育休復帰後、限られた時間の中でAIを活用してツール開発や業務効率化に取り組んできた佐藤咲さん。インタビュー前編ではリサーチやコーディングにおける「悩む時間」の圧縮や、ロゴチェックツールの開発背景、そして15年の経験がAI活用にどう活きているかを語っていただきました。
後編では、AI時代のデザイナーに求められる意識やスキル、デザインの価値の行方に加え、佐藤さん自身がプリンシパルデザイナーとして進む方向性などについて伺いました。

佐藤咲(さとう・しょう)|GMOペパボ株式会社 コーポレートコミュニケーション室コーポレートデザインチーム プリンシパルデザイナー
2011年、paperboy&co.に新卒1期生として入社。GMOインターネットグループ参画後は「ロリポップ!レンタルサーバー」のリブランディングなどに携わり、2017年から全社横断的な取り組みを行うデザイン部デザイン戦略チームに在籍。1年間の育休を経て、現在はプリンシパルデザイナーとしてコーポレートブランディングや事業部支援の取り組みを行う。
目次
デザイナーのキャリアを拓く「共創」の姿勢
—AIからよりよいアウトプットを提供してもらううえで、重要なことは何でしょうか。
佐藤
「受け身にならない」ことですね。私自身、試行錯誤のなかで作りたいものを作れるようになった段階で、「自分が作ったものは本当に良いのだろうか?」という疑問が湧いてきたんです。そこでビジュアルデザインの良さを言語化するべくAIにデザインレビューをさせてみたのが、AIからの批評を積極的に求めるようになったきっかけでした。
ただし一般的な使い方では、基本的にはこちらを肯定するコミュニケーションをとるため、人間に批判的な立場からのアクションを積極的に起こすようクリエイター側が促さなければ、AIは作業者にとどまってしまうと思っています。
そのためあえて課題点や問題点に言及させるアクションを起こし、第三者視点でのフィードバックをとことん引き出すことが、自分の考えを拡張して成果物の質を高めていくうえで大事な要素だと考えますね。
こうした批評を通じて「自分が作ったものを、自分が気付かなかった視点から言語化してくれる」ということそのものにありがたみがあると感じましたし、その尊さはレビューを行うのが人間であってもAIであっても変わりません。
単に「タスクをやってもらう」ためにAIを使うのは、AIを従えているだけに過ぎません。「こちらからAIにダメ出しを求め、返ってきたフィードバックをもとに自分の考えを深めていく」という対話のサイクルを意識的に回すことで、AIは単なる作業の代行者ではなく、デザインを一緒に磨き上げる共同創作者になっていくのだと思っています。

—これからのデザイナーには、どのような意識やスキルが求められるのでしょうか。
佐藤
「責任感」を持つことが大事だと思います。具体的には、「私が作りました」と胸を張って言える状態のことです。
AIが作ったものに対して、「AIが作ったんですけど」や「AIがやってくれたので」と謙遜してしまう方も少なくありません。しかし、AIが出力したものを見て「何か違うな」と感じ、その違和感がなくなるまで責任をもって修正し続けることが、「私が作りました」と自信を持って言える状態なのではないかと考えています。
今後AIはさらに賢くなっていくと思いますが、クリエイターが作品制作にあたってAIを使ったとしても、結局は自分の名義で成果物を提出することになります。そして自分が作ったからこそ、成果が振るわなかった時もAIではなく自分のせいでそうなってしまったのだという認識をしっかり持ち続けなければなりません。
もう1つ、「選ぶ力」も重要なスキルです。良いものを見極める「審美眼」ですね。
「これがいいデザインだ」「その理由はこうだ」と自分の中で言語化できないと、AIが出したものがどれも良さそうに見えてしまって、「どれでもいいな」と言う判断を下してしまいかねません。
「こうすれば良くなる」とAIが出した選択肢の中から選び、さらにブラッシュアップしていけるだけの実力がなければ、デザインの価値は低くなってしまいます。仕事は選択の連続ですから、自分が下した選択の1つ1つに根拠を持てるかどうかが重要だといえます。

