GMOインターネットは、サイバーエージェント、ディー・エヌ・エー、ミクシィと4社共同で主催するテックカンファレンス「BIT VALLEY(ビットバレー) 2020」を2020年9月9日(水)~9月12日(土)の4日間に渡ってオンラインで開催しました。
3回目の開催となる本カンファレンスは、GMOインターネットが主幹事となり、東京都と渋谷区による後援と青山学院と東急の特別協力のもと、初の産官学連携で開催。例年、渋谷周辺の施設に参加者を集め、ワークショップや懇親会も行っていましたが、今回は新型コロナウイルスの影響で完全オンライン開催に変更となりました。「BIT VALLEY 2020」運営担当の稲守さんと高園さんに、イベントの裏側をお伺いしました。
▼インタビュー
GMOインターネット株式会社
稲守貴久 高園美里
目次
若手エンジニア育成のために
まずは「BIT VALLEY」について教えてください。
稲守
テックカンファレンスの「BIT VALLEY」は、エンジニア志望の学生や若手エンジニアにIT業界で働く魅力を感じてもらうために、現場で使われている技術や多様な働き方などを紹介するイベントです。現在では高度IT人財の不足が課題であり、「IT人財の育成やITのモノづくりに携わる人の技術力を底上げ」することを目的に、2018年に渋谷に拠点を置くIT企業4社(GMOインターネット、サイバーエージェント、ディー・エヌ・エー、ミクシィ)で「BIT VALLEY」プロジェクトを発足し、カンファレンスイベントの開催を中心にプロジェクトを展開しています。
「BIT VALLEY」の名前の由来は、渋谷がIT企業の集まる地として注目されていた1990年代後半に、「渋い(Bitter) 谷(Valley)」とデータの単位「Bit」を掛け、米国のシリコンバレーに倣って付けられたものです。その後、この名称もあまり使われなくなりましたが、約20年を経てプロジェクト名称の冠として復活しました。
カンファレンスとしての「BIT VALLEY」は今回が3回目で、GMOインターネットが主幹事だったということですが、毎年持ち回りで主幹事を行っているのですか?
稲守
明確に決まっているわけではありませんが、初回の2018年はサイバーエージェントさんが、2019年はDeNAさんが主幹事を務められました。今年は我々が手を上げて主幹事となりました。
初の産官学連携
今年の「BIT VALLEY」の目標や構想はあったのですか?
稲守
2018年は1日で約1,000名、2019年は2日間で約2,400名が来場したので、今年はさらに人数を増やしたいという気持ちはありました。もちろん数字だけが目標ではありませんが、指標として「参加者の増加」というのは念頭にありました。
主幹事になったことを当社代表の熊谷に報告し、今後の取り組みを議論したところ「産官学でやりましょう」という話になりました。2018年から東京都さまや渋谷区さまに参画いただいていたのですが、学術機関は関わっていなかった。若手の育成を目的にするのなら学校との連携が必要不可欠であるという考えです。今回の産官学の連携強化・推進というのは、「BIT VALLEY」のあるべき姿の再定義につながったのではないでしょうか。
今回のイベントでは青山学院さまが特別協力で初参画となり、セッション収録の会場を提供いただきました。コロナ渦により、イベントへの参画・会場提供にも多くの困難があった中でのご協力に大変感謝しています。こうした学術機関との連携の前例があると、活動意義に共感し、ともにIT人財を創出できる連携機関も増えるのではないかと思います。そうなれば活動意義は更に深まりますし、産官学連携強化により、今後より有意義な取り組みになることを期待しています。
いつ頃から準備を進めたのでしょうか?
