2024年11月29日(金)~30日(土)の2日間、エンジニア・クリエイター向けカンファレンス「GMO Developers Day 2024」が開催されました。本稿では、そのなかから「デザインと成果を結ぶ ── インハウスデザイン組織の価値を探る」と題されたセッションの模様をお届けします。
本セッションでは、株式会社MIXIのCDO横山氏をゲスト、デザインの事例集「Cocoda」を運営する株式会社almaの斎藤氏をモデレーターに迎え、GMOペパボ、GMOメディアを加えた4社の事例をもとに、インハウスデザイン組織のあり方について議論が交わされました。
目次
登壇者
山林 茜(GMOペパボ株式会社 社長室 コーポレートデザインチーム マネージャー)
岡本 くる美(GMOメディア株式会社 サービスデザイン部 部長)
斎藤 孝俊 氏(Cocoda事業責任者 / 株式会社alma)
横山 義之 氏(株式会社MIXI 執行役員 CDO デザイン本部長)
デザイン組織内製化の現状と課題
2018年に経済産業省・特許庁から発表された「デザイン経営宣言」を契機に、日本企業におけるデザイン組織の内製化の取り組みが加速。国内メガバンクにもデザイン組織が設置されるなど、大企業からスタートアップまで、デザイン組織を置く企業が増加の一途をたどっています。
モデレーターを務めたCocoda事業責任者の斎藤氏は、「組織を置くだけでは不十分。本当に成果を出せるデザイン組織がどれだけあるのか」という問題提起を行いました。これからのデザイン組織は、単なる制作チームを超えて、事業における指標を自ら伸ばしていける存在になることが求められています。
各社のデザイン組織の変遷
GMOペパボ株式会社
GMOペパボの山林は、入社年である2011年から現在までの組織の発展を詳しく説明しました。当初、デザイナーは各事業部に所属する形でしたが、2017年には横断的なデザイン戦略チームが設置されました。「各事業のなかで横断的に動いているデザイナーはいたものの、兼任という形での限界があった」と山林は当時を振り返ります。同チームは2019年にデザイン部として再編され、現在は事業部の縦串組織と横串組織の両輪で運営される体制を確立しています。
GMOメディア株式会社
GMOメディアの変遷は、デザイン組織の段階的な発展を示す好例です。岡本によると、入社した2014年時点でデザイン組織は存在せず、2015年に初めてチーフデザイナーという役職が設置されました。これがデザイナー同士のパイプ役となり、その後3年かけてサービスデザイン部という横断組織が確立。現在は「カルチャーデザイングループ」を立ち上げるなど、デザイナーの成長支援にとどまらず、会社全体の改善に取り組む段階まで進化しています。
株式会社MIXI
MIXIの横山氏は、2019年の入社以来、戦略的なアプローチでデザイン組織の価値向上に取り組んできました。「全社課題に対してデザインでどうリーチできるか、その突破口を探しながら、“部室”を作り、強化していく」という方針のもと、デザインの影響力を徐々に拡大。プロダクトデザイン、動画クリエイティブ、ブランドデザイン、テクニカルデザインと、着実に領域を広げてきました。この過程では、経営層や事業部との対話を通じてデザインが貢献できる領域を慎重に見極め、そこに集中的にリソースを投下するという手法を採用しているといいます。
各社が考えるデザイン組織の機能と役割
各社に共通するのは、デザイン組織を単なる制作部門として位置づけていない点です。
横山氏は、「小さな変化が組織全体にインパクトを与えるポイント」を見極めながら、デザインの重要性が自然と理解される組織風土の醸成にも取り組んでいるといいます。従業員体験の向上など、具体的な成果を通じてデザインの価値を示していこうとしています。
岡本は、デザイナーの成長支援をデザイン組織の重要な機能の1つとして位置づけつつ、それが直接的に事業成長につながるという視点を持っています。「デザイナーのためのデザイン組織」に留まらないよう注意を払いながら、デザイナーの成長が会社全体の成長につながる仕組みづくりに注力しています。
山林は、デザイン組織の重要な機能として「ナレッジの横展開や仕組み化、言語化」を挙げています。個々のデザイナーが持つスキルや知見を組織全体で共有・活用できる体制を整えることで、より大きな価値創造を目指しています。
「存在意義がわかってもらえない問題」をどうやって突破するか
結果が出るまで”こっそり”やる
デザイン組織共通の課題として浮かび上がったのが、成果の可視化、つまり「存在意義がわかってもらえない問題」です。
山林は「デザイナーの成長は実感できるものの、それが具体的にどう事業成果につながっているのか、説明が難しい」という本質的な課題を提起しています。注目すべきは、山林が指摘する「経営陣や事業責任者との対話」の重要性です。「今年になって経営陣や事業責任者と直接話をする機会が増えてきた」と述べる山林は、デザイン組織への期待や課題感を直接ヒアリングすることで、組織の方向性を定めています。
さらに山林は、デザインの成果の特殊性についても言及します。「デザインの成果は複合的な要因が絡み合うため、きれいにKPIにヒットするような形で示すことが難しい」と指摘。体験価値の向上など、中長期的に成果が現れる性質を持つデザインの取り組みを、どのように評価してもらうかが課題だと述べています。特に「デザイナーの仕事が売上や利益から遠いところにあると思われてしまうと、重要な議論に参加できなくなってしまう」という懸念を示し、成果の見える化の重要性を強調しています。
