GMO Developers Day 2021│ブロックチェーン開発者トークセッション

GMO Developers Day 2021│開催レポート③

2021年9月16日(木)~17日(金)の2日間、グループ横断テックカンファレンス「GMO Developers Day 2021」がオンラインで開催されました。

「GMO Developers Day」はGMOインターネットグループのサービス開発における技術や取り組みを伝える大規模テックカンファレンスです。今年はNFTやブロックチェーン、5G、DXなど業界の最先端情報を中心に全30のセッションが展開され、最新技術を活用した新しい挑戦や課題解決事例を交えたトークが繰り広げられました。開催レポートについてはこちらをご覧ください。

本エントリーでは、大盛況を収めた同イベントのブロックチェーンセッションについてレポートいたします。

イベント概要

セッション詳細

ステーブルコイン「GYEN」、NFTマーケットプレイス「Adam byGMO」の事業責任者や開発者が登壇します。ブロックチェーンの社会課題、技術課題などをテーマにゲストモデレーターをお招きし、ブロックチェーンの先駆者たちによるクロストークを展開します。

スピーカー

  • 中村健太郎 / GMO-Z.com Trust Company, Inc. / CEO
  • 眞田 恭平 / GMO-Z.com Trust Company, Inc. / GYEN Director of Engineering
  • 宮尾武裕 / GMOインターネット株式会社 / 次世代システム研究室

モデレーター

  • 絢斗優 / 株式会社グラコネ / ブロックチェーンコンサルタント

プロダクト開発の障壁となる規制をクリア

絢斗

プロダクト開発をビジネスでやっていく中で、法律や規制など様々な壁があったと思います。

もちろん規制はものすごく大きなハードルですし、1番大きなハードルは規制が明確でないというところです。これはステーブルコインにしろNFTにしろ、暗号資産全般に関していえることで、例えばどういうトークンが証券としてみなされるかとか、マネーロンダリング対策をどうするかとか、分散型金融に関してはどういう規制を作るべきかとか、昨今ようやく各国の規制当局が大きく動き始めているというところです。

我々のビジネスで1番辛いのが、日本円のステーブルコインなのに日本でできないというところで、これはなぜかというと、金融庁がまだステーブルコインに関する明確なガイドラインを作っていないからなんです。数年前、世界では仮想通貨(暗号資産)としてみなされているにもかかわらず、日本では「ステーブルコインは仮想通貨ではない」と明言されたため、「日本でできないなら海外でやろう」という発想でアメリカを拠点に決めました。

中でもニューヨーク州金融サービス局(NYDFS:New York State Department of Financial Services)は、ステーブルコイン発行業者パクソス(Paxos)の「パックストークン」やジェミニ(Gemini)の「ジェミニドル(GUSD)」という2つのステーブルコインをすでに監督していて経験値が豊富であったこと、さらに世界で1番厳しいとされている当局から許認可をもらって事業を開始するという戦略的発想のもと、ニューヨークから始めることにしました。

案の定、やはりとても厳しい当局なのでライセンスを取るのにすごく時間がかかりましたが、今まで規制がなかった無法地帯の中で大きくなっていった企業が規制の導入に合わせてバックトラックしたり、ガイドラインに合うようにビジネスモデルを変えたり、この国のお客さまにはもう提供できないと撤退したり、いずれはこうした事態が起きてくるはずなので、後追いで対応する方が圧倒的にコストがかかると思います。ですからニューヨーク州からまず始められたというのは、やっぱり大きなアドバンテージになると考えています。

規制の話だと、マネーロンダリング対策の部分が1番重たいですね。特にアメリカはマネーロンダリング対策で世界を引っ張っているので、ポリシー、プロシージャ(procedure:複数の処理を1つにまとめたもの)、内部規定、規定通りの対策を実行する部分までくまなく対応しなければならず、サードパーティーのツールなどを駆使してなんとかやっています。

絢斗:ちなみに「GYEN」の担保率、担保資産はどうなっていますか?

