暗号通貨取引所「GMOコイン」、NFTマーケットプレイス「Adam by GMO」、オリジナルグッズ作成・販売サービス「SUZURI by GMOペパボ」におけるNFT連携機能——GMOインターネットグループ各社は、プロダクトという形でブロックチェーン技術をビジネス実装し、その価値を世の中に届けています。
GMOインターネットグループが2022年12月6日(火)~7日(水)の2日間、渋谷フクラスおよびオンラインにて開催したテックカンファレンス「GMO Developers Day 2022」のKEYNOTEセッションでは、ブロックチェーンをはじめとした分散システムを研究する京都大学 首藤 一幸教授をゲストモデレーターに迎え、GMOインターネットグループ株式会社の佐藤 史彦、GMOペパボ株式会社の黒瀧 悠太とともに、ブロックチェーン技術をビジネス実装する意義や課題について議論しました。
目次
登壇者
モデレーター
- 首藤 一幸
京都大学学術情報メディアセンター 教授
スピーカー
- 佐藤 史彦
GMOインターネットグループ株式会社
グループ研究開発本部 次世代システム研究室 室長 - 黒瀧 悠太
GMOペパボ株式会社
SUZURI事業部 シニアエンジニアリングリード
Ethereumを中心としたプロダクト開発・実証実験
佐藤が所属する次世代システム研究室は、GMOインターネットグループの事業領域で、様々なプロジェクトの技術支援・開発・解析などを行い、ビジネスの成功を支援する部門。近年は、ブロックチェーン技術の研究に注力しています。2015年末頃から技術調査を開始し、2016年2月には、スマートフォンゲームアプリのバックエンドの仕組みにブロックチェーン技術を適用することを発表。これを皮切りにブロックチェーン技術を社会実装するための研究を本格化し同年12月には、ブロックチェーン上に分散型アプリケーションが構築できるEthereum採用のPaaS型ブロックチェーンプラットフォームのβ版を公開しました。
「当初はプライベートブロックチェーンのソフトウェアをベースにプラットフォームを提供しようとしていましたが、紆余曲折あり、ParityのEthereumクライアントを使ってパーミンションド・ブロックチェーンPaaSを構築することになりました」(佐藤)
GMOインターネットグループはこのプラットフォームを利用して、認証を受けた本人のみが受取可能な宅配ボックスの実証実験をセブン情報システムズと共に実施。さらに、チケットの転売防止に応用する提案なども行ったといいますが、実際の利用に至るまでは進められず、現在サービス自体はクローズしている状況です。しかし佐藤は、「こうした活動によってEthereumを中心にブロックチェーン技術を検証してきた。
この経験は、その後に開発するプロダクトにもいきている」とします。
佐藤は、暗号資産関連の取り組みとして、GMO Trustが発行するステーブルコイン「GYEN」についても紹介しました。GYENは、ニューヨーク州規制当局の認可を得た世界初の日本円ステーブルコイン。基盤はEthereumからスタートしましたが、現在はそれ以外の基盤への展開を進めているところです。
GYENが取引所に上場した2021年3月当時は、NFTアートが盛り上がりを見せており、GMOインターネットグループもNFT事業に参入することを決定した時期でした。このとき、NFTに関するシステム開発を一手に引き受けたのが、次世代システム研究室でした。佐藤は「いかに早く盛り上がっているタイミングでプロダクトをリリースするかが重要だった。我々のEthereum技術をいかし、4か月という短期間で『Adam by GMO』を立ち上げた」と説明します。
「ブロックチェーン・ネイティブの領域を押さえるだけではなく、これまでのEC体験と同じように、一般の方でも日本円/クレジットカードで購入できるといった使い勝手を同時に実現しなければなりませんでした。これが難しく、かなり悩んだところです。試行錯誤を経て、なるべく使い勝手を優先する形で、オフチェーン処理にウェイトを寄せた設計で開発を進めました」(佐藤)
SUZURIにおけるブロックチェーン活用の取り組み
