2023年12月5日(火)~6日(水)の2日間、エンジニア・クリエイター向けカンファレンス「GMO Developers Day 2023」が開催されました。
本稿では、AI業界のトップランナーであるSHIFT AI 代表取締役 木内翔大氏、デジライズ 代表取締役社長 茶圓将裕氏、そしてGMOインターネットグループ 李 奨培によるセッション「ぶっちゃけAI活用推進する際に、現場で一番困ることってなによ」の模様をお届けします。
目次
登壇者
- 株式会社SHIFT AI 代表取締役
GMO AI & Web3株式会社 顧問
木内 翔大 氏(@shota7180) - 株式会社デジライズ 代表取締役社長
GMO AI & Web3株式会社 顧問
茶圓 将裕 氏(@masahirochaen) - GMOインターネットグループ株式会社 システム統括本部 DX推進開発部 部長
李 奨培(@jangbaelee)
ChatGPTを使いこなせている組織、使いこなせていない組織の違い
2023年は、ChatGPTやStable Diffusion、Midjourneyなど生成AIが話題になりました。来年以降、AIによって社会はどのように変わっていくのか。また、エンジニア、クリエイターとしてAIとどう付き合っていくべきか、経営層としてどのようにサポートしていくべきか。セッションでは、AI活用に関して3氏によるディスカッションが行われました。
まず、はじめのテーマは「ChatGPTを使いこなせている組織、そうでない組織の違い」です。
木内氏はまず「ChatGPTがリリースされてからちょうど1年がたった。活用できている企業とできていない企業では、かなりの差が出てきていると感じている。活用できている企業はどう現場で業務を効率化するかというところから、どのようにしてイノベーションにつなげていくかというレベルにまで移行しているが、活用できていない企業はこれからやっと導入する段階だったり、社内の制約が厳しく導入できないといった状況」と現状を整理します。そのうえで、ChatGPTを使いこなせている組織とそうでない組織との違いは大きく3つあるとします。
1つめは、トップダウンであるかどうか。使いこなせている企業は、AIに対する経営層の意識が強いという特徴があるといいます。2つめは、ボトムアップで活用できる現場のリテラシー。そして3つめは、1つひとつの業務を洗い出し、それをどうAIに置き換えていくかという業務改善のPDCAを回していることだといいます。
「GMOインターネットグループは、熊谷代表自らが早い段階で情報収集をして自身でChatGPTを活用していた。トップが自ら活用し号令をかけると、現場からもさまざまな活用のアイデアが出てくる。そうした会社は、ChatGPT活用のための環境整備や現場の育成も進んでいる」(木内氏)
茶圓氏は、Fortune 500企業の92%がChatGPTを導入している一方で、東証プライム企業1,834社の導入率:たった10%というデータを紹介。そのうえで、日米で大きく差がある理由を2つあげます。1つは、セキュリティの問題です。ChatGPTは海外製品であり、海外にサーバーがあるためセキュリティポリシー上導入が難しいケースです。2つめは、リテラシー。知識がないために使いこなせないというケースです。こうした状況に対し茶圓氏は「私の予想ではExcelやWordくらい普及すると思っている。早くChatGPTを導入して活用しなければらない」と危機感を示します。
李は、GMOインターネットグループとしての取り組みを振り返り、「熊谷代表による号令のもと、2023年4月から一斉にChatGPTの活用に向けて動いてきたが、精神論が大事だった。グループ幹部内で『AIを活用しなければ淘汰される』という危機感が共有されていた」とします。
使いこなせていない組織が使いこなせるようになるには
では、ChatGPTを使いこなせていない組織が使いこなせるようになるには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。
茶圓氏は「教育・研修に尽きる」と指摘します。
「現場がどうやって業務に使うかという方法を知らない場合、ある程度の強制力をもって教え込むことが重要。そのためには、教育とツールの整備という2つが必要になる。まずはツールを提供して、使い方をレクチャーするところまでワンストップで社内でサポートするのが理想」(茶圓氏)
一方、木内氏は「現場ドリブンでどこまでどこまで進められるかがポイントであり、そのためには現場におけるリーダーの育成が重要。マインドの醸成などもあわせて、アンバサダーとしてのリーダーを社内でつくっていくという方法が鉄板」と説明します。
