GMOインターネットグループでは、2022年12月6日(火)~7日(水)の2日間、開発者向けテックカンファレンス「GMO Developers Day 2022」を開催しました。
「GMO Developers Day」は、GMOインターネットグループの最新技術を活用した新しい挑戦や、世の中が抱える課題解決への取り組みを、事例を交えて紹介するテック(技術)カンファレンスです。開催3回目となる今年は「Add on 技術の拡張で、新たな世界へ」をコンセプトに、初のオフラインとオンラインのハイブリッド開催で、全34セッションをお届けしました。
GMO Developersではそんな大盛況を収めた同イベントのセッションを紹介していきます。今回は1日目にリアル会場で開催された「クリエイティブリードの実践、クリエイターが活躍する組織とは?」をご紹介します。
目次
登壇者/スピーカー
スピーカー
- 宇都宮 賢二
GMOサイバーセキュリティ byイエラエ株式会社
プロジェクトマネジメント部 / 執行役員 - 小久保 浩大郎
GMOペパボ株式会社
執行役員CDO兼デザイン部部長
モデレーター
- 岡本 くる美
GMOメディア株式会社
サービスデザイン部部長
GMOインターネットグループでクリエイティブ業務を先導する立場にあって、社内でクリエイター活躍の場を考える3人が参加したこのセッション。クリエイティブリードの取り組みや考え方などを紐解いていきます。
本イベントの「GMO Developers Day」は、名前の通りどちらかというとエンジニア向けという色の濃いイベントです。ただ、今回はキーワードとして「クリエイティブ」が掲げられており、クリエイティブにも注力していく姿勢を示しています。そのキーワードに沿ったセッションとして設けられたのが、この「クリエイティブリードセッション」です。
クリエイティブリードとは? その役割に迫る
そもそも、「クリエイティブリード」とはなんでしょうか。小久保は、一口にクリエイティブリードといっても、組織によって役割は変わってくると話します。「一般化して言えるのは、クリエイティブの投資と効果、その方向性をリードしていくことです」(小久保)。
GMOペパボは複数のブランド、複数のサービスを運営しており、そうしたブランドやサービスをまとめる立場にあるのが小久保です。「全社的なリソースを何に、どのように投資して、どういったリターンを導くかという設計、実現のための組織体制の構築、デザインのプロセスの改善」などが小久保の仕事だと言います。
GMOサイバーセキュリティ byイエラエでは、宇都宮の下にデザインだけでなくプロデューサー的な役割を担うチームも存在しているとのことで、クリエイティブリードに加えてプロジェクトリードも兼ねているそうです。
小久保が費用対効果について言及したように、宇都宮も「今のクリエイティブは、単純にいいデザインを出すだけでは不十分になっています」と指摘します。そのため、事業に対してどの程度インパクトがあるか、論理的に説明できることがクライアントからも求められています。
「クリエイティブとして大きな指針を出すこと、それは事業に対してどのくらいアラインしているのか、どういう着地になるのか、プロジェクト全体を俯瞰して見る、その両方をしています」と宇都宮は自分の立場を説明。ただ、マネジメントスタイルとしては「放牧タイプ」とのことで、「デザイナーが道に迷ったり、狼に食べられそうになったり、そういうことがなければ丸投げしています」と宇都宮は話します。
2人の回答を受けて岡本は、「クリエイティブ」というのは、見た目が良い、かっこいいデザインのバナーLP(ランディングページ)を作る、などといった華やかなイメージのものではなく、「なぜ作るのか」「費用対効果はどうか」「プロジェクトをどう進めていくのか」といった点まで考慮が必要な、チーム全体に関わる大事なことだと指摘します。
とはいえ、人材を配置して必要な設備を揃えるなどといった費用に対する効果をどのように測定するかは難しいポイントです。それを岡本が問いかけると、小久保は「色んな人に分かる形で示すのが本当に難しいと常々感じています」と正直な心情を吐露します。「今年(2022年)の半分ぐらいは、それに頭を悩ませていたら時が過ぎていたような感じがあります」(小久保)。