稲守
約1年前からです。2019年の10月頃から各社の運営メンバーと次回開催について話し合いを始め、年末には関係各所にご挨拶に伺いました。運営側としてのキックオフは2020年1月に行い、そこから半年以上かけて準備を進めていきました。
1月は、ちょうどGMOインターネットグループが在宅勤務体制に移行したタイミングだったため、キックオフミーティングもそれ以降の会議もすべてオンライン開催となり、結局開催まで全員がリアルで集まることは一度もありませんでした。
2月頃にテーマなどが決まり始めましたが、それと同時に世の中のイベントが延期や中止になる状況でしたので、僕はリアルで開催するのは難しいだろうと考えていました。ただ過去2回の開催では、オフラインのイベントで「体験」を軸にコンテンツを作ってきたこともあり、オンラインに切り替えることでBIT VALLEYとしてどんな価値が提供できるのかを検討することにとても時間がかかりました。未曾有の状況で多くのカンファレンスが中止・延期を発表し、若者や情報感度の高い学生がインプットする機会が失われていることは紛れもない事実でしたので、我々BIT VALLEYがこれまでの形態にとらわれず機会提供すること自体にとても価値があるという結論に達しました。3月頃から開催形態について本格的に議論するようになり、最終的な各社のオーソライズがとれてオンライン開催が決定したのは4月の上旬でした。
オンライン開催が決まってから、もう一度企画の練り直しがあったんですね。
稲守
そうですね。最初は開催会場として青学さまのキャンパスを使うことを検討していましたが、物理的な場に人が多く集まることは難しかった。結果、セッション収録の会場として協力いただくことに変更しました。また初のオンライン開催を決定したものの、オンラインイベントのノウハウもなかったため、事前にプレイベントを複数回行っていこうと考えました。こうした見直しや変更を進めたのですが、オンライン企画に苦戦しました。新型コロナウイルスの感染が広がる中、行政、大学もそうですが、我々も混乱していたため、関係各所との調整も大変でしたね。
事前登録で1,000名突破
「BIT VALLEY」の集客はスムーズに行えたのでしょうか。
集客は想定以上に苦戦しました。集客手法としてはTwitterなどのSNSやBIT BALLEY運営各社のオウンドメディアなどを活用しました。我々GMOインターネットの場合は、自分たちの持っているチャネルでの告知、当社サービスでの広告配信などをしました。各社それぞれの手法で開催告知を行ったものの、事前登録数は苦戦。Twitterなどでもインプレッションはある程度あるものの、最後の登録までは進まない状況でした。リアルイベントがオンライン開催に変更となり、コンテンツ設計に時間がかかったことが大きいものの、4社で目線を合わせて進めていくことの難しさを実感しました。
高園
メインのイベントの前にいくつかプレイベントを行ったんですよね。
稲守
まずキックオフとして7/22(水)に各社CTOたちによるスペシャルセッションを行いました。2週間後の8/5(水)には若手エンジニアによるイベントを実施し、さらに2週間後の8/19(水)に開発リーダー・マネージャー特集を実施しました。
多様化した視聴形態
「BIT VALLEY 2020」の目玉コンテンツを教えてください。
稲守
目玉となったのは1日目の「基調講演」と2日目の「Developers Day」です。
9/9(水)の最初に行われた基調講演では、宮坂学さま(東京都副知事)、長谷部健さま(渋谷区長)、千葉功太郎さま(DRONE FUND創業者/代表パートナー)がスピーカーとして、そして当社代表の熊谷がモデレーターとして登壇しました。
「BIT VALLEY WEEK」の4日間は、それぞれ「NewNormal Day」「Developers Days」「Social Day」「Community Day」として、テーマごとにセッションを行いましたが、2日目の「Developers Day」で行った17セッションに注目が集まりました。
過去2回と比べて開催期間が増えましたが、実施規模が大きくなったのでしょうか?
稲守
どちらかといえば「分散させた」と表現したほうが正しいと思っています。事前登録をして時間を作ってリアルタイム視聴する人、SNSで目にした流れで視聴する人、事前登録せず当日YouTubeのLIVE配信を見る人、ながら視聴する人、長時間視聴するけどSNSは使わない人、アーカイブで事後視聴する人などなど、オンライン開催となったことで視聴形態が大きく変化しました。会場に集まらなくなったことで、テレビ番組やYouTubeの人気チャンネルなどと同じような立ち位置となり、可処分時間の奪い合いのステージに乗せられたんじゃないかという気がしています。
以前だと、時間を作って足を運ぶという労力が必要でしたが、オンラインだとその時間がかからないため参加しやすくなったといえますね。
稲守
その通りです。自分の視聴したいセッションだけ選択して見ることができるので、参加のハードルがとても下がりました。その点は運営メンバーもポジティブに捉えています。一方、気軽に参加できる分、視聴に対する熱量が下がる人もいるので、そこは課題でもあります。オンラインコミュニケーションの可能性を感じているものの、フェイス・トゥ・フェイスの重要性も改めて実感しているといったところですね。
参加者の反応はいかがでしたか?
