GMOインターネットグループでは、2023年12月5日(火)~6日(水)の2日間、エンジニア・クリエイター向けカンファレンス「GMO Developers Day 2023」をオンライン配信(YouTube Live)にて開催しました。
開催4回目となる今年は「Re imagination -新たな可能性の追求」をコンセプトに、「AI(人工知能)」「セキュリティ」「エンジニア」などの技術とクリエイティブによる挑戦について、全32セッションをお届けしました。
本記事ではGMO Developers Day 2023のDAY2にて開催された、「広告業界TOPクリエイターと深める生成AIどうするの?」と題したセッションをご紹介します。
目次
登壇者

- 澤本 嘉光 氏(@sawamoto55go)
株式会社電通グループ / dentsu Japan Growth Officer エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー/脚本家 - 萩原 幸也 氏(@onipro)
株式会社リクルート マーケティング室 クリエイティブ・ディレクター - 冨岡 信之
GMOプレイアド株式会社 代表取締役社長 
今回のセッションは「生成AI」という新しいテクノロジーが、広告だけでなくクリエイティビティに与えるその影響を、業界トップランナーに聞くというものです。
話を伺ったのは電通 dentsu Japan Growth Officer エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターでCMプランナーや 脚本家でもある澤本嘉光氏、リクルート マーケティング室 クリエイティブ・ディレクターの萩原幸也氏のお二人。GMOプレイアド代表取締役社長の冨岡信之がモデレーターを務めました。
テクノロジーがクリエイティブと連動する
生成AIに限らず、「テクノロジーの発展と広告クリエイティブが連動している」と指摘するのは澤本氏です。その事例として上げられたのが小学館の学習雑誌『小学一年生』のテレビCMです。

「ピッカピッカの1年生♪」というメロディを覚えている人も多いのではないでしょうか。このCMでは、新小学1年生たちに各地でメッセージをもらうという方法で作られたCMでした。
一見すると新技術のない映像に見えますが、テレビカメラというのは当時、大型でスタジオに設置して使うものでした。ところがハンディが登場して自由に撮影できるようになったため、このCMでは地方にカメラを持っていって子供たちにオーディション形式でインタビューを撮影して面白いものを選んだそうです。
現地でCMを撮影することが技術的に可能になって実現したCMだと澤本氏は説明。CMの表現とテクノロジーが連動しているという例だと言います。
同様の事例でさらに紹介されたCMが、AppleのiPhoneのCMです。撮影機材はiPhoneだったのですが、そのiPhoneを冷蔵庫の中に入れて撮影した映像が差し込まれています。小学一年生と同様に撮影機材としてiPhoneまで小さくなると、冷蔵庫内にまでカメラが入って、「視点が自由になる」と澤本氏。同様にドローンによって空からの視点も得られるようになった点を紹介します。
「この位置から撮りたかったという視点から撮影できるようになった」と澤本氏は話し、機材の進化は表現とリンクしていると言います。機材の進化で新たな撮り方が可能になれば、「こういうものも撮ってみようという発想が生まれる」(同)わけで、機材とクリエイティブが好循環していると澤本氏は指摘します。
さらに澤本氏は「機材だけでなくテクノロジーが進化するとそれに対応して表現できる範囲が広がる」と話し、そうして撮影された最初のCMは必ず目立つのだそうです。
では、こうした新たな技術が登場したときに、カメラマンは変わっていったのかと冨岡が問いかけると、澤本氏は自身の体験した事例として、「機材の質は落としてもカメラマンには一番の投資をした」と話します。
フィルムからデジタルへの移行期において、予算はないけれども枠はあるからCMを作っていいと言われたことがあったそうです。その際、予算は少なくても家庭用のデジタルビデオカメラを使って機材の予算を削減しつつ、「映像のクオリティを落とさないためには、カメラマンの決める絵が良ければいい」という判断から、カメラマンの予算は多く確保したのだといいます。
「テクノロジーが変わってもカメラマンの技術の本質は変わらない」と澤本氏。特にその絵作りを判断する美的感覚を生かすという部分で、テクノロジーが進化しても変わらず重要だと言うわけです。
ChatGPTなどの生成AIによる変化を、萩原氏はDTP(デスクトップパブリッシング)が登場したときに近い変革だと指摘します。生成AI自体は様々な業界に影響する技術ですが、広告クリエイティブの業界におけるDTPによる変化は大きなものでした。

しかし、「使っていたものが手作業からMacやアプリケーションに置き換わっただけで使っている人は変わっていない」(萩原氏)という状況でした。逆に、DTPになったことで参入できる人が現れて、それと同様に生成AIによって新しくクリエイティブに携わる人が増えるのではないか、と萩原氏は話します。
既存のクリエイターは、「対応する必要がないかもしれないし、対応するにしても道具がひとつ増えたというだけ」というのが萩原氏の予測で、澤本氏も「表現の幅がむしろ広がっていくのではないか」と指摘。ただし、参入もしやすくなることから、「技術が高ければ仕事を失うことはないだろうが、新しい人が活躍できるようになり、ライバルは増える」と澤本氏。
萩原氏は、生成AIが職を奪うといった議論に対しては、「携わっている人の職が失われることはない。使うと楽になる、優れたものができるという面に着目すべき」と強調。「変わらない自らの価値を発揮できるという部分を見た方がいい」と話します。
生成AIはプレゼンやアイデア出しで活躍?
2023年は、広告クリエイティブの業界でも生成AIが大きく動きました。特にキンチョーのCMは素材作りに生成AIを活用し、伊藤園は生成AIで作成したリアルな人(キャラクター)をCMタレントとして起用しました。
ただ、冨岡は「生成AIが映像やCMの制作工程の手段として使われているというより、まだまだバズりネタとして使われている感覚」と言います。これに対しては澤本氏も「生成AIでやったというニュース感やPR価値があって、クリエイティビティというよりも生成AIを使ったこと自体がアイデア」という点で、「原始的」(澤本氏)という指摘です。