中村:「GYEN」も「ZUSD」も基本的には100%法定通貨で担保されていて、当然「GYEN」は100%日本円、「ZUSD」は100%米ドルという形になっています。これは我々も当局から非常に強く言われているので、それに従ってやっているという感じですが、先駆者であるテザー(USDT)やサークル(USDC)を見ると、徐々に実際の法定通貨の比率を大きくしていっている、というのが現状です。

絢斗:「Adam byGMO」の場合、もちろんNFT自体どういう風に定義されているかもあると思いますが、アートや著作物も取り扱っているので、クリエイター側とのやりとりが大変だと思います。「Adam byGMO」の規制周りについて説明をお願いします。

中村

宮尾

NFTはそもそも法律上でどういうものに当たるのかがかなり曖昧で、我々としても手探りでやっているところです。「Adam byGMO」では主にデジタルアートを出品していただいていますが、基本的に著作権は著作者のものであり、著作権の売り買いではないと考えています。じゃあ何を所有権として得られるのかというと、保有者限定コンテンツといって、保有者しか見られないコンテンツを提供などしています。権利に関しては各出品者がそのサイト上に記述して定義する形にしています。

絢斗

そうすると、例えばそのNFTを持っている人向けのコンテンツを作る場合、NFT自体で何かするのではなく、NFTを保有した人がその後また別の契約を結んで制作する、といった感じでしょうか。例えばNFTを持っている人だけが、二次作品を作る権利を持つなど。

そのあたりは保有者や著作者が許可するかどうか、というところになります。

宮尾

絢斗

海外ではNFTの分散保有や複数人がお金を出し合ってNFTを購入するという動きも増えていますが、日本ではどうでしょうか。

最近そういうのが流行っているため、「Adam byGMO」としても検討しています。出品者が1つのアイテムをシリーズとして番号を振って、それぞれを1人が保有するということは考えています。

宮尾

絢斗

今までだったらクリエイターが最初にすべてを作りこんだ完成品を販売していましたが、初期設定資料だけでスタートして中身をコミュニティが作っていくというLoot(NFTファンタジーゲーム)が最近話題になっています。こうした可能性、例えば「Adam byGMO」がコニュニティの核になっていくようなことは考えていますか?

今は検討していません。むしろその外部のコミュニティが「Adam byGMO」に流入することを考えています。

宮尾

GMOインターネットグループが持つ技術

宮尾

私の所属する次世代システム研究室は技術的にチャレンジングな部分を調査したり、それを新規サービスに導入したりする部署です。ブロックチェーンに関しては5年以上前から着目して研究、検証していました。その研究結果に関しては社内での勉強会を3ヶ月に1回開いており、そこでグループ的に共有しています。

例えばNFTだとエンジニアリングだけでなく広告代理店的な観点も必要ですし、求められるスキルセットがかなり特殊になってくると思いますが、今までのキャリアだと普通は混ざらないような複数のスキルセットを持った人を集めているのでしょうか? それとも社内で研修されているのでしょうか。

絢斗

中村

こういったプロジェクトに人をアサインするときは、責任者レベルからもちろん決めていきますが、GMOインターネットグループは「自ら手を挙げる」ということを大切にしています。やる気があれば手を挙げて、なぜ私がやるべきなのかをプレゼンテーションして認めてもらうというプロセスがあり、GMOインターネットグループらしい社風だと思います。責任者が決まったら、この分野に強い人というのを社内から集めたり、新規で採用したりするケースも多いですね。

私はGMOインターネットグループに12年程いますが、広告代理店をやったり、モバイルゲームをやったり、ビットコインのマイニングをやったり、そして今はステーブルコインやっているという感じで、割と幅広くやってきましたが、周りは眞田のように何でも開発できる人で固めたりしています。眞田はブロックチェーンもバックエンドも設計から何から何まで全部できる人なので、非常に助かっています。

社内で自社サイトを運営するにあたって、ブロックチェーンエンジニアの比率とブロックチェーン以外のエンジニアの比率は何対何くらいでしょうか。

絢斗

眞田

そうですね、ブロックチェーン自体の開発に携わっているということだと、次世代システム研究室が中心ですね。ブロックチェーンを使ったもの、となればグループ内にたくさんいると思いますが、それがサービスとして実際世に出ていくかどうかだと、そこまで多くないですね。

ブロックチェーンは未経験だけど他の言語は触れるといった場合、ブロックチェーン業界で働ためのスキルセットはどのようなものになりますか?

