コーディング特化LLMやAIエージェントの登場により、かつて人間にしかできなかったプログラミングが、徐々に機械によって代替される未来が現実味を帯びてきました。こうした状況の中、「AIがここまでできるなら、ITエンジニアはもう不要なのでは?」という声も少なからず聞かれるようになっています。しかし私は、まさにこのAI時代だからこそ、ITエンジニアの存在意義は揺るがず、むしろその重要性は一層高まると確信しています。本稿では、ソフトウェアエンジニアリングの歴史を振り返りながら、AIと共存するこれからの時代においてもエンジニアという職業が不変の価値を持ち続ける理由を、実務視点で紐解いていきます。
目次
「ITエンジニア不要論」にどう向き合うか
既に様々な記事やシーンで話題となっておりますが、コーディングLLM、AIコードアシスタント、AIエージェントの台頭によって予想される「ITエンジニア不要論」について考えていきます。
はじめに私のスタンスとしては(GMOインターネットグループでは「結論ファースト」を重んじています)、今後どれだけAIが進化し人間の能力をはるかに凌駕したとしても、ITエンジニアは不要になるどころか益々その重要性を増し、慢性的なITエンジニア不足は一向に解消しないと考えております。
なぜ私がこのような結論に至ったのか。それは過去のソフトウェアエンジニアリングの歴史を振り返れば明らかです。
まず職業としてのソフトウェアプログラマの始祖は、かつてキーパンチャーと呼ばれた人々ではないでしょうか。彼・彼女らは手書きの設計や指示書を元に、入力媒体として紙に穴を「空ける」or「空けない」という事で2進数を表現し電子計算機(コンピュータ)に命令(プログラム)を送っていたそうです。実際にパンチカードに入力(穴空け)するキーパンチャーと、その結果にミスがないか確認するベリファイ担当者が居たとの事で、それらの熟練者は無数に穴が開いたパンチカードを目視で確認するだけで異常に気付いたという逸話があります。それは、後の16進数で表現されたマシン語に置き換わっても同様で、00~FFからなる長大な文字列の羅列を目視で読み解いたり、少し自然言語に近づいたアセンブリ言語においても、熟練のプログラマは不具合の現象を電話で聞くだけで、そのバグ箇所や改修方法を口頭で提示できたと言います。当時のエンジニアの超人ぶりたるや計り知れませんが、ご興味のある方はナーシャ・ジベリ氏などのファミコン(当時商業的に最も成功したソフトウェアのひとつだと思います)一時代を築いたエンジニア達の伝説やその系譜を辿って頂くことをお勧めします。

より人間に近づいたプログラミング言語の進化
少し話が逸れましたが、その後のソフトウェアエンジニアリングの歴史はどのようになりましたでしょうか。プログラミング言語は、より人間が理解しやすい記法になり(日本語で扱える「なでしこ」「プロデル」「Mind」などもあります)、更にはこれまでの手続き型プログラミングからオブジェクト指向という一種のパラダイムシフトがあり、同時にシステムや設計論の深化、エンジニアリングチームの巨大化に応じて、例外や型安全・Null安全、ジェネリクスの概念がもたらせられました。特にIDE(開発環境)の進歩は目覚ましく、文法のチェックのみならず、インテリセンスやデバッグ機能の拡充、カバレッジのメトリクス化、テスト環境やソースコード管理の統合のほか、AIコードアシスタンスやコーディング特化LLMの統合など現在も日々進化しています。また、WEBを中心とする汎化された共通機能はフレームワークとしてパッケージ化され、そのほとんどがOSSとして多くの有志や企業によって精錬されたり、フォークによる多様な進化を遂げており、それらを使用するITエンジニアは車輪の再開発をする必要がなくなり、企業やサービスのバリューアップにその時間を費やすことができるようになりました。ですが、ITエンジニアが充足することはありませんでした。
ソフトウェア開発組織の在り方も大きく変化しました。プログラミング初期では上述のとおり、一部の超専門的(あるいは献身的)なソフトウェアエンジニアに支えられていましたが、現在では私を含めて多くの人々がソフトウェアプログラミングを安価でかつ短期間で習得し、職業やOSSコミッターとしてソフトウェアの価値創造に寄与する機会を得ることができました。そして分業化が進みSIerやSES業界が急伸する要因ともなり、ますますITエンジニアが求められることになりました。

