【イベントレポート後編】第4回 GMO大会議🍁秋|「GMOフィジカルAI Awards 2026」受賞者発表と社会実装への挑戦

GMOインターネットグループが2026年9月15日に開催した「第4回 GMO大会議🍁秋 フィジカルAI 2026」の後編。四足歩行型ロボットによる警備実証実験、「GMOフィジカルAI Awards 2026」、フィジカルAIを支える技術基盤や学習データ、サイバーセキュリティに関する議論まで、イベント後半の様子をレポートします。

前編レポートはこちらから

パネルディスカッション「四足歩行型ロボットによる警備実証実験―現場で見えた社会実装への道筋」

今回で第4回となるGMO大会議。レポート後編ではまず、四足歩行型ロボットによる警備実証実験をテーマとしたパネルディスカッションの模様を紹介します。

登壇したのは、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター所長の古田 貴之氏と、ALSOK 執行役員CTO 佐藤 将史氏。モデレーターは、GMOインターネットグループ グループ副社長の西山 裕之が務めました。

GMOインターネットグループ グループ副社長 西山 裕之

議論の出発点となったのは、GMOインターネットグループと千葉工業大学が取り組んできた、陸上自衛隊の施設における四足歩行型ロボットの警備実証実験です。

はじめに古田氏は、プラント内を自律的に巡回する四足歩行型ロボットの映像を交えながら、その技術的な特徴を紹介しました。ベースとなる機体にはUnitree Roboticsの四足歩行型ロボットを採用していますが、搭載されていたコンピューターやセンサーを取り外し、独自のコンピューターやセンサー、GPSなどを搭載。機体を「筋肉」として活用し、その上に独自の知能を構築していると説明します。

階段や段差、山道、雪上など、人間にとっても移動が難しい環境を進めるのが四足歩行型ロボットの強みです。一方、警備で活用するには、単に歩けるだけでは十分ではありません。古田氏は、ロボット本体から通信、収集するデータに至るまで、システム全体の安全性を確保する重要性を強調しました。

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター所長 古田 貴之氏

こうした技術を自衛隊施設だけでなく、民間の警備現場にも広げようと連携したのがALSOKです。

ALSOKでは、1982年から警備ロボットの研究開発を開始し、2002年には商用の警備ロボットを市場へ投入しました。佐藤氏は、長年の運用を通じて培ってきた知見として、「ロボットを現場へ置くだけでは、警備サービスとして成立しない」と説明します。

例えば、かつて導入した警備ロボットは、「見た目がかっこいい分、子どもたちが興味を持ってしまい、機体によじ登られてしまうことがあった」と明かします。そこで、躯体をつかみにくい滑らかな形状へ変更。さらに、人のそばを通る際には十分な距離を取って大きく迂回するなど、現場で安全に共存するための工夫を積み重ねてきました。

ALSOK 執行役員CTO 佐藤 将史氏

現在、ALSOKが常駐警備や巡回警備を行う施設は全国約4,500カ所に上ります。近年は、屋外や広大な敷地を長時間巡回したいというニーズも増えており、長距離を安定して移動できる四足歩行型ロボットへの期待は大きいと佐藤氏は語りました。

こうした背景から、GMOインターネットグループ、千葉工業大学、ALSOKの3者は、都内の施設で四足歩行型ロボットを使った警備実験を進めています。当日は、階段を上りながら施設内を自律巡回する様子が初めて公開されました。

なお、この実験では、西山からも運用面での提案がありました。遠隔地から周囲を確認し、不審者へ音声で警告するには、どのような機器を搭載すべきか。侃々諤々の議論が続くなか、西山は「これ、iPhoneでいけるんじゃないか」と提案したのです。手ぶれ補正や暗所撮影に対応し、スピーカーも備えているうえ、動作を試したければ、人がiPhoneを持って巡回ルートを歩くだけで検証できる。身近なデバイスが、必要な条件を見事に満たしていたのです。

