GMOインターネットグループのエキスパートをゲストに迎え、AI活用の事例や取り組み、技術的な展望を深掘りする対談企画「GMO AI TALK」。進行はGMOペパボ株式会社・取締役CTOの栗林健太郎(あんちぽ)が務めます。第3回のゲストは、GMOインターネットグループ株式会社でアドバンストリサーチサイエンティストを務める真次彰平さん。データサイエンティストとして新卒入社し、現在はグループ研究開発本部 AI研究開発室・共同研究推進グループにて、人型ロボット(ヒューマノイド)をはじめとするフィジカルAIの研究開発に携わっています。以前は研究者として活躍していた真次さんですが、現在はその経験と強みを活かしたエキスパートとして、GMOインターネットグループの中核を担うロボティクス分野の発展を担っています。エキスパートとしてさまざまなイベントへの登壇や参加・情報発信を行いながら業界全体にその影響力を発揮している真次さんに、ヒューマノイド学習の最前線や社会実装への道のり、研究組織づくりへの思いなどを伺いました。
データサイエンティストからリサーチャーへ
あんちぽ今日は第3回目のゲストとして、GMOインターネットグループ株式会社でアドバンストリサーチサイエンティストとして活躍されている真次さんにお越しいただきました。まずは自己紹介をお願いします。
真次GMO AIRの真次彰平です。よろしくお願いします。私は2024年にGMOインターネットグループのデータサイエンティストとして新卒入社し、今年で3年目になります。2025年の7月からはGMO AI&ロボティクス商事株式会社(以下、GMO AIR)にエンジニアとして加わり、2026年の1月に現在の肩書へと変わりました。データを扱う立場から研究する立場へと、少しずつ移ってきた形ですね。現在はGMOインターネットグループ全体への新しい技術の導入や、その利用検証なども担当しています。学生時代はソーシャルネットワークのようなネットワーク解析を専門にしていました。いわゆる機械学習ではなく、グラフ理論の解析アルゴリズムを高速化する研究です。厳密な解を経験則から直観的に求めるアルゴリズムを設計するもので、どちらかというと離散数学寄りの領域でしたね。
あんちぽ今のフィジカルAIとは、また少し違った畑ですよね。入社してから、そのあたりのギャップはありませんでしたか?
真次正直なところ、入社した当初は「もっと研究っぽいことをしたい」と思ってました。なので「GMOインターネットグループとしてもっと研究活動をしていくべき」という声を社内で上げ続けていましたね。こうした訴えの効果なのかはわかりませんが、研究組織の発足や「JSAI」のトップスポンサーといった動きが出てきたので、今ではやりたかったことができているという実感があります。モチベーションもずっと右肩上がりですね。
人間が秀でる「情報を落とす能力」
あんちぽGMO AIRでは、具体的にどんな領域に取り組んでいるんですか?
真次今はフィジカルAIの領域、とくに人型ロボット(ヒューマノイド)に力を入れています。ヒューマノイドに動きを学習させる技術を考えるうえで現在注目されているキーワードとしては、「強化学習」「VLA」「世界モデル」などがあります。現在は強化学習やVLAを用いた研究開発が活発ですが、近年関心が高まっている世界モデルにも組織として注目しているところです。ただ、これらは互いに競合する方式というよりも役割の異なる技術であり、「組み合わせて使われる技術」という方が正しいですね。たとえば強化学習は歩行や走行に加え、スポーツの動作や物体の運搬など、バランスや接触を伴う動的な全身制御において有力な手段の1つです。複雑な身体の動かし方を試行錯誤を通じて獲得できる点が強みであり、最近では生成モデルで参照となる動作を作って、それを強化学習によって物理的に実行できる動きへと調整する研究も増えています。VLAはカメラなどから得られる視覚情報と言語による指示を受け取り、ロボットの行動を生成するモデルです。現在は、物をつかむ・移動させる・両腕を協調させるといったマニピュレーションを中心に発展していますが、歩行を含む全身動作への拡張も進んでいます。精密な部品の取り扱いといった細かな接触状態を扱う作業にも期待が持たれていますが、その際には力覚や触覚といったフィードバックをどう組み合わせるかが重要な研究課題となっていますね。世界モデルは、ロボットがある行動を取ったときに、周囲の環境や自分自身の状態がどのように変化するかを予測し、その予測を計画や学習に活用する考え方です。この考え方自体は以前からありますが、近年台頭する動画生成モデルや大規模な潜在表現の発展によって、改めて注目されています。可能性は非常に大きい一方で、長い時間にわたって予測すると誤差が蓄積しやすかったり、接触を含む複雑な物理現象を正確に再現することは難しかったりと、まだ課題も多くあります。
