2026年8月にラスベガスで開催された世界最大級のセキュリティカンファレンス「DEF CON 34」の参加レポートです。ローカルLLM(llama.cpp/Ollama)を狙う脆弱性、WMIを悪用したPost-Exploitation手法、EDRの権限を逆用してマルウェアを保護する攻撃研究、Active Directory/Kerberosの脆弱性、AIエージェントへのプロンプトインジェクション攻撃など、ペネトレーションテスト・レッドチームの実務観点から注目講演を紹介します。
はじめに
GMOサイバーセキュリティ byイエラエ株式会社のオフェンシブセキュリティ部ペネトレーションテスト課の佐藤です。
2026年8月6日から9日まで、アメリカ ネバダ州のラスベガスで開催された「DEF CON 34」に参加しました。
DEF CONは、セキュリティ研究者やペネトレーションテスター、開発者などが集まる、世界最大級のセキュリティカンファレンスです。一般的なカンファレンスのように講演を聴くだけではなく、Village(特定の分野に特化したエリア)、ハンズオン、デモ、CTFが同時並行で進む点が大きな特徴です。
今回、筆者はCTFの競技者としてではなく、主にカンファレンスやVillageの参加者として現地を訪れました。普段はペネトレーションテストやレッドチームの業務に携わっているため、実際の攻撃シナリオにどうつながるか、既存の検知や防御をどのように回避するかといった実際の業務の視点も交えながら紹介します。
特に注目したのは、次の2点です。
AIが脆弱性の検出やセキュリティ研究にどのように活用されているかペネトレーションテストに活用できる新しい攻撃手法や検証の観点
なお、本記事の都合上、すべてを記載することはできないため、特に印象に残ったものを中心に紹介します。
0日目
ロサンゼルス空港を乗り継いで、18時ごろにラスベガスのホテルに到着しました。翌日からDEF CONが始まるため、ホテルに到着した後は、事前に確認していたタイムテーブルに変更がないかを確認し、翌日以降に参加するTalks(講演)やVillageなどの予定を最終確認しました。
DEF CONでは直前にセッションの時間や会場が変更される可能性もあるため、現地到着後にも最新のタイムテーブルを確認しておくことを推奨します。
1日目
DEF CONの初日は、朝8時ごろにLas Vegas Convention Center(LVCC)へ到着しました。まずは8時に開始されるDEF CONの公式物販(Merch)へ向かいましたが、この時点ですでに50mくらいの長蛇の列ができていました。朝早い時間であれば比較的空いているのではないかと考えていましたが、想定以上に多くの参加者が早い時間から並んでおり、DEF CONの規模と人気を実感しました。
今回、筆者はポロシャツとコップを購入しました。商品を購入するまでには2時間以上並ぶことになり、物販だけでもかなりの時間が必要でした。DEF CONの公式グッズを購入したい場合は、開始時刻よりも前に現地に到着していた方がよさそうでした。
購入したポロシャツとコップ
今年のDEF CON 34のバッジ(入場証)も非常に特徴的でした。単なる入場証ではなく、FIDO認証用のキーとして利用できる機能や、パスワードマネージャーとして利用できる機能などが搭載されており、セキュリティカンファレンスらしい面白い仕組みになっていました。
入場証そのものにこうしたセキュリティ機能が組み込まれている点は印象的でした。
DEF CON 34のバッジ(入場証)
物販とバッジの確認を終えた後は、会場内を歩いて回り、翌日以降の下見をしました。DEF CONではTalksだけでなく、各分野に特化したVillageやDemo Labs、Exhibitorsなどが複数のエリアに分かれているため、事前にエリアの位置や移動経路を確認しておくことが重要です。
初日は本格的にセッションへ参加するというよりも、会場の雰囲気を感じながら、翌日以降に参加するTalksやVillageの場所を確認する一日となりました。
2日目
2日目からは、DEF CONのTalksやVillageを中心に回りました。
Breaking Local AI Runtimes
最初に参加したのは、「Breaking Local AI Runtimes: Exploiting llama.cpp and Ollama」です。llama.cppやOllamaなど、ローカル環境でLLMを実行するためのソフトウェアを対象とした研究が紹介されました。
AIのセキュリティというと、プロンプトインジェクションやJailbreakのようなAI特有の攻撃を思い浮かべることが多いですが、この講演で扱われていたのは、その下で動いているソフトウェアの実装そのものでした。Androidアプリとの連携やHTTPサーバーとして利用する構成など、ローカルLLMにも一般的なアプリケーションと同じようにさまざまな攻撃面が存在することが紹介されていました。