古田氏は、この提案を「今でも思い出せるほど、いいひらめきだった」と高く評価します。最初からすべてを専用品として作り込むのではなく、既存技術を柔軟に組み合わせ、現場で検証しながら改善していくアプローチが、社会実装を進めるうえで有効であることが示されました。

しかし、現場で見えてきたのは、技術面の課題だけではありませんでした。

実験場所は一般の人も出入りできる民有地だったため、関係省庁や警察と協議を重ねたものの、四足歩行型ロボットが既存の制度上どのように扱われるのか、明確な前例がありません。ナンバープレートや道路使用許可は必要なのか、緊急停止や方向指示をどう実装するのか。最終的には、コーンで実験区域を区切り、スタッフが立ち会うことで実施にこぎ着けました。

カメラの高さにも配慮が必要です。低い位置から撮影すると、周囲の人のプライバシーを侵害する可能性があります。また、人が行き交う場所では、衝突時のリスクを抑えるため、小型の機体を選択せざるを得ませんでした。こうした一つひとつの判断に、実際の警備現場を知るALSOKの知見が生かされています。

開発側が実現したいことと、現場が安全に運用できること、そして事業として成立することは、必ずしも一致しません。だからこそ、開発者と運用者が率直に意見をぶつけ合い、実際の現場で改善を繰り返すことが不可欠です。

四足歩行型ロボットが警備員の新たな仲間として現場を巡回する――。そんな未来は、もはや遠い構想ではありません。3者は今後もさまざまな現場で挑戦を続け、技術、セキュリティ、制度、運用の知見を蓄積しながら、日本発のフィジカルAI社会実装を力強く牽引していきます。

GMOフィジカルAI Awards 2026表彰式

続いて、大きな功績を上げた個人・団体をたたえる「GMOフィジカルAI Awards 2026」の表彰式が行われました。オープニングでパフォーマンスを披露したヒューマノイドロボット「ひとみん」も進行に加わり、AI部門とロボティクス部門の優秀賞が発表されました。

選考は、約1カ月間の一般公募を経て、経済産業省 大臣官房審議官の奥家 敏和氏、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター所長の古田 貴之氏、GMOインターネットグループ サイバー防衛事業推進本部「6」本部長で元陸上自衛隊 陸将の廣惠次郎が審査を担当。社会実装力、業界牽引力、人材育成、革新・独自性、再現性の5つの視点から、技術の先進性や社会への貢献度を審査しました。

AI部門優秀賞:株式会社Preferred Networks

AI部門優秀賞に輝いたのは、株式会社Preferred Networksです。AI半導体から対話型AIまでを日本独自の技術で一貫して開発し、社会実装へつなげた点が高く評価されました。

同社が独自開発したAI半導体「MN-Coreシリーズ」は、消費電力当たりの性能で3度の世界一を獲得。国産生成AI基盤モデル「PLaMo」をはじめとするAI技術の開発にも取り組み、自社開発した大規模言語モデル「PLaMo Prime」は、全国約800の自治体が利用するサービスに採用されています。研究成果を研究室の中だけにとどめず、社会で使われる技術へと昇華させてきた実績が、今回の受賞につながりました。

Preferred Networks 共同創業者 代表取締役社長 岡野原 大輔氏

表彰を受けた共同創業者 代表取締役社長の岡野原 大輔氏は、革新的な技術を日本で生み出すだけでなく、失敗や試行錯誤を重ねながら社会実装を続けることが重要だと語りました。

「実装しながら学び、それを反映させて少しでも前進していく。その先に、AIを使ったさまざまな未来が広がっています」

岡野原氏は、今回の受賞を励みに、より良い未来に向けてAIの社会実装をさらに進めていく考えを示しました。

ロボティクス部門優秀賞:テレイグジスタンス株式会社

ロボティクス部門優秀賞を受賞したのは、テレイグジスタンス株式会社です。フィジカルAIの発展を阻む大きな壁である学習データの不足に対し、業界全体で活用できる仕組みを構築したことが評価されました。