基本的にはオンラインなので参加者の表情を見ることはできないですし、感想を聞いたりする機会もないので、運営として反応を体感するタイミングはあまり多くなく、その点は不安でした。反応を受け取る手段としてZoomウェビナーの視聴者用にアンケートを用意したのですが、これが驚くほど集まりませんでした(笑)
高園
稲守
最初はシステムエラーではないかと思いました
エラーだと思って試しにテストしてみたら、回答数が増えて、私のテスト回答がしっかり記録されていました(苦笑) で、これはマズイとなってアンケートに答えやすいように簡略化しました。今、視聴形態が多様化した新しい時代に突入しています。テレビ番組やYouTubeチャンネルを見て、何の特典もないのにアンケートに答える人は少ないですよね。それを考えれば妥当な結果だなと思いますが、イベント運営としては、参加者からのご意見や改善点をいただき、より良い仕組みを検討・改善していく必要があると思っていますので、今後の課題として残りました。
高園
4日間で、1万視聴超え
今回はすべて生配信で進めたのでしょうか?
稲守
基調講演の他、いくつか録画を流したセッションもありました。生配信と録画の反応の違いはほとんどなく、視聴者からの質問をその場で受け付けて答えられるかどうかという違いがあるくらいですね。
録画配信というと、登壇日に都合がつけられないため事前に収録するという印象を持つと思いますが、「あえて」録画にして、配信中はリアルタイムでTwitterで質問を受けつけ回答し、参加者とともにカンファレンスを楽しんでいた登壇者もいました。視聴形態の多様化をうまく活用していて、面白い取り組みだなと思いました。
「BIT VALLEY WEEK」の4日間の運営はいかがだったでしょうか?
ZoomウェビナーとYouTubeの視聴数を合わせて、1万視聴超えという集計結果が出ています。多くの方が参加したのだと考えると喜ばしい結果なのですが、運営側としては「本当にそんな沢山も見てくれていたのか」と、正直なところ実感があまりありません。
高園
稲守
自分で集計していても、信じられませんでした。
参加者だけでなく、ほとんどの登壇者も当日配信会場となった当社オフィス内にあるコミュニケーションスペース「GMO Yours・フクラス」には集まらず、各々が任意の場所からZoomに入室するスタイルだったため、リアルなコミュニケーションはありませんでした。本当に今セッションが展開されているのかな、みんな見てくれているのかな、とちょっと心配になるくらいで、やはりリアルイベントとは手ごたえが違いましたね。ただ、コロナ渦で特殊な環境であった中、事故なく無事にオンライン配信を終えられたことはとてもよかったなと思います。
高園
他のオンラインイベントとの違いはありましたか?
稲守
自社単独ではなく4社共同という点で、構成に幅や深みが出せました。その分調整の難しさや自由度の低さはありましたが、配信自体は「BIT VALLEY」も7月に開催した当社の技術カンファレンス「GMO Developers Day」も変わりません。箱があって、エンジニアがいて、スピーカーが話して、配信システムでお届けする、という部分はどのイベントも同じですね。これまでもリアルイベントの様子を生配信するケースがあったため、そういう意味ではチームして配信ノウハウや経験値が貯まってきていると感じています。
今後の展望
今後の展望を教えてください。
稲守
2018年に発足した「BIT VALLEY」プロジェクトは、渋谷を拠点とするIT4社が中心となって日本のIT業界を盛り上げる、というテーマを大前提としています。そこから毎年アップデートを繰り返していて、テクノロジーに加えクリエイティブも対象領域としたり、スピンアウト企画として子ども向けプログラミング教育の「Kids VALLEY」を開催したり、学術機関との連携を強化するなど、活動の幅を広げてきました。これからもIT業界の魅力を広めつつ、業界全体を盛り上げることに尽力していきたいと思っていますので、ぜひ今後の活動にもご注目ください。
来年についてはまだ何も確定していませんが、「BIT VALLEY 2021」について様々な意見を交わしています。今年以上に盛り上げたいですね!
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