それだけデザインやクリエイティブの効果を定量化することは難しいのです。「デザインやクリエイティブという分野では、アウトプットの作用する対象が人間や社会である」というのが小久保の考え。一人一人で異なる個人がまとまって社会という形になると、それぞれが色々なものに影響を受けながら受容態度を変えていく。それに対してある形を伴ったアウトプットの影響を、定量的に測定するのは極めて難しい、と小久保は話します。
そのため小久保は「地球エミュレーターが欲しい」と笑います。1つの施策に対して、社会が、個人が、どのようにそれを受け取ってどのように変化するか、ひとつひとつテストができる、そんな架空のエミュレーターが必要になるほど、効果測定の定量化が難しいと小久保は頭を悩ませているようです。
それでも、「施策を要素還元して細分化してそれが何かを明らかにして、そうした要素の関連性を理解していくことで、アウトプットがもたらす結果を推測して、投資と効果がだいたいこんな感じじゃないかと考えて、周りと共有しようとしています」と小久保は説明。
小久保はこうした「大枠の物の見方」を提示するのが自身の役割の1つだとしています。アウトプットに対しては現場により近いデザイナーの肌感や判断を生かしつつ、「現在のユーザーはこういう状態なのではないか」というアドバイスをすることがあると言います。
ユーザーがどんな人か、どんな困難を持っているか、どんな欲望を持っているのか、何を知っていて何を知らないか、どういったコンテキストの中にいるのか。そういった要素を掛け合わせていくと、ユーザーにとってバリューとなるものが立ち上がってくる。こういった考えを提示することでより具体的にデザイナーに考えてもらう、という役割をしているそうです。
宇都宮もそうした考え方に賛同。宇都宮は、クリエイティブリードの役割を「方向性を出していくこと」と表現します。
それは仕事において大局を見ることで、ディテールにこだわるのでなく俯瞰して見るというのは「特に経験が浅いと難しい」(宇都宮)。そのため、自身はあえてディテールにこだわるのではなく大局を見て、デザイナーやチームメンバーがディテールを見るという明確な役割分担をすることで、その下で働くパートナーの仕事のやりやすさも変わってくるというのが、宇都宮の考えです。
過去には、宇都宮も「マイクロマネージメント」だった頃があったそうで、「デザイナーが上げてきたフォントのマージンは自分で調整する、今となっては嫌な上司でした」と笑います。現在はデザイナーに任せて大局を見る、そういった距離感が自分なりに見つけられたと宇都宮は話します。
小久保は、「細かいところも大切にしていてデザイナーと一緒に考える仲間」だということを示すために、あえて細かい点も指摘することがあるそうです。
こうした回答に対して岡本は、デザイナーやクリエイターに問いかけをし続けたり、新しい視点を投げかけたり、といった役割がクリエイティブリードにはあるとまとめました。
クリエイターをどう動かして、どう組織するか
現状の課題や取り組みを尋ねてみると、宇都宮は「いかに違うスキルを持った人たちを、1チームで1プロジェクトのために動かしていくか」という観点で回答します。パートナーを含めたメンバー同士が相互のリスペクトを持っているかどうか、「そういった受容性が求められます」と宇都宮。
1つのプロジェクトはバックエンドを含めたエンジニアも含めて様々なスキルの人で成り立っているので、違うスキルの人とどれだけ1チームを作っていけるかが、デザインに限らず組織上も重要なポイントで、それには相互のリスペクトが必要というのが宇都宮の考えです。
デザイナーのモチベーションという課題もあります。「デザイナーはややもすると、誰もやったことがないような新しいデザインをやりたいという思いが強い」と宇都宮。宇都宮自身もその気持ちは分かるそうですが、ビジネスとしては、クライアントと一緒に淡々とサービスのバージョンアップしていくような、ドラスティックではないけれどビジネス的には大きな事業もあります。
デザイナーも新しいことだけをやっていけるわけではないものの、そうした仕事はデザイナーのモチベーションとしてなかなか繋がらない。そのバランスを取ることが組織上は重要だといいます。