絢斗

宮尾

開発者もコントラクトレベルが必要ですね。サービス開発する際はスマートコントラクトの開発から行いますし、「Adam byGMO」はコントラクト部分を2名で開発しています。ブロックチェーンを初めて触るとなると、コンラクトの開発から、特にSolidity(スマートコントラクトを作成するためのオブジェクト指向プログラミング言語)で開発するのが1番やりやすいかなと考えています。

オンラインセッションの様子

多くの人に利用されるサービスに

中村

「GYEN」はたくさんの人に使っていただきたいという想いが1番強いので、とにかく流動性を増やしていくというところが目先の活動ではありますが、人気のあるイーサリアムにもボトルネックになる部分があります。そうすると他のブロックチェーンがプロモーションして、自分のブロックチェーン上にトークンを発行してくれというような活動が活発になってきます。やはりイーサリアムだけという世界には絶対にならないし、同じトークンが違うブロックチェーン上で発行される世の中になっていくと思うので、我々もその方向に向かっています。

特にtoBのビジネスにおいては、お客さまから「このチェーンで発行してほしい」と具体的なリクエストをいただくこともあるので、需要としてどこが1番強いのかを見極めながら、他のブロックチェーン展開にも着手し始めています。最終的に、実際に使われるブロックチェーン上に「GYEN」と「ZUSD」を発行していくのが1つの戦略です。マルチブロックチェーン、マルチチェーン対応と呼んでいますが、それは必ずやります。

もう1つ、我々より何年も前に発行しているUSサークル社のUSDCは、24時間365日いつでもAPI経由で瞬時に発行と償却ができます。これがなぜできるかというと、アメリカにはシルバーゲート(Silvergate)やシグネチャー銀行(Signature Bank)という暗号資産事業に特化した銀行があり、彼らは自行のセトルメントネットワーク(Settlement Network:銀行間決済)のような形で自社のイーサリアムベースのトークンを発行し、それをメジャーで動かしているため、そうした技術があるから可能になっています。日本円になるとどうしても海外送金が絡んできたり、スイフト(SWIFT:国際銀行間通信協会)を経由しなければならなかったりとハードルがありますが、日本円でも24時間365日の発行と償却ができるような仕組みを今開発中で、これを近日中に公開すれば圧倒的に競争力が上がると考えています。ですから、まずこの2つが1番大きな戦略ですね。

最終的にはプログラマブルマネー(Programmable money:プログラム可能なお金)で法定通貨と同じような使い方や、さらにその先のすべてをプログラムで回しながらデジタル通貨として世の中で使っていただくところが最終的なゴールではあります。国際送金にしろ、マーチャント(Merchant:決済代行)での決済にしろ、eコマース決済にしろ、お金が絡んでいるところはすべてこのステーブルコインでできる、という世の中になればと思いながら事業をやっています。

日本円のステーブルコインを使ったDeFi(Decentralized Finance:ディーファイ、分散型金融)の運用は将来的にはありますか。

絢斗

中村

将来的に可能性はあります。研究は当然内部で進めていて、DeFiやDEX(Decentralized EXchange:分散型暗号資産取引所)という分野は必ずこれから伸びますし、おそらく規制はされるのでしょうが、規制された方がきれいに市場も伸びていくのではないかと思うので、我々としては当局から許可をもらってビジネスとして組み立てていきたいと考えています。

今までは営業と経理は別でしたが、ステーブルコインを使うとそれが一体化して、現場同士で「案件が成立しました」「終了しました」とやり取りすると送金されるということが海外ではできますが、そういったプログラムマネーなどのサービスは開発されているのでしょうか。

絢斗

中村

そこまでは及んでいないです。まずビジネスサイドからしっかりユースケースを作らなければならず、例えばP2Pの電力トレーディングやトレードファイナンス(Trade Finance:貿易金融)といった分野のお客さまとはそうした議論をしています。これがビジネス側で案件化したら作るという流れが一般的だと思いますが、我々はまだビジネス側の需要のどこが跳ねそうかといったところを見極めている状況です。

「Adam byGMO」の今後の展望をお聞かせください。

絢斗

宮尾

まずはたくさんの人が「Adam byGMO」でNFT取引できるようにしていきたいと考えています。そのためにはユーザビリティを向上させ、ブロックチェーンに詳しくなくても簡単にコンテンツを売買できるようにしたいです。それと並行して、より質の高いクリエイターが「Adam byGMO」でたくさんアートを出品できるようにしていきたいと考えています。その次は、証券、不動産、チケットといったデジタルアート以外のものもNFT化して、それを「Adam byGMO」で売買できるようにしていきたいですね。