同社は、コンビニエンスストアや物流倉庫で数百台のロボットを運用してきた知見を生かし、ロボットの動作データを大量かつ低コストで生成するモーションデータ工場を構築。その仕組みを国内外の企業や大学へ開放し、フィジカルAI産業の裾野を広げています。

テレイグジスタンス 共同創業者 CTO 佐野 元紀氏

表彰を受けた共同創業者 CTOの佐野 元紀氏は、同社のロボットが現在も小売や物流の現場で、遠隔操作と自動制御を組み合わせながら24時間365日稼働していることを紹介しました。

「実際に動いているロボットの遠隔操作や自動操作のデータを還流させ、ロボットモデルをより強くしていく。そうした仕組みをご評価いただけたのだと受け止めています」

現場でロボットを動かし、そこで得たデータによってさらに性能を高める。現場で得たデータをロボットの性能向上へ還元する、社会実装と技術開発を循環させる取り組みです。佐野氏は受賞への感謝を述べるとともに、さらなる技術開発と社会実装を進めていく考えを示しました。

革新的なAI技術を社会へ届けるPreferred Networksと、現場で蓄積されるデータをロボットの進化へつなげるテレイグジスタンス。日本のフィジカルAIを前へ進める両社へ、会場から大きな拍手が送られました。

平野 一将 エヌビディア合同会社 ロボティクス事業部 事業部長「NVIDIAが描くフィジカルAIの技術基盤」

表彰式に続いて登壇したのは、エヌビディア合同会社 ロボティクス事業部 事業部長の平野 一将氏です。

NVIDIAは世界中のロボティクス企業との連携を広げ、AIとシミュレーション技術によって、ロボットの高度化と大規模展開を支えています。

エヌビディア ロボティクス事業部 事業部長 平野 一将氏

平野氏がフィジカルAI開発における重要な課題として挙げたのが、データ戦略です。生成AIがインターネット上の膨大なデータを学習できるのに対し、ロボットの動作に必要なデータはウェブ上にほとんど存在しません。実世界で集めるには多くのコストがかかり、危険を伴う場合もあります。一方、シミュレーションで大量のデータを生成しても、現実世界との差であるSim2Real問題が生じます。

このデータの壁を乗り越えるためにNVIDIAが提供しているのが、世界基盤モデル「NVIDIA Cosmos」です。AIが現実世界の状況を理解し、その先に起こる変化を予測することで、自動運転車やロボットの判断と行動を支えます。

自動運転向けのオープンAIモデル群「NVIDIA Alpamayo」では、車両が周囲で起きていることを理解し、その判断過程を自然言語で説明します。さらに、ドライバーとの対話を通じてAIエージェントと連携し、知能を高めていきます。こうした世界モデルの技術は、自動運転だけでなく、製造、物流、ヘルスケアなど幅広い分野への応用が期待されています。

NVIDIAは、膨大な計算資源を使って事前学習したモデルをオープンモデルとして提供しています。企業はそこへ自社が持つデータを使った追加学習を行うことで、汎用的な知能を、それぞれの現場に特化した知能へと進化させることができます。大切なデータを守りながら、日本の現場で培われた技術やノウハウをAIに学ばせる。平野氏は、そこに日本の勝ち筋があると語りました。

さて、本会議の中心テーマでもあるヒューマノイド開発を支えるのが、「NVIDIA Isaac GR00T」開発プラットフォームです。実機とシミュレーションによるデータ収集から、模倣学習、評価、実機への展開まで、一連の開発工程をつなぎます。

その実装例として紹介されたのが、「NVIDIA Isaac GR00T Reference Humanoid Robot」です。Unitree H2 Plusをベースに、エッジAIコンピューター「NVIDIA Jetson AGX Thor T5000」と、触覚センサーを備えた5指ロボットハンド「Sharpa Wave」を組み合わせています。あらかじめ用意されたGR00Tのワークフローにより、従来は数日を要していたセットアップも、数時間まで短縮されるといいます。