「逆の見方がある」と言うのは小久保です。GMOペパボには40人ぐらいのデザイナーがいるとのことで、4~5つの事業部に分かれてサービスを運営し、それを横断する形でデザイン部が存在していると小久保は説明。
事業部で分かれているため、その中で目標達成していくという考えになり、日々の課題解決や次の達成目標に取り組むことを、事業部のみんなでやるというマインドセットになりがちだといいます。
そうなると「ややもすると大きな新しいこと、パッとしたことを大胆にやろうという発想に行きにくくなってしまう」という状態になることがあると小久保は指摘します。その背景には、GMOペパボが自社サービスメインで、少なくとも年単位のスコープで自社サービスを成長させることにフォーカスしている点があり、クライアントとのビジネスが中心のイエラエ社との違いではないかと小久保は推測。
組織によって属しているデザイナーのマインドセットは変わってくるものの、どちらか一方に偏りすぎないようにバランスを取ることも、クリエイティブリードの役割の1つだと小久保は言います。
「シニアデザイナー」の役割の言語化
小久保は、2019年にGMOペパボ入社した際に取り組んだ施策があるそうです。GMOペパボには人事制度として等級制度があり、各等級には求められる能力があるとのことですが、その中のシニアデザイナーに対する要求を改めて言語化したそうです。
「シニアデザイナー」と聞くと、立ち居振る舞い、言動などのレベルがその会社を表しているといってもいいレベルが期待されるとして、小久保は「GMOペパボのシニアデザイナー」のあり方を定義したいと考えたとのこと。当時のシニアデザイナーが持っていた「シニアデザイナー観」と、小久保の考えている定義との間にギャップがあったのだといいます。
入社間もない小久保の言葉に、当時のシニアデザイナーたちも理解を示して求める姿になろうというアクションをして、短期間でキャッチアップしたそうです。
イエラエ社では、デザイナーのクラス分けはあるものの、体系化された「シニアデザイナー観」のようなものはないそうで、小久保に対して「資料をいただこうと思いました」と笑いました。
生産性を高めて遊びの時間を作ることも大事
続いての岡本の質問は、クリエイティブリードとして大事にしていること、意識していることは何か、というものです。
宇都宮はまず、「GMOの場合、デザインやクリエイティブはデザイン分野がメインになるので、デザインの良し悪しがクリック数や購買など、結構目に見える形で評価されてしまう」と指摘。
そのため、デザインにどれほど魂を込めても、お客様が反応してくれなかったということが、数字で明確に表れてしまいます。デザイナーは、「なぜこのデザインになったのか」ということを言語化できることが必要だというのが宇都宮の考えで、「論理的にきちんと説明できることが今のクリエイターには求められている」として、そういう感覚を持つようにデザイナーやパートナーに話しているそうです。
加えて宇都宮は「虫の目、鳥の目、魚の目」を大事にしていると言います。ディテールはチェックしつつ俯瞰して見て、全体のマーケットの流れ、今後の時代の流れを見る、という意味で、すべてのビジネスで当てはまる言葉だと宇都宮は説明。特にクリエイティブのようなトレンドが早い分野では重要という認識で、宇都宮自身は「特にこの目を意識して仕事をしている」そうです。
小久保は、「納得感」というキーワードを大事にしていると言います。これは、「デザイナーが自分の仕事に対して持つ納得感」と、「デザイナーと一緒に働く他の職種や経営者から見て、そのデザインのアウトプットが、その組織に対して良い働きをするものであるという納得感」という2つの意味があり、「両方向の納得感を作ることを意識している」と話します。
「組織としての成果を出す、そのための取り組みを凄く大事にしています」と小久保。これは、全員でサッカーボールを追いかけるような子供のサッカーではなく、役割や立ち位置を考えた上で全体としての効果を最大化することを意識しているといいます。