特に印象に残ったのは、「AIだから特別な攻撃だけを考えればよい」というわけではない点です。新しいAI関連技術であっても、その裏側では従来からあるネイティブコードやサーバーなどが動いており、それらを含めてセキュリティを考える必要があると感じました。
A Provider for the MOFia
続いて、「A Provider for the MOFia - Distributed Post-Ex Capabilities」に参加しました。この講演では、Windowsの管理機能であるWMIを、従来とは異なる方法でPost-Exploitation(侵入後の攻撃)に活用する研究が紹介されていました。
WMIを攻撃に利用する方法としては、プロセス生成やイベントサブスクリプションなどがよく知られており、セキュリティ製品側でもこれらを意識した監視が行われています。一方で今回の講演では、WMI Providerなど、これまで攻撃用途ではあまり注目されてこなかった仕組みに着目していました。
講演では、WMI Providerの登録やWindows標準の管理機能を組み合わせることで、できるだけWMIを中心に一連の処理を実行させるアプローチが紹介されていました。普段から利用されているWindowsの正規機能でも、使い方や組み合わせ方を変えることで新しい攻撃手法になり得る点が興味深かったです。
また、WMIを扱うツールとしてdoppioが紹介されていました。(本記事作成時点ではdoppioは公開されていませんでした)
デモではdoppioを使用し、Kerberos認証に関する処理やCOFF形式のコードを実行する様子も見ることができました。単に研究内容をスライドで説明するだけではなく、実際の動作をその場で確認できるのは、現地で講演を聞く大きなメリットだと感じました。
ペネトレーションテストやレッドチームでは、単に目的の操作を実行できるかだけでなく、その過程でEDRやSIEMなどの監視にどの程度検知されるかも重要になります。WMIを利用した攻撃は古くから知られているため、典型的なプロセス生成などは監視対象になりやすい一方、この講演のようにWMI Providerなど別の仕組みに着目する研究は、Post-Exploitationの選択肢を広げるだけでなく、防御側がどこまで検知できるのかを評価するうえでも重要だと感じました。実際のレッドチーム業務でも、既知の手法だけに依存せず、別の視点からWindowsの正規機能を利用する必要性を改めて感じた講演でした。
Bring-Your-Own-EDR
午後は、「Bring-Your-Own-EDR - Breaking Windows Process Protection to build EDR-Protected Malware」に参加しました。
一般的なEDR回避では、EDRの検知を回避したり、EDR自体を停止・無効化したりする手法がよく知られています。この講演ではその発想を逆転させ、EDRが自身を守るために持っている強力な権限や機能を、攻撃者側が利用するという研究が紹介されていました。
講演では、WindowsのPPL(Protected Process Light)をはじめとするプロセス保護の仕組みと、EDRが持つ保護機構をどのように攻撃側へ転用できるかが紹介されました。本来、EDRを外部から終了・改ざんされにくくするための仕組みですが、その機能が悪用されると、逆に非常に強力な攻撃基盤になります。
特に印象に残ったのは実際のデモです。SentinelOneを利用したデモでは、EDR側の信頼されたプロセスを利用して、ランサムウェアのようにファイルを暗号化する様子が紹介されました。また別のデモでは、あるEDRの持つ権限を利用して別のEDRへ干渉する例も紹介され、セキュリティ製品同士の権限や機能そのものが攻撃面になり得ることが示されていました。単にマルウェアをEDRから隠すのではなく、EDRそのものを攻撃者の道具として利用するという考え方は非常に印象的でした。
発表者は、EDRは端末を守るために強い権限を持っているからこそ、EDR自体に問題があった場合には、一般的なマルウェア以上に大きな影響を与え得るという趣旨の話をしていました。普段はEDRを「攻撃を検知する側」として見ることが多いため、セキュリティ製品そのものを攻撃対象・攻撃基盤として捉える視点は、今回のDEF CONで特に印象に残った内容の一つです。
ちなみに、講演で紹介されたPoCは、AkamaiのGitHubリポジトリ「BringYourOwnEDR」として公開されています。
Akamai - BringYourOwnEDR (GitHub)
Villageを回ってみる
Talksのほかにも、DEF CONには分野ごとに多数のVillageがあります。Villageごとに内容は大きく異なり、CTFのような競技を行っている場所もあれば、実演、展示、ミニTalkなどを行っている場所もありました。実際に歩いてみると、同じDEF CONの中でもVillageによって雰囲気がかなり違うことが分かりました。