日本のものづくりとNVIDIAの技術を組み合わせることで、ヒューマノイド開発のさらなる加速が期待されます。平野氏は最後に、日本のものづくりとNVIDIAの技術を掛け合わせ、日本ならではのロボットを「皆さんと一緒に作っていきたい」と呼びかけ、講演を締めくくりました。

パネルディスカッション「フィジカルAIを動かす学習データの作り方 ― 現場で集めるか、合成でつくるか」

続いて行われたのは、パネルディスカッション「フィジカルAIを動かす学習データの作り方 ― 現場で集めるか、合成でつくるか」です。

登壇したのは、経済産業省 大臣官房審議官 奥家 敏和氏、株式会社Preferred Networks 共同創業者 代表取締役社長 岡野原 大輔氏、一般社団法人AIロボット協会 CTO 松嶋 達也氏、テレイグジスタンス株式会社 共同創業者 CTO 佐野 元紀氏。モデレーターは、GMOインターネットグループ サイバー防衛事業推進本部「6」本部長であり、元陸上自衛隊 陸将の廣惠 次郎が務めました。

GMOインターネットグループ サイバー防衛事業推進本部「6」本部長 元陸上自衛隊 陸将 廣惠 次郎

議論の出発点となったのは、フィジカルAIの学習データをめぐる課題です。インターネット上に膨大なテキストや画像が存在する生成AIとは異なり、フィジカルAIには、ロボットが現実世界でどのように動き、その結果として何が起きたのかというデータが欠かせません。

廣惠は「AIが体を持ったことで、必要なデータの種類も大きく変わった」と説明。学習データを誰が、どのように作るのか。そして、実世界で集めるデータと、シミュレーションなどで生成する合成データをどう使い分けるのか。フィジカルAIの発展を左右するテーマについて、産官学それぞれの立場から意見が交わされました。

最初のテーマは、学習データ収集の現在地です。

佐野氏は、最も価値が高いのは、実際のロボットを現場で動かして得られるデータだと説明しました。ロボットの関節角度や動作、その際に操作者が見ていた映像などをまとめて記録することで、ロボットが取るべき行動を直接学習できます。一方で、実機を使ったデータ収集には、多くの時間とコストがかかります。

テレイグジスタンス 共同創業者 CTO 佐野 元紀氏

そこで活用されているのが、手に持ったデバイスを操作して収集するデータや、人間の視点から撮影した一人称映像、シミュレーションによって作られたデータです。

松嶋氏は、実機の遠隔操作をはじめ、手持ちデバイスや一人称映像、シミュレーションなど、複数の方法を組み合わせる必要があると指摘。一般社団法人AIロボット協会では、月間数万時間規模の遠隔操作データを収集しているものの、汎用的な基盤モデルの構築には、さらに大規模なデータが必要になると語りました。

一般社団法人AIロボット協会 CTO 松嶋 達也氏

奥家氏は、フィジカルAI政策においても「AI政策はデータ政策」と言えるほど、データが重要であると強調しました。政府では、公開データセットの活用に加え、企業や研究機関が持つロボットの動作データや一人称映像を集約し、フィジカルAIの基盤モデルにつなげる取り組みを進めています。

また、製造現場に眠る文書や映像、熟練者のノウハウといった非構造化データを、AIが学習できる形に整える「AI-Ready化」も重要なテーマです。日本の現場に蓄積された膨大なデータを、いかに競争力へ変えていくかが問われています。

経済産業省 大臣官房審議官 奥家 敏和氏

続いて議論は、実データと合成データの使い分けへと進みました。

岡野原氏は、画像や動画、音声などの生成技術が急速に進化している一方、現在は実データを起点に環境や物体、タスクの条件を変化させ、データの多様性を広げる使い方が中心だと説明しました。特に、触覚や未知の物理現象など、シミュレーションだけでは再現しきれない領域では、依然として実世界のデータが重要です。

