GMOインターネットグループ デベロッパーエキスパートの市川(@Yoshihiko_ICKW)です。
2023年12月9日(土)~10日(日)行動経済学会 第17回大会@高知工科大学 永国寺キャンパスに参加してきました。
目的は、行動経済学の知見のファイナンス分野への応用研究の調査のためです。が、最近は人工知能や機械学習の隆盛もあり、人工知能を活用した研究も多く見られます。ChatGPTをファイナンスやその他分野への応用をしている例も多かったです。よろしければご覧ください。
(文章の作成に当たっては、一部Chat-GPTを利用しました)
目次
イベント概要
行動経済学会は2007年に設立された学会です。
詳細は上記リンクに譲るのですが、もともと標準的経済学は人間の合理的な行動を前提として議論が進められてきました。しかし、近年その合理的な仮定と矛盾するような実証結果が多く観察されています。このような背景で、人間の非合理的な行動が経済社会の中でどのように行われるのか、という研究する行動経済学が発展してきています。
投資で言えば「なかなか損切りができない」など非合理的な行動が観察されています。
最近は研究に対して人工知能や機械学習を適用する例も増えてきており、様々な分野の研究者・専門家が集まる学会になっています。
概要は以下の通りです。
- 会期:2023年12月9日(土)~10日(日)
- 会場:高知工科大学 永国寺キャンパス(対面開催)
発表の概要
ありがたいことに、行動経済学会 第17回大会のwebに予稿が掲載されています。http://www.abef.jp/conf/2023/lecture.html
以下、著者の敬称略とさせて頂きます。
※必ずしも全てオープンになっているわけではない認識ですので、あくまで予稿や公開されている情報の範囲でコメントいたします。
離散選択実験による情報提供ナッジの野菜摂取促進への有効性の検証
○佐々木俊一郎1,藤池春奈2,鈴木重德2, 1近畿大学,2カゴメ株式会社
合理的な個人なら健康に配慮し野菜をしっかり摂取するが、すべての人がそうでないことも多いです。そのため、ナッジにより野菜摂取を促進させることができるか、アンケート調査にて検証した研究になります。回答者に対して 2 つの架空の昼食のメニューを提示し,どちらのメニューを選ぶかについて選択してもらう離散選択実験を実施しています。
・情報提供ナッジの確認として、何も情報を提示しない実験と、4通りの情報を提供した場合の実験を行っています。
・情報提供ナッジを活用し、野菜サラダの選好順位が上昇しました(一方、サイドディッシュには有効に機能しなかったようです)。
インターネット調査の不真面目回答に対する行動経済学的施策の抑制効果:自由回答形式の記述を事例に
○川西建1,堀内愛子1,佐々木周作2 1株式会社インテージ,2大阪大学感染症総合教育研究拠点
インターネットで動画の感想の調査をする際、「自由回答」が多くなると不真面目な回答が増えてしまうようです。それに対し、検出することや、抑制すること(設計の工夫、ゲーミフィケーション、コミットメントを求める記述を入れる、不真面目にやると報酬減らす、など)を検証した研究になります。実際に改善効果が生まれているようです。
コロナ禍における行動は行動経済学から説明できるのか
○高橋義明 明海大学
それぞれの人のリスク耐性とコロナ陽性、マスク着用、外食行動、旅行行動の4つについてロジット分析により検証した研究です。リスク耐性は、降水確率が何%で傘を持っていくか?で判断しています。結果として、
・コロナ陽性結果やマスク着用行動はリスク耐性では説明できない
・GoToトラベル/イートは、リスク耐性(傘を持っていくかどうか)で説明できる
という結論になったそうです。
最後通牒ゲームの大規模言語モデルを用いたシミュレーション —— 経済実験における新手法確立に向けて ——
○北代絢大,鶴崎祐大,深澤祐援,西野成昭 東京大学大学院
経済実験は多くのコストがかかります。そのため、大規模言語モデル(LLMs)を使い、マルチエージェントシミュレーション(MAS)を行うことを試みる研究です。成功例として Generative agentなどが挙げられていました。
・実験終了後に被験者が受け取る報酬額
・報酬の最大化を目指して意思決定をする指示の有無
・temperature の値
この3つに焦点を当てた研究になります。
「gpt-3.5-turbo-0613」を用い、最後通牒ゲームを題材としています。
ミクロモデルを使ったインフルエンサー・マーケティングにおけるシーディング戦略
講演者 阿部誠(東京大学)
シーディングは、「口コミの広がりにより得られる効果を最大化するための施策」
受信者と発信者の異質性を考慮したインフルエンサー・マーケティングのお話をされていました。
阿部先生の研究は、以下のようなものがあるようです。
水野 誠, 阿部 誠, 新保 直樹, 受信者と発信者の異質性を考慮した インフルエンサー・マーケティングにおけるシーディング戦略, マーケティング・サイエンス, 2022, 30 巻, 1 号, p. 9-, 公開日 2023/11/01, Online ISSN 2187-8315, Print ISSN 2187-4220, https://doi.org/10.11295/marketingscience.202204, https://www.jstage.jst.go.jp/article/marketingscience/30/1/30_202204/_article/-char/ja
