば、ほぼjavaと同様の内容をC#で書くことでアプリケーション開発が可能となります。まずはこちらから試してみるのもよい勉強になりそうです。
AIセッション
AIセッションは、どの回もほぼ満席か、立ち見がでるほどの盛況ぶりです。開発者のAIへの注目度の高さがよくわかります。特に、画像や言語を扱う「Cognitive Service」と、これから機械学習を始める人向けのHow toセッションは内容も分かりやすく、聞いていてこれならすぐにでもAIを始められそうと思えるほど満足度の高いものでした。Cognitive Serviceは、人間の認知機能の一部をAIが結果として分かりやすく目に見える状態で出力したものをWeb APIで利用できるので、実際に試してみると素直に楽しいという感想です。
「Cognitive Service = 人工知能パーツ」という定義がとても分かりやすかったです。
Cognitive Serviceは「視覚・音声・言語・知識・検索」のカテゴリーに分かれており、それぞれのカテゴリーの中でも、さらに細かく機能ごとにAPIが提供されています。
今回の注目は、「Vision」の「Face API」と、「Language」の「Translator」です。Face APIは画像から複数の顔を一度に認識し、AIによる特徴付けの結果を返します。顔認識の精度はすでに他社のサービスも含め高水準に達しており、差異はあまりないのですが、誤認識率の低さがCognitive Serviceの選択理由となりそうです。「顔」を使ったアプリケーションやサービスをとても簡単に作ることができそうです。Translatorについては、オープニングのKeynoteでデモがあったように、同時翻訳が可能となりました。海外のYouTubeをいつでも字幕付きで楽しめたり、海外旅行で言葉の壁にとまどうことがなくなる時代がもう来ているようです。
機械学習については、本当に基本の「き」から説明してくれたセッションがとても好評でした。「Azure Machine Learning Studio」の使い方を、実際にゼロから「機械学習のモデル作成~トレーニング~スコア付け」までデモで1つずつ紹介してくれました。Azure Machine Learning Studioのこれまでよくわからなかった部分や使い方を、霧が晴れたようにはっきりと理解することができたのは大きな収穫です。
このセッションで一番印象深かったのは、「AIは万能ではない」ということです。機械学習においては与えるデータが重要で、正しいデータを成形することが機械学習の8割方の作業ということです。いかに正しいデータを与えて学習させるかが、求めている答えに近づくための近道ということです。開発者には、機械学習で得られた結果を使ってアプリケーション開発をするといったビジネスチャンスが、これからのAI時代には恩恵としてもたらされることとなります。さらに、これとは別に、機械学習において大量のデータを正しくきちんと使える形にするデータ成形の分野においても、開発者の手腕を発揮する大きなチャンスが訪れることになりそうです。
その他セッションについて
Microsoftは最先端の技術関連のセッションだけではなく、働き方改革にも力を入れている企業です。de:codeでもいくつか、女性の働き方、意識改革などのセッションが用意されていました。働く環境をよくすることも大事ですが、働く人の意識改革も重要で、さらに効率よく生産性を高める方法を開発者に提案しています。
今回のde:codeで残念だったのは、オンプレミスのインフラ関係のセッションがほぼ無かったことです。そもそもde:codeは開発者のためのイベントという位置づけなので、Windows Serverやインフラ関連のセッションは少ないだろうと予想はしていましたが、長い間Windows Serverに慣れ親しんできた者としては寂しくもあり、時代の流れというものを感じずにはいられませんでした。次の新しいステップへ踏み出す良いきっかけになるのかも……と、あらためて考えさせられるイベントとなりました。
以上、de:code2017のほんの一部ですが、所感を含めてレポートしてみました。開発者の「作りたい欲」を掻き立てる非常に刺激的なイベントとなりました。
著書の紹介欄
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できるPRO Windows Server 2016 Hyper-V
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