Preferred Networks 共同創業者 代表取締役社長 岡野原 大輔氏

松嶋氏は、ロボットが使う家具や部屋をすべて3Dデータとして作り込むより、実際に家具を用意して撮影した方が速い場合もあると紹介。まず実世界でデータを集め、それを基に物体の配置や色、物理特性などをシミュレーション上で変化させることで、学習データを効率的に増やせると語りました。

実データか、合成データか。どちらか一方を選ぶのではなく、現場で得たデータを土台に、シミュレーションで不足を補い、多様性を広げていく。このように、両者を組み合わせて活用する方向性が示されました。

議論はさらに、集めたデータを誰が保有し、どこまで共有するのかという問題にも及びました。

佐野氏は、自社で収集したデータを競争力の源泉として守ることは重要だとしながらも、一社だけで汎用的な基盤モデルを作ることは難しいと指摘。さまざまな作業に応用できる基本動作のデータは業界で共有し、各社固有の業務やノウハウに関わるデータは自社で保持するという役割分担を提案しました。

奥家氏によれば、企業側の意識もここ2年ほどで大きく変わりつつあるとのことです。すでにDMG森精機や小松製作所、川崎重工業、ファナック、安川電機などが、製造業のデータをAIで活用できる形へ整える取り組みに参加しています。一般化できる動作や知識は共有し、機密性の高いデータは各社の環境で追加学習に使う。協調領域と競争領域を切り分けることで、企業の強みを守りながら産業全体を底上げできます。

現場で集める実データ、シミュレーションで生み出す合成データ、そして企業や組織の壁を越えたデータ連携。日本が誇るものづくりの知見をフィジカルAIの力へ変えるためには、産官学がそれぞれの強みを持ち寄り、データを生み出し続けることが欠かせません。日本発のフィジカルAIを世界へ送り出すための、具体的な道筋が見えたセッションとなりました。

パネルディスカッション「AIで攻撃が加速する今、どう『先に』守るか」

続いて行われたのは、パネルディスカッション「AIで攻撃が加速する今、どう『先に』守るか」です。

登壇したのは、Cloudflare Japan Field CTO 乙部 幸一朗氏、Anthropic Japan 合同会社 Applied AI 本部長 菅野 信氏、GMOインターネットグループ グループCISO GMOサイバーセキュリティ byイエラエ 執行役員の阿部 慎司。モデレーターは、GMO Flatt Security 取締役Co-CTOの米内 貴志が務めました。

GMO Flatt Security 取締役Co-CTO 米内 貴志

フィジカルAIは、ロボットや機械だけでなく、それらを動かすソフトウェアやネットワークまで含めた技術です。インターネットにつながる以上、サイバー攻撃への備えは避けて通れません。そこで本セッションでは、AIによって攻撃がどのように変化しているのか、そのスピードに防御側がどう対応すべきかについて議論しました。

最初のテーマは、この半年間で起きたサイバーセキュリティの変化です。

菅野氏は、Anthropicが開発する最先端AIモデルのサイバーセキュリティ能力について紹介しました。最先端AIモデルはもともとサイバーセキュリティに特化して開発されたものではなく、プログラミングや文章作成、科学研究など幅広い能力を高めた結果、これまで発見できなかった複雑な脆弱性まで見つけられるようになったといいます。

その事例として紹介されたのが、Anthropicのサイバーセキュリティ向けモデル「Claude Mythos Preview」です。堅牢性で知られるOSのOpenBSDや、広く利用されているマルチメディアフレームワークのFFmpegから、長年発見されなかった問題を突き止めました。多くの開発者が利用し、さまざまな検証が重ねられてきたソフトウェアから新たな脆弱性を見つけ出す能力は、AIがセキュリティの常識を変えつつあることを示しています。

Anthropic Japan Applied AI 本部長 菅野 信氏

阿部も、GMOインターネットグループのホワイトハッカーとAIが協働し、19年前から存在していたLinuxカーネルの脆弱性を発見した事例を紹介しました。人間の高度な専門性に、膨大なコードを高速で調査できるAIが加わったことで、脆弱性を発見するスピードが飛躍的に高まっています。