タイムプレッシャーと消費者の店舗内行動
加藤諒(一橋大学)
・近年、タイムプレッシャーにより購買行動に影響が出るとの研究が増えている
・TP:消費者が情報を処理し、意思決定を行うために使用することができると知覚している、時間的な制約のこと
加藤先生の研究は、以下のようなものがあるようです。
*加藤 諒, 星野 崇宏, S22C-4 店舗内タイムプレッシャーと快楽性製品カテゴリーの購買行動, 日本行動計量学会大会抄録集, 2022, 50 巻, 50, セッションID S22C-4, p. 110-111, 公開日 2022/10/20, Online ISSN 2189-7484, https://doi.org/10.20742/pbsj.50.0_110, https://www.jstage.jst.go.jp/article/pbsj/50/0/50_110/_article/-char/ja
行動経済学におけるメカニズムの理解:神経 科学・心理学との接点
講演者 星野崇宏(慶應義塾大学)
星野先生の会長講演です。面白い語り口で、様々な問題提起もされており、大変勉強になりました。
The Power of Large Language Models: A ChatGPT-driven Textual Analysis of Fundamental Data
岡田克彦(関西学院大学)
会社四季報のテキストデータをChat-GPTに入力し、将来のアウトルックがポジティブかネガティブかを判断した、という研究になります。
四季報のテキストデータをGPT-3.5にかけ、分析を行っています。
分析の結果、四季報は極端にネガティブなことは書かないが、パンデミックの時などは、全体的に悪化していた、という結果になっています。PBRが高いほど、そして企業規模が小さいほど、予測可能性が高い結果になっていました。
※SSRNにも同タイトルがアップされていました。
Itoh, Satoshi and Okada, Katsuhiko, The Power of Large Language Models: A ChatGPT-driven Textual Analysis of Fundamental Data (August 8, 2023). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=4535647 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4535647
金融リテラシーが資産分散に与える影響
宮本弘之1,○西出陽子2 1豊橋技術科学大学,2一橋大学大学院
・金融リテラシー(主観,金融概念,金融トラブル回避)と資産分散との関係を分析し、主観的金融リテラシー及び金融概念リテラシーが高い人ほど資産を分散しやすいことが示された。という研究になります。
・分散投資に関するアンケート(2023/02)を実施し、計画的行動理論に基づき、資産分散への影響を調査、具体的には構造方程式モデリング(SEM)による推計を行った研究になります。
政策的インプリケーションとして、
・主観的/客観的金融リテラシー双方の教育が必要
・家族やコミュニティ単位での金融経済教育が有効
が挙げられていました。
個人投資家の株式投資の売買損益に関する要因分析
○池端卓也 青山学院大学大学院
・日証協の2021年の「個人投資家の証券投資に関する意識調査」を用いて、売買損益を被説明変数とし、ロジット/プロビットモデルで分析を行った研究になります。
結果としては、
・女性は優位にプラス
・金融リテラシーは正
・NISA利用は1%優位
・専門家を介した注文ダミー、インターネットを利用した注文ダミーは両方とも優位 → 年齢階層別に有効度が異なる
となっているようです。
AIの発展による人と社会のあるべき変容とは 〜生成AIの登場が意味することとは?〜
栗原聡(慶應義塾大学)
栗林先生は、「TEZUKA2023」プロジェクト
https://tezukaosamu.net/jp/mushi/entry/26751.html
に関わっていた先生です。現状の生成AIが人の創造性サポートツールとして「どれくらいの効果」「現時点での技術的課題」を検証する側面もあるとのコメントでした。
・本来、ChatGPTはユーザーが直接利用すべきアプリではなく、中間に「インタラクティブプロンプト生成AI」が必要(5000, 6000字のプロンプトになる)とのコメントも大変示唆深かったです。
所感
ご覧いただいた通り、こちらの学会でもChat-GPTに関する研究が多くありました。生成AIが様々な研究に影響を与え、現在進行形で増えている状況です。
私も時代に遅れないよう、頑張ってついていきたいと思います。
お読みいただきまして、ありがとうございました!
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