今までのファンクラブとは違う、NFTを持っている人だけが投票できるコンテンツやNFTを持っている人だけが入れるグループチャットなどが海外で増え始めていますが、日本ではどうでしょうか。

絢斗

宮尾

具体的な検討はまだですが、そういった様々なものへの応用は考えています。

実際にサービスを運用していると、さまざまなトラブルがあると思いますが、これから解決しなければならないものはありますか。

絢斗

眞田

技術的な課題というか、ブロックチェーンの業界全体の問題でもあると思いますが、ブロックチェーンの秘密鍵を使って「GYEN」を送ったり受け取ったりした際、お客さまが私たちに「GYEN」を送ったと連絡しても、本当にそのお客さまが元のアドレスの保有者なのかどうかを確かめる術が今はまだありません。技術的に解決することは可能ですが、「これが私のアドレスです」と証明できる業界のデファクトスタンダードがないため、サービスを運用していく中で問題になるのではと思っています。

本当にその人が持っているかどうかを証明するために、指定された時刻に少額のプロダクションを発行するというのが海外の裁判事例でありましたが、実際に送金してみる以外にその人が本人であると証明する方法はありますか。

絢斗

眞田

実際は秘密鍵があるため署名はできます。秘密鍵に対する公開鍵のようなものがアドレスにあたるので、秘密鍵と公開鍵があればデジタル署名のような確認はできるのですが、お客さまが技術に強い方ばかりではないため、機能として搭載されているウォレットがない限りは現実問題として難しいのではないでしょうか。

「Adam byGMO」の課題はありますか?

絢斗

宮尾

リリース直後なので大きなトラブルは起こっていませんが、クリエイター集めをする際、「そもそもNFTは何なのか」「NFTを持っていたら何ができるのか」という部分の説明には苦労しました。「NFTを持っていると、その所有者だけが見えるコンテンツを提供できます」といったわかりやすいメリット提供することで、様々なクリエイターを集めることができました。

クリエイターを集める時、ブロックチェーンに興味がある人という基準で探したのか、それともクリエイター側から声をかけてきたのでしょうか。

絢斗

宮尾

両方です。NFTは様々なコンテンツ事業者が興味を持っているため、そちらから話が来たり、こちらから営業をかけたりといったことを行っています。

エンジニアの探求心をくすぐる開発環境

中村

「GYEN」、ステーブルコイン、暗号資産は、「こんなの絶対なくなる」という人と「ビットコインなど暗号資産のトークンが法定通貨と入れ替わるだろう」という人の二手に意見が分かれます。我々としては、法定通貨はなくならず、ステーブルコインや暗号資産が共存すると考えています。ブロックチェーンの技術自体は、改ざんできない点や自動的にスマートコントラクトを介してプログラム経由で実行できる点が大きな利点となっているためなくならないでしょうし、インターネットがここまで普及したように、ブロックチェーンも5年10年20年かけてインターネットと同じぐらい普及するのではないかと考えています。とてもおもしろいビジネスなので、できるだけ多くの方に興味を持っていただければと思っています。

ブロックチェーンを扱ってサービスを世界で展開するということは、様々な課題に直面すると同時にいろんな経験ができます。ブロックチェーン自体へのアプローチだけでなく、アメリカでサービスを展開し、金融という縛りが強い世界の中でどうやって安全性を担保して別のサービスにつなぎこむのかなど、日本のサービスを開発している中では携われないような部分もあるため、技術的な探究心が満たされると思います。また、我々が作ったプログラムがビジネスの中でどういった立ち位置を占めるか、という部分に興味がある方にも満足いただける環境だと思います。

眞田

宮尾

まずは「Adam byGMO」を触ってNFTとはどういうものかを皆さんに知っていただけたらと思います。「Adam byGMO」の開発としては、ブロックチェーン、スマートコントラクトの開発だけでなく、フロントやバックエンドといった一般的なWebサービスの開発が中心になっていますが、そこにも新しい技術を取り入れているので、エンジニアとして楽しく開発できる現場だと思います。

さいごに

全編セッションにつきましては以下よりご視聴ください。

さいごまでお読みいただきありがとうございました。

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技術広報チーム

GMOインターネットグループ株式会社

イベント活動やSNSを通じ、開発者向けにGMOインターネットグループの製品・サービス情報を発信中

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