誰でも描ける時代だからこそ求められる「面白さ」
—その審美眼を養うためには、何が必要なのでしょうか。
佐藤
日ごろからの学びが大事です。とくにAIの台頭以降は、最新の知識が掲載されている海外の記事へアクセスするハードルが下がっていると感じますね。
英語の記事は以前は読むのに時間がかかっていたのですが、今は「海外で話題になっているWebデザインの最新情報をまとめて出して」とAIに頼むだけで、さらっと知ることができるのは大きいです。
また新しい情報のキャッチアップはもちろん大事ですが、デザインの基礎とされるような、昔からいいと思われている部分は今後も変わらないと思いますね。
「どういうデザインが『整って』いるのか?」「しっくりくる形になっているか?」という感覚は、これまで自分自身が見てきたデザインや、積み重ねてきた経験から培われるものです。
自分の中に「これがいい」という基準があることは、AIとの共創においてとても重要だと感じます。
—AIとの共創が前提となるなかで、何を原動力として日々の仕事に取り組まれているのでしょうか。
佐藤
最初はAIを「便利なやつ」として使っていたのですが、「共創」という感覚に至った今でも、原動力はこれまでのデザインの仕事と大きく変わっていないなと感じています。
作業を代行してもらうこと自体は便利だなという気持ちのままでいいのですが、何を作るか、何の目的を達成するためのものなのか、出てきたものが本当に価値があるのかは自分が決めなくてはなりません。
最終的なアウトプットに責任を持って出すというところはAIの有無で変わるものではありません。だからこそ、価値を作っていくことや、誰かの課題を解決することといった「デザインで自分がやりたいこと」は大きく変わっていないんですよね。自分がいいなと思えるものを世の中に出したいというのが、今も変わらない私の原動力です。
—AIを使って誰でも動画や画像を制作できるようになりつつありますが、こうした潮流の中でデザインやデザイナーの価値は変わっていくのでしょうか。
佐藤
デザインの価値そのものは変化していくと感じています。ディレクターやエンジニアなど、今までデザイナーじゃない方がビジュアルを作れるようになっていくので、デザイナーがビジュアルを作る場面はどんどんなくなっていくだろうなと。
ただ、それは悪いことではないなというのが個人的な感覚です。みんなが作れるようになるなら、「作る喜び」に目覚める人が増えるんじゃないかというワクワク感を感じますね。
その一方で、AIっぽいイラストやAIっぽいプロダクトが世の中に溢れるようになった時、すごく均一的に見えてつまらない世界になってしまうだろうなとも思うんです。
最近もうすでにその傾向は出てきているように感じますが、ただ良いものを作るだけでなく、「面白さ」という視点を持てるかどうかが、デザイナーの出せる価値として大事になっていくのではないかと思います。
AI時代のデザイナーに求められる「新しいUXの観点」
—AIで仕事の進め方が変わるなかで、キャリア観やデザイナーとしての役割に変化はありましたか。
佐藤
AIで「動くものが作れる」というのは、エンジニアでもない私にとってまったく新しいスキルが身についたと思いますね。サーバーのことはわからないけれど、世の中にサービスやアプリといった「動くもの」を出すことができるというのはすごく達成感がありました。
自分が欲しいと思うものや、ユーザーから求められているものをデザイナー起点で作っていけるので、デザインの領域が広がりましたね。これまではエンジニアと分業していた領域にもデザイナーとして入っていけますし、今後はさらに自分が入れる領域を広げていきたいです。
デザイナーとしての新たな視点で言えば、AIがプロダクト内に組み込まれるようになったことで、今までなかったUIやUXの課題が出てきていると感じます。たとえば「AIが裏側で思考し、生成している最中の状態をユーザーにどう体験させるか」といった問いは、これまでの経験やセオリーだけでは解決できない課題の1つです。

—その課題に対して、今後どのような形で対処されるのでしょうか。今後の方向性や、プリンシパルデザイナーとしてどう挑むかをお聞かせください。
佐藤
最近はアニメーションを使ったローディング表示や、「生成中です」といったテキストの表示など、AIに関するUIが自然にプロダクトに取り込まれるようになっていますが、こうした「待ち時間の体験」をもっとポジティブにしたいと考えています。
今後は「AI前提でのユーザーエクスペリエンス(UX)」を考えることが、デザイナー全員に求められる課題点だと思っています。そしてプリンシパルデザイナーとしては、AIが入ってきたことによるUXのルール策定や新しい価値の発見を通じて、顧客体験の向上を実現していきたいです。
そのために、AIが今何をしているのかを動きやアニメーションで見せる取り組みを進めています。考えたりコーディングしたりといったAIの「存在感」を表すという、今までなかったUIの実現に取り組んでいるところです。
AIの存在をどうデザインするかという新しい領域に挑むことが、キャリアとしても大きな転機になっていると感じています。
—最後に、AI活用になかなか踏み切れない方や苦手意識を持っている方へのアドバイスをお願いします。
佐藤
AIに「使われる」のではなく、自分が何を創るかを決めたうえで、納得できるまでクオリティを高めたり選んでいくといった主導権を持つことが大切です。
すべてを丸ごとAIに渡す必要はなくて、自分が面倒だとか苦手だと感じる部分を任せたり、中立的な観点からのレビューを求めるといった「小さい主導権」を渡してみるというのがいいと思いますね。
そのうえで、AIからのフィードバックなどをもとに新たな視点から考えを深めて、さらにブラッシュアップしていくという使い方をしていけば、最終的なアウトプットはAIを使わなかった時よりも良くなるかもしれません。
AIに苦手意識を持つ方の中には、「手を動かすことに価値がある」という気持ちがあると思います。その思いは私の中にもありますし、手をかけて作ったものには希少性があると思います。その価値観を大切にしている方から手を動かす喜びを取り上げようとは思いません。ただ、手を動かすなかでも「面倒だな」と思う作業はあるはずです。
そういった部分からAIに任せてみることで、成果を見ていくうちに「こいつはもっとやれるんじゃないか」という信頼感が芽生えてくるはずです。最初は自分の苦手な部分からのお手伝いという「従える」部分から始め、だんだんと「共創」に発展するというプロセスが、一番スムーズではないかなと思います。
まとめ
育休復帰後の限られた時間の中でAIと向き合い、「便利なツール」から「共同創作者」へとその関係性を深めてきた佐藤さん。自分が気づかなかった視点をAIが示してくれることで、より良いアウトプットへとつながる「共創」のあり方が見えてきました。
最初は日々のタスクの中で面倒に感じる部分を任せるところから始まり、少しずつ活用の幅を広げていく。その過程でAIとの関係は、単なる作業の代行から、思考を拡張するパートナーへと変わっていきます。
一方で、AIを活用するからこそ重要になるのが、成果物に対する「責任」です。AIの出力をそのまま受け入れるのではなく、自らの判断で選び、納得いくまで磨き上げる。その積み重ねによってこそ、「自分が作った」と言えるアウトプットが生まれます。
AIとどう向き合うかは、これからのクリエイターにとって避けて通れないテーマであり、佐藤さんの実践はその一つの指針となりそうです。
GMOインターネットグループでは、今後もこうしたクリエイターが輝ける環境を実現しつつ、グループ全体で積極的にAI活用を推進する体制を強化していきます!

育休復帰後に制作したツールの開発背景や、15年のキャリアで培ったスキルの活かし方などを伺った前編もぜひ覧ください。

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