「ものすごく優秀な相棒がついたようなものです」と阿部。AIは人間の仕事を単純に置き換えるのではなく、熟練したホワイトハッカーの能力を大きく拡張する存在になっています。

GMOインターネットグループ グループCISO GMOサイバーセキュリティ byイエラエ 執行役員 阿部 慎司

一方、乙部氏が指摘したのは、攻撃の量とスピードの変化です。発見される脆弱性の数は増加を続け、脆弱性が公表されてから実際の攻撃に使われるまでの時間も、数週間や数カ月から24時間未満へと短縮されつつあります。公表される前から悪用されるゼロデイ攻撃もあり、従来の対応速度では間に合わない局面が増えています。

さらにAIは、個々の脆弱性を発見するだけでなく、複数の脆弱性をつないで一連の攻撃を組み立てる能力も高めています。乙部氏は、AIが作業を補助するアシスタントの段階を越え、攻撃そのものを実行できる段階へ進み始めていると説明しました。

Cloudflare Japan Field CTO 乙部 幸一朗氏

強力なモデルを無制限に公開すれば、攻撃にも悪用されかねません。そこでAnthropicが進めているのが「Project Glasswing」です。社会インフラに関わるIT企業やセキュリティベンダーなどに利用者を限定し、Mythos Previewを防御側で活用しながら、安全な運用方法やガバナンスについて検証しています。

AIは攻撃にも防御にも使えるデュアルユースの技術です。その能力を守る側へいち早く届けつつ、悪用を防ぐ仕組みも整える。Project Glasswingでは、高性能なAIを安全に活用するための運用方法やガバナンスの検証が進められています。

続いて議論は、企業が具体的にどのような対策を取るべきかへと進みました。

乙部氏が示したポイントは、自社のシステムや使用しているOSSを把握してパッチを適用すること、WAFなどを活用した多層防御、開発段階からセキュリティを組み込むシフトレフト、監視や検証へのAIエージェントの活用、AIエージェントの暴走を防ぐ安全な利用基盤の構築です。

いずれも、AIの登場以前から求められてきた基本的な対策です。しかし、攻撃の量とスピードが飛躍的に高まったことで、その緊急度はかつてないほど増しています。

特に重要なのが、脆弱性を修正するパッチの適用です。従来のように月に一度まとめて対応する運用では、攻撃に間に合わない可能性があります。一方で、工場や社会インフラなど、簡単には稼働を止められないシステムも少なくありません。

阿部は、まずWAFなどで攻撃を遮断する仮想的なパッチを適用し、その後に正式な修正を行う段階的な対応を提案しました。さらに、パッチ適用後の検証にもAIを活用できれば、システムへの影響を素早く確認し、安全な更新につなげられます。

もう一つの重要な対策が、開発の早い段階から安全性を確保するシフトレフトです。

菅野氏は、ファイルの保存時やコードのコミット時に、AIが変更箇所を確認する仕組みがすでに登場していると紹介しました。完成後に脆弱性を探して修正するだけでは、増え続ける問題への対応が追いつきません。開発工程のなかでAIによるコードスキャンを繰り返し、脆弱性を作り込まないことが重要だと強調しました。

フィジカルAIが社会へ広がるほど、サイバー空間の問題は現実世界の安全にも直結します。AI時代のセキュリティに必要なものは、まったく新しい奇策ではなく、これまで積み重ねてきた基本対策をAIの速度に合わせて進化させること。その重要性が改めて示されたセッションとなりました。

藤井 輝夫 東京大学総長「フィジカルAIによる社会イノベーションに向けて」

大会議の最後に登壇したのは、東京大学総長の藤井 輝夫氏です。自身のロボット研究を出発点に、フィジカルAIの社会実装に必要な産学連携、責任あるイノベーション、そして次世代の人材育成について語りました。

実は藤井氏は、約40年前から海中ロボットの研究に携わってきました。水中を航行するロボットの動きは複雑で、その運動の力学的なモデルを作ることも容易ではありません。そこで大学院生だった藤井氏が着想したのが、泳ぎながら自ら学習し、少しずつ上達するロボットでした。