加えて、デジタルツールによってデザイナーの生産性も向上していますが、既存のツールをただ使っているだけでいいのか?という問いかけを小久保はします。「求められているアウトプットに対して、どういう道具があったらより生産性を高められるか」という考え方を大事にしていると小久保は強調。
GMOペパボでのデザイン部のような横断組織を作る、デザインのガイドライン作り、共有アセットの作成など、組織だからこそできるような様々な道具を作ることで生産性を上げる、そんなことを大切にしているそうです。
この「生産性を高める」のはなぜかといえば、小久保は「遊ぶ時間を作るため」と告げます。「遊びと仕事」の間にある違いを小久保は、「確たる目的を持つか持たないか」と表現。遊びという無目的の中で取り組むことで得られる知見や発見が大事で、遊ぶ時間を作ることであたらしいものに触れる、トライする、そういったものが必要だという考えです。
その遊びの中から、ビジネスとしての投資につなげるかどうかを判断するのもクリエイティブリードの役割だと小久保。その判断の理由もドライな言葉ではなく、ウェットなコミュニケーションを取る、そうした言語化も大事だと小久保は話します。
クリエイターが活躍する企業グループとは
続いての質問である「クリエイターが活躍する企業グループ」を実現するために必要な考え方として、宇都宮は「リスペクト」を挙げます。今までビジネスサイドが中心だった企業やテック中心の企業などが、クリエイティブを新たに取り入れようとしても、「違う文化を持っている人たちと対等にやるのはハードルが高い」との考えを示します。
その時に「相手に対するリスペクトをどれだけ持てるかどうか」という点が一番重要だと宇都宮。それによって、ユニークなチームを作ることができるのだと話します。自分とは異なるスキルを持つ人に対してリスペクトを持って、受容性を高めていけるか。それが、クリエイターが活躍する企業グループになるためのキーになるというのが宇都宮の回答です。
これを受けて岡本は、「GMOインターネットグループには7,000人ほどのパートナーがいて、各社にクリエイターがいて、それぞれ得意としている分野も異なりますが、そういう中でお互いをリスペクトして(グループで)シナジーを作っていく、それが来年(2023年)に取り組みたいことなのかと感じました」と感想を述べます。
今回のセッションでは「言語化」という言葉が1つのキーワードとなっていましたが、小久保は「クリエイティブリードの役割は言語化が必要だとは思いますが、同時に言語化しきれない、できない、未分化な部分の価値を感じ取って理解して、それを育むことと両立しなければならない」という考えを披露。
ただ言語化をやりきればいいというのは、クリエイティブリードの領域においては役割の半分で、一方で「雑な言葉で言えば”エモい”といったことを肌感としてちゃんと分かること、それを重要視して育んでいくこととの両立が大事」だと小久保は言います。
クリエイターが活躍する企業グループは、こうした未分化な領域や言語化しきれていないものに対しても「勇気を持ってベットできる組織」であり、こうした”ベット”ができるような組織に持っていくことがクリエイティブリードの仕事の1つと言います。
さいごに
セッションの終盤では、参加者から寄せられた「シニアデザイナーの役割の言語化」「取得しているスキルセットでは見えないような領域での生産性を向上させる言語化を教えて欲しい」という質問に対しての回答が示されました。
小久保は、シニアデザイナークラスの人に求めるものとしてスキルに加えて「理想が描けること」を挙げます。これは、物事に不満があってこうあるべきだという考えがあって、そのために必要なアクションができる、ということで、「別の言い方で言えば問題定義とか問題設定」と小久保は説明します。
小久保は、こうした設定ができた上でちゃんとアクションに結びつけていくことを担ってくれる人をシニアデザイナーと呼びたいという考えを示します。そして、「我々も言語化を頑張るので、シニアデザイナーであれば一緒に言語化を手伝ってほしい」と小久保は笑い、それを受けた岡本は「”エモい”を言語化するところから始めていきたいと思います」と意気込んでいました。
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