あんちぽ少し視点を変えるのですが、人間は「丸を描いてから影を下の方に描くと、光源が上にあると判断して出っ張って見える」といった錯視のメカニズムのように、見ているものを無意識に補ったり削ったりしていますよね。そうした情報の扱い方という点で、人間とヒューマノイドには違いがあるんでしょうか。
真次まさにそこが、人間とヒューマノイドの大きな違いの1つだと思っています。人間は膨大な情報をすべて処理するのではなく、目的に必要なものを選び、過去の経験・知識を使って足りない情報を補うことができます。ロボットにも情報を落として選別する仕組み自体はありますが、未知の状況において何を残し、何を無視すべきかを判断するのはまだ難しいですね。そもそも分野全体として、「これを使えば正解」という決まったアーキテクチャはまだ確立されていないのが現状です。日々新しい手法が登場していて、そのなかで最適な組み合わせを探っているところですね。
空港業務から目指す「ヒューマノイドの社会実装」
あんちぽ理論の話に続いて、実際の現場での取り組みも聞かせてください。ヒューマノイドを現場で活用する実証も、すでに進んでいるんですよね。
真次JALグランドサービス様と一緒に、空港のグランドハンドリング業務の実証実験を進めています。これは飛行機が着陸してから離陸するまでの間に行う、手荷物の積み降ろしやコンテナの操作といった業務なのですが、ここにヒューマノイドを活用しようというものです。実験も進んではいますが、実際の空港で作業されている方々が行う工程を完全に代替できるところまでは来ていないのが現状です。最大のネックは「重さ」にあります。開発しやすい機体としてUnitree Robotics社(以下、Unitree)のG1という機種があるのですが、G1は身長約130cm・重さ30〜40kgほどで、腕で持ち上げられる荷重は3kg程度が限界なんです。スーツケースなどの荷物を持った状態でバランスを保ちながら歩くとなると、制約はさらに厳しくなります。今はその限界を突破しようと頑張っているところです。
あんちぽ自重よりかなり軽いものしか持てないうえに、持って歩くとなると一気に難しくなるわけですね。このあたりは大きめの機体などで解決できるかもしれませんが、具体的な作業の中で、その難しさはどういったときに感じられますか?
真次大きく2つありまして、1つは認識と判断のタスクを行う際に感じます。人間の場合は「荷物のどこを持つか」「コンテナのどこに積むか」という認識や判断を自然に行えますが、数学的には未解決な部分が残っているのが現状です。ヒューマノイドが自律的に判断する仕組みをしっかり考えていく必要があります。もう1つはコンテナの操作です。グランドハンドリングでは最大で約1.5トンにもなるコンテナを、ドーリーと呼ばれる台車の上で押したり回したりする作業があるんです。これは全身や自重を使うぶん、「腕を使って重たいものを持つ」のとは別の難しさがあります。ここも一筋縄ではいかない部分ですね。
あんちぽ人間が無意識にこなしていることほど、ヒューマノイドには難しいという話ですね。こうした技術が実用化するまでには、どのくらいの時間軸を見込んでいますか?
真次個別のタスクに限れば、3~5年程度で技術が揃う可能性はあると見ています。しかし人間がまったく介在しない完全な自律やヒューマノイド同士の連携となると、10年スパンの話になってくるでしょうね。安全性や精度をどう担保するかという基準自体も、まだ世界的に確立されていません。完全無人でヒューマノイドがサービス提供をするという例もまだまだ少ないですし、そういう意味でも時間はかかりそうです。
エンタメやスポーツにも広がりを見せるロボティクス
あんちぽ真次さんのチームでは、ヒューマノイドにDA PUMPの「USA」を踊らせて話題になったこともありましたよね。ヒューマノイドの技術は、こうしたエンタメの領域が他分野より先行している印象があります。
真次そうですね。環境の認識を伴わない全身を使った運動は、物体を認識して正確に扱うタスクよりも難易度が低い部分があるんです。一体のヒューマノイドが激しい踊りをするというケースなら、かなりの精度が出るようになりました。とはいえ簡単にできるというわけではなく、バク転などのアクロバットな動きは元になるモーションのデータを収集し、強化学習をさせたりチューニングを追加しなければなりません。我々も何度も試行錯誤を重ねた末に、「このモーションなら踊れる」という肌感覚のようなものを掴んでいきました。エンタメ領域で先行しているように見えるのは、こうした積み重ねがあってのことですね。
あんちぽ見た目の華やかさの裏に、地道なデータ収集と学習があるんですね。今夏には、北京で開催されるヒューマノイドの陸上競技大会にも参戦するとか。
真次はい、GMO AIRとして参戦する予定です。昨年末に挑戦を決めて、そこから高速走行の技術を磨き続けてきました。昨年の同大会をベースに考えれば十分に戦えるレベルには来ているのですが、他チームの成長も見据えて、さらなる高速化を追求しているところです。
あんちぽ期待できますね!