OS・IoT・アプリ・クラウドが生活に浸透
一方、その因果関係とは前後しますが、プログラミングによって生み出されたソフトウェア(製品)はどうなったかというと、皆様が体感されているとおり、ハードウェアやプログラミング環境の急伸と共にソフトウェアの「価値・体験」も大きく向上してまいりました。顕著な例では、ゲームがドットピクトから3D/2.5DやXRに進化したことや、スマホなどのポータブルデバイスでも据置機と同等以上の体験が得られるようになったことからも明白です。それは、ゲーミング体験のみならず様々なOS、IoT/ICT、アプリ、クラウドによって人々の生活にまで大きく影響を及ぼすようになりました。
さて、話を戻してITエンジニアリングとAIの関係に戻ってまいります。ご存じのとおり開発者向けAIはITエンジニアの業務をサポートする形で伸長しておりますので、短期的にはITエンジニアの業務や認知負荷は下がり、ジュニアエンジニアや市民開発者、更には学生やこれからITエンジニアへキャリアチェンジを考えている方にとっては大きな追い風になっております。ただし、業務上のプログラミングでこれらのAIを利用する場合は、その生成されたコードを製品にマージすることに対する責任は依然としてそのITエンジニアにあります。つまり今まで以上にAIが提案するソースコードの異常を敏感に検知するプログラミング感性や設計力、ステークホルダーとのコミュニケーション能力が必要であることを示しております。
思い返せば、現在キーパンチャーやプログラムのタイピングだけを行う純粋なプログラマー・コーダーはどのぐらい残存しているのでしょうか?ほとんどのITエンジニアは、要求定義~要件定義~コーディング~テスト~デプロイ~運用~障害・インシデント対応(WF的に記載しました)といったあらゆる工程を担当しており、特に「良いITエンジニア」と評価されるエンジニアに共通しているのは、コーディングよりもむしろその周辺に時間と能力を費やし、コーディング自体にかける時間は反比例しているのではないかと感じております。

ITエンジニアの技術は、誰のためにあるのか
我々ITエンジニアの手(技術)は、何のためにあるのでしょうか?私はこのAI時代に入ったことで、より明確になったと確信しております。それはITエンジニアの成すべきことは普遍的に企業やそのサービスに「価値を提供し続け」人々の生活をより良くするものでなくてはならないと。
AIがAGI・ASIになることで、それを加速することができます。ですが、巨大電子計算機からPC、スマホ、IoT/ICT、ロボティクスへとITエンジニアに求められるスキルは変遷するものの、冒頭申し上げたように、今後どれだけAIや周辺技術が進化し人間の能力をはるかに上回ったとしても、ITエンジニア(特にインハウスエンジニア)は不要になるどころか益々その重要性と需要が増すのと同時に、ITエンジニアはスキルシフト(特に事業ドメインへの深い理解)が求められることが予想されます。
なぜなら「人々の要望や要求に限りはない」からです。
実際に、IT企業のみならず様々な業種や産業において、すでにDX/AXを含むITの利活用や「既存の自社サービス×IT」で新しい価値を創造しようとしております。ASI時代に入れば、単なるUX向上や新サービス展開のアジリティのみに留まらず、それに合わせてエンジニア職以外にも更にAIに最適化されたスキルが求められることと同時に更なるシステムの進化が予想されますが、そこから生み出されるサービスに対するニーズは、それをもまたはるかに凌駕することになるでしょう。

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