【エキスパート座談会 #4】AI全盛の世の中でどのように教育を行うべきか

今回のエキスパート定例では「AIと教育」をテーマに「AIが利用可能な中での教育手法」のアイディアをエキスパートの皆さんにざっくばらんに聞いてみました。
「自分で考えずにAIに頼ってしまう」という課題感からアリストテレスの話まで、幅広い話に広がっていきました。

現状と課題

まず「AIと教育」について今出ている課題について聞いてみました。

AIを使って様々な分野に触れたり勉強をしたりということが容易に出来るようになりましたが、教える側に立ったとき教え方や受ける側の反応について変わったことはありますか。

議論の中で出てきた課題感や変化として次のようなことが挙がっていました。

  • 受け手側からの質問が減り、現在の状況や課題が見えづらくなった
  • 競技形式のコンテストにおいて「超」高速化が進んだ。コンテストが成立しづらくなった
  • チームワークが少なくなった
  • 「AIが言っていたから」という理由説明が出てくるようになった
  • 経験させるべき「失敗」を経験させる場がなくなっている

これに対して「なぜそうなっているのか」を議論したところ下記のような意見が出ました。

  • そもそも「テキストフォーマット」で出題し回答を求める試験という構造が良くないのではないか(現在の生成AIにとって最適な形の出題・回答方法になっている)
  • 失敗したくないという気持ちに対して低コストで最適な回答を得られる状況がある
  • 人間よりAIにやらせる方が高速
  • トレーニー側はゴールを出せれば良いという考えなのではないか
  • 自分で責任を負いたくないのではないか

生成AIによりすぐに最適な回答が得られるという課題にのみ視点を置いていた私にとって、試験やそもそもの問いの形にも課題があるのではないかという視点はとても新鮮でした。

また「責任」という観点でも「自分の夕食を決める」ような簡単な問題ではなく、回答が他者の評価に紐付く場合などで「AIが言ったから」という形での責任の移転をしたくなるのではないかというような意見も出ていました。

解決策・アプローチ

ではこの課題に対してどのような解決があるのかについても議論を行いました。この議論は大変盛り上がりを見せ様々な意見が出ました。そのとき出た意見をまとめると下記の3つになりました。

1. リアルタイム性の導入

口頭試問のように、その場の受け答えで理解度を確認するのがよいのではないかという意見です。

あらかじめ文章や資料を作成せず、ホワイトボードを使ったプレゼンやその場での質疑応答など、AIで即時生成できない「リアルタイム性」を伴うアウトプット形式を取り入れるという手法です。

2. 説明責任の担保

なぜその設計・結論になったのかを論理的に説明してもらうのが有効ではないかという意見です。

当初の想定はどのようなものであったか。AIに与えた入力はどのような出力を意図して行ったものか。想定と出力はどのように異なったか。自身はその出力を持ってどのように判断をしたか。
これらの自身の行動について論理的に振り返り、そこから自身の知識として昇華させていく手法です。

サイバーセキュリティの分野では「悪魔の代弁者」という考え方が頻繁に登場します。自身のアイディアや議論の状況などあらゆるものに対して意図して批判を行う人のことを指します。
批判を行うためにはその物事について深く理解する必要があるため知識の習得にも役立つうえ、AIの出力に含まれる「ハルシネーション」を見つけ出すことにも役立ちます。

3. ルール設計

AIを禁止するのではなく、環境側を適応させるのも必要ではないかという意見です。

評価方法を新しい形にアップデートするアイディアとして、試験を「丸暗記では解けない論理的理解を問う内容」に変更したり、競技時間をAIを前提として短い時間に変更するなどの意見が出ました。

また人と人の関係性をより努めて作ることで「AIに聞くより人間に聞いた方が楽」と思ってもらえるようにすることも必要というアイディアも出ました。相手と雑談を頻繁に行う、講義中の雑談チャットを用意して活用する、どんな意見・発言も一回受け止める、など話しやすい環境を作り上げることについての意見が出ました。

この議論においては「従来の基盤をいかに拡張するか」という観点と「新しい基盤を作り上げる」という観点、そしていままでは暗黙的に行われていたことに改めて光を当てていく観点の3つが出たように思います。

また、かつてアラン・ケイがコンピュータを「知の増幅装置」と呼んだように、AIを思考拡張の道具として捉えて拡張するアイディアの源泉を人に置く・置けるように努力するということも議論の場では述べられていました。

まとめ:エキスパートがこの問題の解決策のひとつになるか

最後にこれらの議論の総括として「ミメーシス」という考え方が提示されました。
これは古代ギリシャ語が語源である「模倣」を意味する西洋哲学の概念のひとつです。

教えるという観点ではなく「学びたい」という観点に立ったとき、そう思わせるものは「エキスパート」のような模倣したいと思える存在が重要ではないかという意見でした。

「AIと教育」をテーマに議論を始め、最後には古代ギリシャからつながる「学び」という本質とエキスパートという存在がつながる。エキスパートとして活動するにあたり、自身の活動を通してどのような姿を見せていくべきかのひとつの答えを見せられた、そんなエキスパート座談会でした。

ブログの著者欄

三村 聡志

GMOサイバーセキュリティ byイエラエ株式会社

セキュリティアーキテクト。2019年1月株式会社イエラエセキュリティ(現GMOサイバーセキュリティ byイエラエ株式会社)入社。 前職ではマルウェア解析やアプリケーション・カーネルモードドライバの開発業務に従事。現職ではハードウェアおよびファームウェアの脆弱性診断業務に従事。外部活動において CTF for ビギナーズ(現 SECCON Beginners)立上げ・初代リーダーを経て、2023年より SECCON 実行委員長。 落語と温泉を趣味とし、IT周りでの「オモロー」をいろんな人が体験出来るように日々奮闘中。

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