東京大学の甘利俊一教授(当時)が提唱した神経回路モデルを応用し、ロボットが自身の動き方を学ぶ自律制御システムを構築。1991年には、その成果をシンガポールで開催された国際学会で発表しました。現在のフィジカルAIにつながる発想を、30年以上前から研究していたことになります。

東京大学総長 藤井 輝夫氏

藤井氏は、複数のロボットが衝突せずにすれ違うことを目指した1998年の実験も紹介しました。シミュレーションで生成したデータを学習させた後、実機上で調整を重ねる手法は、現在のフィジカルAI開発にも通じます。藤井氏は生成AIが広がり始めた当初から、日本は物理世界で動くAIに力を入れるべきだと訴えてきたといいます。

その考えを具体化した取り組みの一つが、2024年12月に設立された一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)です。AI研究とロボティクス研究を結び、汎用的なロボット基盤や、ロボット基盤モデルに利用できるオープンなデータセットの構築を進めています。2026年9月時点では53社が参画しており、日本の製造業やロボット企業が持つ知見とデータを集め、世界へ展開できる基盤づくりを目指しています。

企業や大学が個別にデータを抱えるのではなく、産学が連携してAIとロボットをともに成長させることの重要性が示されました。

一方、AIの能力が高まるほど、安全性や倫理をめぐる議論も避けて通れません。AIが人類の脅威となる可能性やアライメントリスクは、世界の研究者や開発者からも指摘されています。藤井氏は、遺伝子組み換え技術の利用について科学者が自主的なルールを議論したアシロマ会議などを例に挙げ、技術の進歩と社会の安全を両立させる「責任あるイノベーション」の重要性を強調しました。

実際に東京大学では、社会連携講座「責任あるAI倫理の創造と持続可能な未来構築」を設置し、具体的な取り組みを始めています。講義だけで終わらせず、フィールドワークやワークショップ、AI倫理検定、現場への導入支援までをつなぎ、実社会から得た知見や収益を次の社会実装へ再投資する仕組みです。

フィジカルAIが工場の外へ広がれば、道路の使用許可をはじめとする既存制度との調整や、安全を担保する仕組み、事故が起きた場合の責任の所在までを含めた社会システムも必要になります。藤井氏は、技術だけでなく社会制度まで含めて設計し、日本でフィジカルAIをいち早く社会実装できる環境を整えたいと展望を語りました。

その未来を担う人材を育てるため、東京大学は2027年秋に「UTokyo College of Design」を開設する予定です。目指すのは、技術の開発にとどまらず、実現したい社会を描き、そのために必要な制度や仕組みまで構想し、それをリードできる人材の育成です。

「フィジカルAIの社会実装を進め、社会のイノベーションを担う人材を、東京大学として育てていきたい」

長年にわたりロボットとAIの研究に向き合ってきた藤井氏の言葉で、産官学のトップランナーが集結した大会議は締めくくられました。

フィジカルAIの未来へ、挑戦は続く

すべてのセッション終了後は、GMO Yours・フクラスに会場を移して交流会を開催しました。登壇者や参加者が立場を越えて語り合い、フィジカルAIの未来をめぐる議論は、夜になっても尽きません。

20時からは、現地限定の特別コンテンツ「人型ロボット運動会 走りで世界1を目指すロボット開発の裏側」も実施。世界人型ロボット運動会に日本企業として唯一出場したGMOインターネットグループが、機体の開発や走行性能の向上に挑んだ舞台裏を公開しました。世界を相手に本気で勝利を目指す、まさにGMOインターネットグループらしい挑戦です。

産官学のトップランナーによる議論から、ヒューマノイドの社会実装、AI時代のサイバーセキュリティ、そして世界に挑むロボット開発まで、フィジカルAIの現在と未来を存分に体感した一日となりました。最後まで熱気に包まれた渋谷の夜。進化を続けるGMOインターネットグループのフィジカルAIへの挑戦に、これからもご注目ください。


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