2氏の意見を踏まえ、李は「GMOインターネットグループでは現在、現場のAIリテラシー向上に注力しているが、来年からはグループ各社にAIアンバサダーを設置しようと計画している」と社内の取り組みについて紹介しました。
AIプロジェクトを推進する際、経営層がすべきサポート
AIプロジェクトを推進する際に、経営層としてはどのようなサポートが必要になるでしょうか。
木内氏は、ソフトバンクグループ代表の孫正義氏の例を上げ「経営層が自分自身で使うことが最も重要。率先的に活用できるトップがトップダウンで号令をかけていくことで説得力が高まる」と強調します。また、社内全体のリテラシーとマインドを醸成することも重要であるといいます。そして、そのためには、幹部、現場のリーダーといった形で複数の層に分けてリーダー育成を行っていくこと、社内全体でChatGPTをセキュアに使える環境を構築すること、奨励金の支給や人事考課での優遇などで生産性向上に取り組む人材を評価できる制度を設けることが重要であるとします。
茶圓氏も、「ツールの提供が大前提」としたうえで、「教育とモチベーション管理が重要になる」と木内氏の意見に同意します。そして「興味のある人はもう活用を進めている。ここまでもてはやされているのに使っていないということはまったく興味がない人。そことどう向き合うかは課題」と問題提起します。
李は、GMOインターネットグループ全体でのAI活用プロジェクトの経験を踏まえ、「やらない人ややらない組織は、何らかの不安や危機感、認知的不協和を感じており、積極的に踏み込めていない。今やれていないことの理由を並べて正当化してしまっている。そうではなく、やるためにはどういった課題をクリアすべきかというところに目を向けたほうがよい」とコメントします。
この先エンジニアやクリエイターはAIとどう付き合っていくべきか?
「この先エンジニアやクリエイターはAIとどう付き合っていくべきか」というテーマに対して、茶圓氏と木内氏はそれぞれ次のように現状を説明します。
「フロントエンドの開発はGPT-4Vの登場で変わった。自然言語で開発できるツールも流行ってきている。すべてをAIに任せられるクオリティにまでは至っていないが、各作業を効率化できるため、開発期間が劇的に短くなっている。特におすすめのツールはtldraw。ラフなデザインからHTML、CSS、JSのコードを作ってくれる」(茶圓氏)
「tldrawやGPT-4Vでコード生成やデザインができるようになってきているというのは、主催するコミュニティでも実感している。実際に広告業界の人たちはすでに使い始めており、画像生成・デザイン系で3〜5倍くらい、動画系だと2倍以上の業務効率化につながっているという話もある」(木内氏)
2024年、AIで社会はどう変わる?
最後のテーマは「2024年AIで社会はどう変わる?」です。
茶圓氏は、「大リスキリング時代が到来する」と展望します。政府はリスキリングの支援に対し5年で1兆円を投資することを表明しており、国をあげてリスキリングの重要性が叫ばれている状況といえます。茶圓氏のデジライズ社による企業向けの研修も、こうした助成制度を利用すれば75%オフで受けることができるといいます。
「企業でのAI活用は助成制度を利用して普及していくと思う。ツールに関してもIT導入補助金を活用すれば半額以下で導入することも可能。そこをうまく使いながら進めることがポイント」(茶圓氏)
一方、AGI(汎用人工知能)やシンギュラリティの実現を15年前から信じており、IT革命を加速するためにエンジニアスクールを開講したことが現在の事業につながっているという木内氏。来年以降、人間より賢いAIが登場することは十分予想されるとします。
「OpenAIのAssistants APIのようにさまざまなシステムにGPTを埋め込むことができるようになると、アプリケーション同士が連携しあってスムーズにシステムをつなぎ込めるようになる。そうなると、もはや分散型のAGIと呼べるのではないかという考え方も出てきている。
生成AIの性能の指標となるパラメーター数が増大するなか、近い将来人間より賢いAIが登場することが予想される。だからこそ、活用するかどうかで生産性の差はより大きくなってくる。そうした意味で、リテラシー向上やリスキリングは重要」(木内氏)
変化を受け入れて楽しむことが重要
まだまだAI自体に課題はあるものの、個人や組織において活用しなければならないという意識は高まっている状況にあるといえます。李は「AIをはじめテクノロジーが指数関数的に進歩していくなかでは、変化の波を恐れず楽しんでいくことが大切。変化を受け入れて、柔軟に対応することで、可能性は無限に広がるはず。クリエイター・エンジニアのみなさんは、ぜひ変化を楽しみましょう!」と聴講者にメッセージを送り、セッションを締めくくりました。
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