Physical Security Village
Physical Security Villageでは、デジタルな攻撃ではなく、ドアや錠前などの物理的なセキュリティに関する実演が行われていました。
私が訪れた際には、ドアの隙間から細い金属製のツールを向こう側へ通し、鍵を操作する体験ができました。鍵そのものだけを見るのではなく、ドアの構造や内側の解錠方法まで含めて考える必要があることが分かり、普段扱っているサイバーセキュリティとは異なる視点で興味深い展示でした。
Physical Security Villageの様子
3日目
3日目は、Active Directory / KerberosやC2に関する講演を中心に回り、DEF CON CTF Finalsの会場にも足を運びました。
Identity Crisis
3日目の最初は、Active DirectoryとKerberosをテーマにした「Identity Crisis」に参加しました。
講演では、Active Directoryにおける一部のUnicode文字の扱いに着目した「KerberLoss」と、Kerberosのユーザー識別の仕組みに着目した「ResetNightmare」という2つの脆弱性が紹介されました。
KerberLossでは、SPN(Service Principal Name)の一意性の検証を回避することでKerberos認証に影響を与える手法が紹介されました。デモでは、本来とは異なるサーバーに競合するSPNを登録することで正規のサービスへアクセスできなくするDoSや、KerberosからNTLMへの認証ダウングレード、既存のSPN Jackingと組み合わせる例が示されていました。
講演の後半では、Kerberosにおけるユーザー識別の仕組みを利用し、最終的にDomain Adminを含むアカウントのパスワード変更へつなげる「ResetNightmare(CVE-2026-27912)」のデモが行われました。
一見すると小さな文字列処理やIdentityの扱いの違いから、DoSや認証方式のダウングレード、最終的にはドメイン全体の侵害まで影響が広がっていく点が非常に印象的でした。
特にKerberLossで紹介されたKerberosからNTLMへのダウングレードは、ペネトレーションテストやレッドチームの観点でも興味深い内容でした。MicrosoftはNTLMの段階的な廃止を進めており、NTLMv2についても非推奨としたうえで将来的な削除方針を示しています。一方で、既存システムとの互換性を考えると、移行期間中はNTLMへのフォールバックが残る環境も少なくないと考えられます。そのため、Kerberosの利用がより中心になっていく環境において、認証を意図的にNTLMへダウングレードできるような脆弱性や構成上の問題は、ペネトレーションテストやレッドチームをするうえで重要な観点になります。
講演で紹介された研究の詳細は、Semperisから公開されています。
Semperis - Identity Crisis: Novel Vulnerabilities Leading to Kerberos Downgrade, DoS, and Full Domain Takeover
また、講演の後、ResetNightmareの脆弱性はNetExecで検出できるようになりました。
NetExec (GitHub)
C(2)YA
続いて、「C(2)YA: Inside the Adversary's Inbox」に参加しました。
この講演では、Havoc、Mythic、Sliver、Covenant、AdaptixC2といった複数のC2フレームワークを対象に、LLMを活用してコードを分析し、脆弱性を調査した研究が紹介されました。
発表では、暗号鍵の扱い、認証・認可、入力処理など、C2ごとにさまざまな問題が取り上げられていました。ペネトレーションテストやレッドチームでは、C2を攻撃基盤として利用する側に目が向きがちですが、今回の講演を通して、C2自体も通常のソフトウェアと同じように脆弱性や設計上の問題が存在する可能性があることを改めて意識しました。
ペネトレーションテストやレッドチームで使用するC2サーバーでは、案件によっては接続先の情報、認証情報、オペレーターが実行したコマンドやその結果など、顧客に関する機密性の高い情報を扱う可能性があります。そのため、攻撃用インフラそのものが侵害されれば、顧客情報が漏洩する可能性があります。この講演を通して、攻撃者視点のツールであっても、それ自体を守るためのセキュリティ設計が不可欠であることを改めて認識しました。
4日目(最終日)
最終日は、AIエージェントをテーマにした講演に参加し、DEF CON CTF Finalsの結果も見届けました。