では、生成AIをどのように活用していくのか。澤本氏は、特に「プレゼンの場で使いやすい」と言います。立案した企画をクライアントに説明する際に、これまではテキストや写真を使っていたそうですが、生成AIを使えば短い動画を作成してだいたいのイメージを説明しやすくなる、というわけです。
これによって、これまでは説明が伝わりにくくて採用されづらかったようなアイデアが認められ、表現できるクリエイティブの幅が広がるのではという期待感を示します。
萩原氏は、従来のコンテやカンプの作成には専門性も必要でしたが、生成AIだとプロンプトを入力するだけなのでそうした資料の作成も速くなると期待します。さらに萩原氏は、「企画会議のアイデア出し」を代替できるという予想も示します。
今まで、「企画会議で若手10人を集めてアイデアを出し合う」ことがあったそうですが、生成AIとコミュニケーションすることで、「同じボリュームでアイデアが返ってくる可能性がある」と萩原氏。これまでは機械に頼れなかった発想やアイデアを考える手助けができるようになってきている、としています。
こうして生成AIからアイデア出しをしても、どういったアイデアを採用するか、「それを抽出して採用するのは人間にしかできない。人の審美眼を持って選んで、ブラッシュアップしていくは人間にしかできない」と萩原氏は指摘します。

ただ、それは危機感にも繋がります。こうした会議のアイデア出しなどは、若手のクリエイターや作家の成長の場でもあったそうです。そうした会議が生成AIに取って代わられると、若者の成長の場が失われるのではないか、という懸念は、それぞれ3人とも感じているようです。
とはいえ、「いきなり生成AIを駆使して企画を考える新しい勢力も出てくる」と萩原氏が言うように、新たな若手の勢力が台頭する可能性もあります。現在はYouTuberやTikTokerの映像を大量に視聴していて、どういったコンテンツがバズるかをチョイスする審美眼を持つ人が増えており、そういった「ハネる企画を出せる人がナチュラルに出てくるのではないか」と萩原氏。
澤本氏は、「ソフトバンクのCMのお父さん犬」を生み出した張本人です。そのお父さんが生まれた背景は、「時間がなかったという制約を乗り切るためにやむなく使った知恵」だったそうです。
CM作りで最も速いのは、「究極には撮影を抜くこと」(澤本氏)ですが、それだと当たり前ですが映像がありません。事前に撮影した映像にアテレコするにしても、人間の映像だと唇の動きとアテレコが異なって違和感が生じてしまいます。
そこで「犬同士で会話するものを作っていた」と澤本氏。それがお父さん犬に繋がって、採用されたのだそうです。「今だったら、時間のなさを解決する方法として生成AIが使われたかもしれない」と澤本氏は話します。その場合、ひょっとしたらお父さん犬は生まれなかったかもしれないわけです。

生成AIの課題は「権利と倫理とクオリティ」だが、「確実にクリエイティブは良くなっていく」
生成AIと広告クリエイティブの関係で最大の懸念点として、3人の間で一致したのが「権利と倫理とクオリティ」(萩原氏)でした。
澤本氏は、「権利関係がしっかりしたら、タレント本人と見まがうようなAIで撮影できれば、タレントのスケジュール待ちがなくなる」と、現行の課題解決の一助になるとはいいます。
それも、すべて権利と倫理とクオリティの問題が解決してからのことです。そうした問題はあれども、バナー広告のように大量に作成するものは、生成AIに対して「人間が勝てない領域」と萩原氏。
テレビCMのように、ある程度の予算があって量は多くないというものは、背景の素材などの部分的な利用はあっても全体を生成AIで制作する例は当面は出てこないと予測します。

澤本氏は、当然生成AI自体は「(クリエイティブを)作りやすくなる部分もあるし、参入する人にとってチャンスもある」と賛成の方向性ですが、「生成AIで作ったものに対して抱いてしまう、ある種の人間がないという雰囲気」を指摘します。
これは、「白い犬」をスタジオで撮影して背景を合成するときと、ロケで撮影したときでは「ロケの方が全然いい」結果だったそうです。その良さは「目に見えない、なぜ元気なのか、目の光がいいのか」といった細かな違いなのだと言います。
「本当に人の心を動かすベースになるのは、そうした微細な点だと思っている」と澤本氏は話し、生成AIではその領域まではしばらくは実現できず、企画段階のプレゼンなど用途に応じた使い分けになるとの考え。
萩原氏は、生成AIの活用を進めるには「権利関係に尽きる」と指摘します。生成AI自体、「職を奪う」などとネガティブに捉えている人もいる中で、権利や倫理の問題が解消されておらず、成長著しい技術に対応できていないと言います。
ただ萩原氏は、生成AI自体は前向きに使えるようにするとクリエイティビティは良くなると言います。技術の進化の一例として萩原氏は、人物写真から人物だけを切り出す際に髪の毛を苦労して選択していた時代に対して、今はAIを活用して一発で正確に髪の毛も選択できるようになって、「あの(苦労していた)時間は何だったんだ」と萩原氏は笑います。
同様に、これまで時間がかかっていた作業をAIが短縮してくれるようになると予測し、「生成AIが権利物を侵害して人の仕事を奪っていくと決めつけず、仕事や生活を豊かにしていく一助になるもの」だと萩原氏はコメント。
「生成AIはあくまでツールでしかなく、敵対していくのではなく、ツールとして活用していくと確実にクリエイティブは良くなっていく」(萩原氏)と話し、セッションを締めくくりました。

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