岡本は、「何か新しく始めるときにあえて明言しない」という考えのもと、まずは小規模な取り組みからスタートし、「結果が出るまで”こっそり”とアドオンでやる」「ある程度の結果がでそうだったり、動きそうだったりするときに、関係者を巻き込めるような実績や環境を用意しておく」という手法を明かしました。失敗のリスクを最小限に抑えながら、成功の可能性が高まった段階で組織的な展開を図る、という戦略的な手法といえます。
デザイナーのモチベーションを高める
横山氏は、デザイン組織内での勉強会や発表を通じて、メンバーが「どこでテンションが上がっているか」を探る取り組みを行っています。「組織のメンバーがそれを面白がらないと高められない」という考えのもと、デザイナーが主体的に取り組める環境づくりを重視しています。
ここで斎藤氏は「好きな専門性だけを伸ばそうとしても事業モデルやフェーズに合わないと成果が出しづらく、なぜ事業組織に必要なのかという評価につながってしまう」と指摘します。一方で「上からの管理が強すぎるとモチベーションが湧きづらい」というジレンマも存在すると語ります。
横山氏は、これに対し「コントロールしないと先端技術に目が行きがち」という傾向があるとしたうえで、「組織や会社において何が新しいか」という視点で考え直すことを提案。必ずしも最新技術である必要はなく、既存の技術でもデザインと掛け合わせることで新しい価値を生み出せると指摘します。具体的には、まず社内で議論を重ね、適切な事業部と組んでプロジェクトを仕掛け、その成果を経営層に示し、さらに他の事業部への展開を図るという段階的なアプローチです。
山林も「デザイナーのテンションを上げる、取り組みやすくする」ことの重要性に同意しつつ、組織としての機能強化を進めていることに言及します。GMOペパボでは、優秀なデザイナーの個人的なスキルを組織全体で活用できるよう、ナレッジの横展開や仕組み化、言語化に取り組んでいます。これにより、各事業部のデザイナーが本来の事業により集中できる環境づくりを目指しています。
社外発信の効能
岡本は、デザイン組織の価値を確立するため「いい意味で放っておいてもらえる組織でありたい」という考えのもと、「何か結果を出してくれるだろう」という信頼を着実に積み上げることを重視しているといいます。その背景には、デザイナーの成長促進という全社的な課題がありました。
まずはこの課題に応えることで組織の存在意義を確保し、そこから段階的に活動の幅を広げていく戦略です。特に興味深いのは、成果が見え始めた段階で社外への発信を行うというアプローチです。社外からのフィードバックを通じて、社内の理解や評価を深めていくというサイクルを作り出しています。岡本によると、横断組織としての活動に対して「なぜやっているのか」と問われる場面もあったといいますが、「出る杭は打たれるが、出過ぎた杭は称賛される」という代表からの言葉を胸に、まずは成果を出すことに集中。その結果、社内での認知を獲得し、さらには採用面でもポジティブな影響を生み出すまでに至っています。
社外発信の取り組みには、もう1つ重要な意図があります。岡本は「社外に発信する際には必然的に言語化が必要になる」と指摘します。事例として整理し、外部に発信できる形にまとめ上げる過程そのものが、デザイン組織の価値を明確にすることにつながるといいます。実際の事例を丁寧に言語化し、発信することで、社内外からの理解を深める好循環を生み出しているのです。
斎藤氏は、この問題に対する1つの解として「すべてに成果を出そうとすることは現実的ではない。各事業モデルやフェーズに適した形で専門性を発揮し、結果を出すことが大事」と提言。デザイン組織として求められる成果がまだ明確でないなか、各社の成功パターンを共有し、参考にし合うことの重要性を強調しています。
これからのデザイン組織が目指すべき方向性
斎藤氏は、デザイン組織が「投資対象として判断される分岐点に立っている」と指摘します。そのなかで重要なのは、短期的な成果を示しながら、中長期的な価値創造も同時に進めていくバランス感覚です。そして、セッションのなかで特に強調されたのが、企業の壁を越えたデザイン組織間での知見共有の重要性でした。山林は「他社にロールモデルを持ちながら組織を成長させていきたい」と述べ、横山氏も「同じような仕事をして、身悶えている人たちがいて、安心している」と、業界全体での成長に期待を寄せています。
デザイン組織は今、大きな転換期を迎えています。単なる制作部門から事業価値創造の中核へと進化を遂げるなかで、各社は試行錯誤を重ねています。本セッションで共有された知見は、まさにその最前線の取り組みを映し出すものといえるでしょう。
さいごに
「デザイン組織の内製化」という選択肢が普及する一方で、「デザイン組織はどのように事業成果に貢献するのか?」と悩む声も増えています。事業に貢献するデザイン組織を構築していきたいデザイナーのみなさまのヒントになれば幸いです。
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