Your WAF Blocked Us, That Was The Exploit
最終日に参加した「Your WAF Blocked Us, That Was The Exploit」では、WAFや監視基盤のログをAIエージェントが読み込むことで、ログに含まれたプロンプトインジェクションがエージェントへ到達する攻撃が紹介されました。
Cloudflareを利用したデモでは、攻撃者が意図的にWAFでブロックされるリクエストを送り、その内容をログへ残します。その後、開発者がLLMにブロックイベントの調査を指示すると、MCP経由で汚染されたログがエージェントへ渡り、同じセッション内で書き込み権限を持つCloudflare APIを利用してDNSレコードを書き換えるところまで攻撃がつながっていました。
講演を通して印象に残ったのは、「攻撃者が制御できるデータを読む機能」と「書き込みや実行ができる機能」が同じエージェントに与えられていること自体がリスクになり得るという点です。AIエージェントを評価する際は、モデルだけではなく、何を読み、どのツールやMCPをどの権限で利用できるのかまで確認する必要があると感じる講演でした。
DEF CON CTF Finals
講演の合間には、DEF CON CTF Finalsが行われている会場にも足を運びました。
CTFエリアは、一部は黒い幕で区切られていたものの、完全に独立した部屋というわけではなかったため、人によっては周囲の雑音や近くを通る来場者からの視線が気になるかもしれないと感じました。
そして、DEF CON 34 CTF FinalsでGMOイエラエとGMO Flatt Securityのメンバーが所属するBlue Waterが優勝しました。
※Blue Waterは他企業のメンバーも所属するチームです。また、筆者はBlue Waterのメンバーではありません。
会場で実際にCTFエリアを見た後に、最終的にBlue Waterが優勝する結果まで見届けられたことも、今回のDEF CON参加で印象に残った出来事の一つです。
DEF CON 34 CTF Finalsで優勝したBlue Waterのメンバー
現地で感じた技術トレンド
今回のDEF CONに参加して、特に大きく3つの技術トレンドを感じました。
1. AIを活用したセキュリティ研究
AIを活用した脆弱性調査やコードレビューはすでに行われていますが、今回のDEF CONでもその実践的な活用例が見られました。今後はAIをセキュリティ研究や脆弱性調査などに組み込む動きがさらに活発になり、それらが当たり前の世の中になりつつあると感じました。
2. AIそのものやAI周辺基盤が新たな攻撃対象になる
AIの活用が広がる一方で、AIそのものだけでなくその周辺にあるソフトウェアやAgent、MCP、外部サービスとの連携部分も新たな攻撃対象になっていると感じました。
今後はAIモデル単体ではなく、AIが読み込む情報、接続するシステム、与えられている権限まで含めて、AIを取り巻く環境全体を評価することが重要になると考えられます。
3. 信頼している既存技術を逆手に取る
今回のDEF CONでは、EDRが持つ正規の機能や高い権限、既存の信頼関係を攻撃側が逆手に取る研究が見られました。
今後はAIの活用が進むことで、こうした製品の仕様や権限や連携関係をより効率的に分析できるようになり、従来は想定されていなかった悪用方法が発見される機会も増えていくと考えられます。すでに広く利用されている製品やその仕組みを、別の視点から攻撃面として捉え直す流れも、今回のDEF CONで感じた技術トレンドの一つでした。
おわりに
今回DEF CONに参加して最も印象に残ったのは、扱われる分野の広さと、研究を実際のデモまで落とし込んで共有する文化でした。
講演では、EDR、Active Directory、Kerberos、C2、AIなど、普段の業務と近いテーマを中心に見ましたが、Villageでは普段触れる機会の少ない分野も体験できました。
また、発表内容そのものだけでなく、世界中のセキュリティエンジニアが同じ会場に集まり、研究成果やツールを共有している雰囲気を現地で体感できたことも大きな収穫でした。
本記事では、記事の都合上、実際に現地で見聞きした内容のすべてを紹介できているわけではありません。今回取り上げた講演やVillage以外にも、多数のセッション、展示、ハンズオンなどが同時に開催されており、会場を歩くだけでもさまざまな技術やコミュニティに触れることができました。4日間を通して、DEF CONは技術的な学びだけでなく、新しい分野や人、考え方に出会える非常に魅力的なイベントだと感じました。
講演で得た技術的な知見については、今後のペネトレーションテストやレッドチームの業務、セキュリティ研究に生かしていきたいと思います。
最後になりますが、今回DEF CON 34に参加する機会を与えてくれた会社と、参加にあたって支えてくださった関係者の方に感謝します。