eコマースからセキュリティ事業への大きなピボットや、「Takumi byGMO」の事業価値のドラスティックな拡張など、フレキシブルな転換を行うGMO Flatt Security株式会社(以下、GMO Flatt Security)。その背後にあったのは、「1兆円企業を作る」という創業時からの目標と、「エンジニアの背中を預かる」というミッションの実現でした。後編では、豊田さん自身のデザイナーとしての足跡や、AIエージェント製品としての「Takumi byGMO」のUXの在り方などを伺います。GMO Flatt Securityの創業の歩みや「Takumi byGMO」の展望などについて語った前編もぜひご覧ください。
豊田恵二郎(とよだ・けいじろう)|GMO Flatt Security株式会社 執行役員CCO
東京大学工学部航空宇宙工学科卒。東京大学在学中に株式会社ラブグラフでのインターンやフリーランスでデザイン制作に幅広く携わる。2017年、代表取締役CEOの井手とともに株式会社Flatt(現・GMO Flatt Security)を創業。CCO(チーフクリエイティブオフィサー)としてデザイン全般の統括を担うほか、執行役員としてプロフェッショナルサービス事業部を統括。プロフェッショナルサービス事業における事業戦略の策定から開発者向けマーケティング(DevRel)の実行まで幅広い領域を管掌する。
結果を出すための「泥臭い努力」でキャッチアップ
—GMO Flatt Securityの立ち上げから関わられた豊田さんですが、ご経歴とバックグラウンドについてお聞かせください。
豊田もともとは東京大学工学部航空宇宙工学科の在学時に株式会社Flatt(現GMO Flatt Security株式会社)を共同創業し、CCOとしてデザインを武器に事業立ち上げに携わってきました。現在は同職でデザイン全般の統括を担いつつ、執行役員として事業全体の責任者を務めています。もともと子どもの頃から絵を描くのが好きだったのですが、大学で入ったサークルが、「Adobe Illustrator」や「Adobe Photoshop」などのツールを使ってデジタルのクリエイティブを制作するところでした。印刷物やWebなど、先輩に教わりながらそこでスキルを身につけた形ですね。サークルの活動をしながらフリーランスで仕事を受けていまして、そこからさらにインターンをするぐらいデザインに熱中していました。その後はよりアクティブに活動するため、3年に上がるタイミングで休学することにしましたが、そのタイミングで代表の井手から「会社を作るから一緒にやろう」と誘われまして。ダメだったら復学すればいいや、という軽いノリで参画したんですが、「結果を出さないままチャレンジを終わらせるのはすごく癪だな」という、負けず嫌いな部分は当時からありましたね。気づけばそんな感じで9年が経ってしまいました(笑)。
—一貫した方針のもとで行ったピボットとはいえ、BtoCのeコマースとBtoBのサイバーセキュリティへの転換で大きく変わった部分もあったのではないでしょうか。
豊田エンジニアでない自分にとって、一番大きな変化はドメイン理解の難易度でしたね。たとえばeコマースを例にとると、コミュニケーションデザインでビジュアルを作る時は、見る人にわかりやすく伝えるために、自分の知る限りのあらゆるテクニックを駆使して制作を進めてきました。サイバーセキュリティでも同様に進めていきたかったのですが、事業ドメインを何も理解していない状態では、そもそも「わかりやすい状態」の定義すらできません。デザインをするために、最初はとにかく技術理解を進めるしかありませんでした。今では顧客先で堂々と喋ったり、テーマを決めて登壇したりということは問題なくできるようになりましたね。振り返れば、結構大きな進化を遂げられたのかなと思います。
—その進化はどのようにして成し遂げたのですか。