黒瀧は、オリジナルグッズを誰でも作って販売できるサービス「SUZURI byGMOペパボ」の技術責任者という立場で現在、開発に携わっています。2017-18年頃には、「SUZURI People」というクリエイター支援に向けた月額制コミュニティーサービスを運用していました(現在は閉鎖)。実はもともとSUZURI People立ち上げの裏には、2016年頃からのICOブームを受け、ブロックチェーンを使ってクリエイターがトークンを発行し、ファンがそれを買うことでクリエイターを応援できるプラットフォームをつくるという構想があったといいます。
「当時、社内のエンジニア2-3人でとりあえず本屋に行ってブロックチェーン関連の書籍を複数購入。これを読みながら、個々人がまず自分でICOをして、社内でトークンを配るという一連の流れを社内でやってみました。その後に、DEX(分散型取引所)におけるBancor Protocol(流動性を担保するための価格変動アルゴリズム)を社内でつくり、クリエイターさんに実証実験へ参加してもらいました。いろいろあってリリースができないという判断になり、SUZURI Peopleのような形で運用することになりましたが、こうした裏側があったのです」(黒瀧)
しかし、ブロックチェーン技術をプロダクトに実装する取り組みは続いています。2022年5月にGMOペパボは、SUZURIの一機能として、NFTコンテンツからオリジナルグッズを作成できる機能をリリースしました。この機能は、ユーザーがブロックチェーンウォレットであるMetaMaskの情報と連携させることで、ウォレットのアドレスに紐づくNFTの画像を利用してSUZURI上でアイテムの作成ができるようになるというものです。今後は、クリエイター向けの機能としてだけではなく、「NFTの保有者で、かつ、NFTコンテンツの商用利用許諾を受けた方」も、より適切な形でオリジナルグッズを作成・販売できるような仕組みを整えていく予定です。
ブロックチェーン技術が社会に浸透するために必要なこと
セッションでは、こうしたブロックチェーン技術に関するGMOインターネットグループ各社の取り組みを踏まえて、3名によるパネルディスカッションが行われました。以下ではその様子の一部をご紹介します。
首藤
これまでの取り組みをはじめたきっかけや、その後どのような壁や困難にぶつかったか、それをどう乗り越えたのか、お話しいただきたいと思います。
皆さんに使ってもらえるように、いかに使いやすくするかというところが一番の課題でした。ブロックチェーンをはじめとするこの世界は、分散型、非中央集権的なムーブメントがあります。使いやすさと分散型のあいだにあるギャップを埋めることは、非常に難しいです。たとえば、セルフカストディ型のウォレットは、一般の方にとっては使いにくく、なかなか手を出しにくい。Adamの開発時には特に大きな問題になりましたね。
佐藤
首藤
MetaMaskにウォレット管理が集中してしまうことには、私からすると残念感があります。ただ、MetaMaskですら皆さんに使ってもらうのが難しいということもわかります。誰をターゲットにするのか、どの視点で見るのかによって、やらなきゃいけないことは変わってくると強く感じました。さらにコンシューマー寄りの仕事をされている黒瀧さんから見て、いかがでしょうか。
これからブロックチェーン技術がさまざまなところに浸透していくための鍵のひとつは、キラーアプリだと考えています。ウォレットのアプリとしてはMetaMaskがありますが、ウォレット以外のアプリもどんどん浸透していくことを期待しています。あとはFat Protocolという話もあるように、パーミッションレスで使えるプロトコルが今後増えていくことで、それに伴い開発者が増えていくこともポイントだと思っています。プロトコルレイヤーと、アプリケーションレイヤー両方の可能性がもっと広がっていくと良いですね。
黒瀧
首藤
それが商売にならないと発展しないという難しさもありますよね。
今ではWeb3関連のスタートアップも出てきていて、ITの世界に入るきっかけがWeb3だという若い人も多いと思います。一方で、Webアプリーケーションを10年くらい勉強してつくってきた私のような世代の人たちも、ブロックチェーンで何ができるのか、各業界でどうやってビジネスにしていくか考えているところだと思うので、世代ごとの知見をいかしてこれからさまざまなものが出てくることを楽しみにしています。