ハードを作らないGMO AIRで「作って」いるもの
あんちぽGMO AIRはハードウェアメーカーではないと伺いました。ハードを作らないなかで、ヒューマノイドの領域にどう関わっていくのか・何を「作って」いるのか……というのは気になるところです。
真次GMO AIRはUnitreeなどの代理店としての商社機能に加えて、お客様がヒューマノイドを導入する際の技術サポートや実証、研究開発を一緒に進めていくのが役割です。案件の幅はとても広くて、すぐに対応できるものから「世界的に見てまだ誰も実現していないが、やる価値のある挑戦」まであります。後者については、「一朝一夕でできる課題ではないですが、社会的意義も大きいため一緒に挑戦しましょう」という形でお受けすることもありますね。
あんちぽ企業や社会の課題にどうヒューマノイドを活かすかという研究開発の視点から入りつつ、技術的に難しく、前例のない挑戦に立ち向かっていく。まさに、AIとロボティクスの両方をわかっているからこその立ち位置ですね。
真次GMO AIRでは両方の知見を持ったうえで、最新の技術をお客様の現場に合わせ込んでいくエンジニアリングが求められます。ロボティクスで解決できるさまざまな課題に対して、希少なスキルセットで技術を提供していくのが我々の役割だと考えています。
あんちぽ入社当時から研究活動の重要性を訴えていた真次さんですが、GMO AIRでは産業界と学術の架け橋のような形で活動されていますよね。AIとロボティクスというホットな2領域をまたいでいますが、アカデミアからビジネスへ移ったことで違いを感じましたか?
真次研究領域こそ学生当時と異なりますが、一番の違いは「お客様の声をこれほど聞ける研究現場はない」という点ですね。以前は基礎寄りの研究をしていたのですが、いつの間にか社会実装を意識した応用寄りな研究へとシフトしていた自覚があります。それをJSAIに参加したときに、あらためて実感しました。論文やプレプリントで技術が公開されても、それで「タスクが解決された」わけではありません。社会に実装するまでに時間のかかる分野だからこそ早くやりたいという思いがありますし、だからこそ研究と社会実装のあいだにあるギャップを埋めて、両者を結びつけることも重要な仕事だと捉えています。
あんちぽ研究と社会実装の橋渡しですね。基礎的な研究を進めつつ、産業にどのようなインパクトを残すかという「応用」はいい視点だと思います。
グループ内の人知を結集し、新たな時代を創る
あんちぽその話でいうと、GMOインターネットグループがJSAIのトップスポンサーを務めましたが、この件は真次さんが主導したんですよね。どんな経緯があったんですか?
真次学会のスポンサードは、エキスパートの1期目に選出されたときから構想していました。学生時代に競合他社が学会で露出しているのを見ていたので、入社後も「うちはやらなくていいのかな」と感じていたんです。技術広報にも、研究文化にも、採用にもつながる「三方良し」の取り組みだと考えていました。最初はエキスパートの予算で動き出したのですが、「GMOインターネットグループはトップスポンサー以外はやらない」という方針を受けまして。そこから各所で調整いただき、トップスポンサーという形で実現しました。
JSAI2026 出展レポートはこちらから
あんちぽ真次さんが入社当初からの情熱を持ち続けて、みんなを巻き込んでいった結果、トップスポンサー協賛が実現したんですね。研究組織づくりそのものは、今どのくらいのフェーズにあるんでしょうか。
真次もともと東京大学医科学研究所さんとの老化細胞に関する共同研究チームなど、個別の取り組みはあったんですが、論文を意識した研究組織がまとまった人数の規模になったのはごく最近のことなんです。今はまさに、研究のチームビルディングや、インターン生・共同研究先のみなさまも巻き込んだ体制づくりを「やりながら作っている」段階にあります。研究組織としてしっかりバリューを出し、その信頼をもとに予算を獲得していくという、研究所として自走できるエコシステムを作り上げることが大きなビジョンです。
あんちぽグループ全体の研究者が力を合わせていけると、もっと面白いことができるはずです。真次さんたちの動きには、大いに期待していますよ!最後に、エキスパートとしての今後の展望と、読者へのメッセージをお願いします。
真次1期目はデータサイエンティストの本業の傍らで研究を志している状態だったのですが、その活動が実を結び、研究者であることが「仕事」になりました。2期目となる今年は、それをさらに拡大していくことが目標です。GMO AIRの事業やメディアでの露出だけでなく、ぜひ研究活動にも注目していただけたら嬉しいです。また学生の皆さんに向けては、ヒューマノイドの実機に触れられるインターンシップもご用意しています。ご興味のある方は、ぜひ案内をご覧いただければと思います。
あんちぽ事業と研究の両輪で、GMO AIRを中心としたGMOインターネットグループのロボティクスがますます面白くなっていきそうですね。真次さん、本日はありがとうございました。
真次ありがとうございました。
まとめ
強化学習やVLA、世界モデルといったヒューマノイド学習の最前線から、空港での実証実験、そして研究組織づくりまで。真次さんのお話からは、ヒューマノイドの社会実装がまだ多くの難所を抱えながらも、着実に前へ進んでいる現在地が見えてきました。
技術の正解がまだ定まらない領域だからこそ、現場の声を聞きながら研究と社会実装のギャップを埋めていく姿勢が、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。データサイエンティストから研究者へと歩みを進めてきた真次さんの挑戦は、その象徴ともいえるでしょう。
GMOインターネットグループは「AI&ロボティクスで未来をつくるNo.1企業グループ」というコンセプトを掲げています。事業と研究の両輪で、フィジカルAIがひらく未来を一歩ずつ形にしてまいります!