豊田とにかく気合と反復です。たとえば自社の技術ブログをすべて読んで知識を入れるといった地道な学習を繰り返し、本質的なものを自分なりに理解できるまで学習を進めていました。泥臭くやってきたという自負はあり、その反復によって鍛えられてきたと思います。現在も広報の責任者として、自社の技術ブログはしっかり通読してから公開するようにしているんですよ。これを繰り返しているとかなり知識がついてきますね。今はAIがあるので、わからない部分を解説させるなどすればこうしたタスクにも取り組みやすいですよね。未知の領域への第一歩を踏み出しやすい、いい時代になりました(笑)。もう1つ大事なのは、エンジニアに対して「自分から提案する」のを恐れないことです。内容を深く理解できていない時ほど、技術的な依頼をされると、多くのデザイナーは「与えられた絵をなんとなく綺麗にしました」で終わってしまいます。ですが、自分なりに「ユーザーはここを理解できていないと思うから、表現をガラッと変えた方がいいのでは」と提案してみると、「確かにそうだ」と言ってもらえることがそれなりに多かったんです。たとえ自分の理解が十分に及んでいない領域であっても、良いデザインを目指す努力は決して諦めたり怠ったりしてはいけないと強く思いますね。仮に間違っていたとしても、その反復が自身を鍛えてくれるのは確実です。
訴求方法を変え、「Takumi byGMO」が全力を発揮する下地を整備
—「Takumi byGMO」の立ち上げや開発において、豊田さんご自身はどのような役割を担われたのでしょうか。
豊田市場に対するコミュニケーションの部分を主に担っています。とくに「Takumi byGMO」のようなAIエージェントによる脆弱性診断は、リリース当時はまだ世の中に浸透していない概念でした。今でこそClaude Mythosにより話題になっていますが、そうした製品の価値をわかりやすく伝えていくためのコミュニケーションデザインには、自ら手を動かす形でかなり力を入れてきました。新規で経験豊富なコミュニケーションデザイナーの入社もあったので、最近ではレビューが主で、順調にチームでのデザイン体制への移行も進んでいます。「Takumi byGMO」の製品開発は、主にCo-CTOの米内が牽引しています。米内はUXのバランスと技術力の高さを両立した製品をとんでもないスピードで出してくるので、プロダクト開発は基本的に一任しているという体制です。
—「Takumi byGMO」はSlack上で動くチャットUXからスタートしましたが、現在は管理画面ライクなUXに寄せているそうですね。この転換の経緯を教えてください。
豊田開発当時はDevinがすごく流行り始めていて、エンジニアがSlack上でDevinと会話しながら開発していくという体験がセンセーショナルでした。同じ体験をセキュリティエージェントで提供したいと考え、我々も同じくSlackのUXから「Takumi byGMO」を始めたんです。ところが実際に顧客に使ってもらうと、事前の想定とのギャップが出てきました。もともと「Takumi byGMO」は診断の網羅性や深さを重視する設計になっているため、検査には数時間や一晩かかることも珍しくありません。時間をかけるからこそ人間レベルの「深い」検査ができて、優れたアウトプットが出せるんです。一方でDevinのような開発エージェントは、比較的高速で会話のキャッチボールを行いながらプログラミングを進めていくので、「Takumi byGMO」のセキュリティ診断は性質がまったく違うものになります。だからこそ、Devinのような「手軽さ」をイメージしたユーザーがこうした検査をSlack上で走らせると、「まだ終わらないの?」という気持ちになってしまうことがわかりました。
—そうした課題に対し、どのように対処されるのでしょうか?
豊田DevinやChatGPTとの会話のように、数秒~数分で結果が返ってくるならば落ち着いて見ていられますが、数時間かかる検査を行うとなると、人間は検査途中でも「ちゃんと動いてるのかな」「一回ディレクションした方がいいんじゃないか」と介入したくなるんですよね。「Takumi byGMO」が適切に性能を発揮する上では、そこを一任してもらった方がいいんです。なので今は、「Takumi byGMO」に脆弱性を発見する業務を預けてもらって、回っている間は気にしないようにする」方向でUXをチューニングしています。たとえば開発定例会議の前日夜から検査を回しておき、翌日のミーティングの場にはレポートが上がっている…といった形を提案し、100%の性能を発揮できるよう訴求しているところです。AIによって製品開発をはじめとしたすべての業務におけるスピードが加速していますが、プロダクト作りは「人に使ってもらえるかどうか」がすべてです。だからこそ、こうした気付きや変化はプロダクトをいち早くマーケットに出して、顧客と対話したからこそ得られた収穫だととらえています。
開発現場のエコシステムに溶け込むパッケージで「エンジニアから信頼される組織」へ
—アプローチを変えるとなると、いま存在感を放っているパンダのキャラクター「Takumi byGMO」も変えていくのでしょうか?