黒瀧
首藤
京大や東工大の学生にもブロックチェーン関連のプロジェクトにコミットしている人がけっこういますし、GMOのCVCであるGMO Web3のミーティングに参加していると、20代前半の人たちが、驚くほど新しいことを考えている様子を目の当たりにします。
Web3やブロックチェーン系のハッカソンに何回か参加したことがあるのですが、10代後半から20代前半の大学生・高校生の参加者が多かったです。懇親会で話してみたところ、自分が思っているよりもずっと真剣に未来のことを考えている方が多いと感じました。
黒瀧
私の部署ではブロックチェーンをテーマにしたインターンシップをやってますが、熱量の高い学生が全国から集まってきています。若い人への期待感は感じますね。
佐藤
インターネット技術黎明期との相違
セッションも終盤に差し掛かったなかで、会場参加者から3人に質問が寄せられました。
ブロックチェーン技術は、インターネット技術と比較されることがあります。今、ブロックチェーンは黎明期といわれていますが、インターネット技術黎明期と比べて、相違点や似ている点はありますか。
首藤
私は研究業界にいるためかなり基礎的なことから考えてしまいますが、たとえばビットコインやEthereumは、何かすると世界中に影響が及んでしまうので、自分の範囲で局所的に実験をすることが困難です。昔のインターネットに比べて冒険しにくい構造があるように思っています。
インターネット黎明期は、オープンソースが今ほど一般的ではありませんでした。しかし、今ではソースコードがオープンなものも増えていますし、ブロックチェーンの場合は、そもそもプログラムや仕組みだけでなく、実際に流れているデータから世界でどういうことが起こっているのか、外から見えやすい環境にあります。もちろん技術を習得する必要はありますが、やる気があればなんでもやってみれるという点は、当時とは少し違うように感じています。
佐藤
一方で、セキュリティの基準が最近すごく高まっていると感じています。当初はWebアプリーケーションのフレームワークも使わずに書いたものをとりあえず動かしている状態で、攻撃されてもあまり大きな問題にならないような状況だったと思いますが、攻撃者がさまざまなWebサービスを攻撃するようになってきたことで、Webサービスをつくる際にはWebアプリケーションのフレームワークを使って、意識して守るところは最小限に押さえ、堅くつくるというやり方が主流になってきました。そして、Web3は、攻撃されたときの金銭的な損失が今までのWebサービスと比べてより大きくなります。守りを意識して慎重に開発を進めなければ痛い目を見るので、セキュリティ的な観点ではハードルは高くなっているように思っています。
黒瀧
首藤
Web3の鬼門は、価値がネットワークに載るという点にありますね。その価値を守る必要性が高まったというところだと思います。
最後に、参加者から寄せられた「ブロックチェーン関連のスタートアップに対して、GMOとしてどのようなことを期待しているか」という質問に対して、佐藤は「我々の価値観や観点とは異なる部分。それをもとにどのような未来をつくっていくかという期待感を見せていただけることを期待している」、黒瀧は「これまで取り組んでこなかった企業が急にブロックチェーンでビジネスをやろうとしても、さまざまな理由から方向転換しづらい面がある。スタートアップには、ゼロから始められるという強みがある。スタートアップの方々には、長い将来を見据えたうえでさまざまな分野での応用事例をつくっていただき、スタートアップ同士や、歴史の長い企業とのコラボレーションが進んでいくとよい」とそれぞれコメントし、本セッションを締めくくりました。
Web3のムーブメントが拡大し、注目の集まるブロックチェーン技術。さまざまな業界や世代のプレイヤーが参入し、今後さらに盛り上がっていくことを期待したいです。
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