「Takumi byGMO」のキャラクター「Takumiくん」
豊田もともとはチャットUXで親しみを持ってもらうためにキャラクターを作ったのですが、訴求方法が変わってもキャラクターを廃止しようとか、ネガティブに捉えているということはありません。ユーザーがSNS上で「Takumi byGMO」に言及する時、「Takumiくん」とくん付けで呼んでくださることがすごく多いんですよ。キャラクターがあることで覚えてもらいやすくなりましたし、親しみを持って使っていただけるプロダクトになれているので、顧客のエンゲージメントが高く保たれる効果があると感じています。当初から強く狙っていたわけでは無いですが、そのような価値創出の面では、Takumiくんも一役買ってくれていますね。もちろん親しみを持ってもらうためには製品が優れていることが大前提ですが、その上で愛着を持ってもらえる要素になっているように思います。
—AIの台頭も著しい中で、エンジニアやデザイナーの価値はどう変わっていくと思いますか。
豊田デザイナーとエンジニアの垣根は明確に溶けていくと思います。AIを使えばデザイナーだけで動くものが作れるし、エンジニアのコーディング時間も削減される。じゃあ空いた時間を何に使うべきかと考えたときに、僕は端的に言うと、顧客の課題やニーズを汲み取ることだと思います。デザイナーもエンジニアも、最終的に残るのは「人が使ってくれるものを作る」という部分です。そのためにユーザーと話さないと絶対にわからない、というものは本当に多いんですよ。だからこそ、ニーズを持っているユーザーや潜在顧客と対話して継続的な関係を構築するというウェットな部分が、重要なスキルや価値として残っていくのではないかと思いますね。言語化できるデザイナーの価値もより増していくでしょう。AIによって「自明な問い」の答えは誰もが即座に得ることができますが。すると、そのあとにはどうやったら人に使ってもらえるかといった「非自明な問い」だけが残ります。が、この議論はきっと紛糾するでしょうし、たとえ結論を出してみても、実行に移してみると間違いだったとわかる場合も多いはずです。だからこそ、言語化が大事なのです。しっかり言語化できていれば、ピボットする時にも「あの時こう考えていたから、次はこういうチャレンジをしてみよう」といった形で差分が明確になりますよね。「こうだからこれがいい」という論拠をもって行う議論こそが、事業の意思決定を加速させると思っています。プロダクト作りは、「人に使ってもらえるか」という本質がすべてです。事業ドメインが変わったりAIで開発環境が変わったりといった変化はありますが、この制作哲学は変わっていない部分ですね。
まとめ
「制作哲学自体はあまり変わっていない」と語る一方で、「新しいお題や課題が降ってくる状況をすごく楽しめる人間」だとも話す豊田さん。ブレない哲学と変化を楽しむ姿勢の両立が、GMO Flatt Securityのフットワークの軽さを支えています。UXの大胆な転換も、事業ドメインが変わっても揺るがない制作哲学と、顧客のニーズを起点にものづくりを続けるという一貫した信念があってこそ実現したものだといえそうです。
GMOインターネットグループは、これからもサイバーセキュリティ領域のリーディングカンパニーとして、サイバー空間の安全確保に寄与してまいります!
豊田さんがGMO Flatt Securityの創業の歩みや一貫して掲げるミッション「エンジニアの背中を預かる」姿勢について語った前編もぜひご覧ください!
▼【前編】創業時から変わらない「一貫性」で業界をリード GMO Flatt Security CCO・豊田恵二郎が語る、「エンジニアの背中を預かる」姿勢