AIと作ったWebアプリをすぐに公開 エンジニアリングリード・深野悠吾さんに聞く、「ロリポップ!デプロイナウ byGMOペパボ」開発秘話・前編

AIコーディングツールの普及によって、Webアプリを「作る」ハードルは大きく下がりました。一方で、それを「公開する」段階には、いまだにインフラの知識が立ちはだかります。AIと一緒に作ってはみたものの、共有や公開の仕方がわからないまま手元に眠っていたり、他の人にも使ってほしいのに自分しか使えないアプリがある方もいるのではないでしょうか。

この障壁を超えるべくつくられたのが、「ロリポップ!デプロイナウ byGMOペパボ」です。コマンドひとつで作ったものを公開できるホスティングサービスとして、2026年7月に提供を開始しました。

今回は、そんな「ロリポップ!デプロイナウ byGMOペパボ」の開発を担ったエンジニアリングリードの深野悠吾さんにお話を伺いました。

本記事は、エンジニアの開発思想と技術選定に迫るインタビューシリーズ「Engineering Journey」の第5弾です。GMO Developers & Creators と GMOペパボ テックポータルのコラボレーション企画として、前編を本サイトで、後編をGMOペパボ テックポータル でお届けします。

———まず、深野さんのこれまでのご経歴をお聞かせください。

深野

2022年に新卒でGMOペパボへ入社しました。最初はクリエイター向けのECプラットフォームであるSUZURI事業部に配属され、そこでWebアプリケーションの開発をずっと担当してきました。

当時はちょうどOpenAIが登場したタイミングだったので、APIを使って自分たちのサービスに何か組み込めないかという話になり、チャット機能を作ったりしていましたね。当時としてはかなり早い段階での取り組みだったと思います。

そのころは新しいものを立ち上げる場面も多かったですね。他企業さんと共同で実施したコンテスト向けのアプリケーションを開発したり、VTuber向けの配信画面デザインサービス「Alive Studio byGMOペパボ」の社内立ち上げに参加したり……といった具合です。

転機になったのは、社内のプレゼン大会「P-1グランプリ」での発表でした。そこで話した内容がきっかけのひとつとなり「メタバース推進室」という新しい組織ができました。僕もそのタイミングで異動して、1年ほど活動していました。VRChat上で会社説明会を開いたり、鹿児島県日置市さんが行っている「ネオ日置」の取り組みの一環として、日置市の太鼓踊りを再現するといった企画を行いました。

その後、現在のロリポップ・ムームードメイン事業部へ異動し、「ロリポップ!デプロイナウ byGMOペパボ」の開発に携わっています。

———デプロイナウの構想は、どのようなきっかけから生まれたのでしょうか。

深野

作ること自体は身近になったけれど、それを公開する場所がまだないという課題感が始まりでした。社内でWebアプリケーションやサイトを作るディレクターやマネージャーは結構いるんですが、知識がないと公開まで至るのは難しいんですよ。

公開先として機能するサービスが国内にはあまりなかったですし、何よりGMOペパボは「人類のアウトプットを増やす」というミッションを掲げている会社ですから、そこは自分たちがやっていこうという話になりまして。そこからデプロイナウの構想が始まったという流れですね。

僕個人としても、作ったものを公開するにあたって必要になるいろいろな設定をもっと楽にできないかとは思っていました。

エンジニア向けのイベントに行くと、「こういうサイトを作りました」「こういう面白いことをやりました」と発表される方がたくさんいるんです。「自分がいいと思ったものを誰もが公開できる世界にしたい」と感じていたので、こうした思いもモチベーションにつながりましたね。

また僕自身もいろんな人が作ったものを見るのが好きで、創作活動をする側でもあるんです。これまでも個人的にYouTubeに動画を投稿したり、「SUZURI byGMOペパボ」のAPIを使ったジェネレーターを作ったりといったことをやってきました。

困りごとを解決したり、もっと効率化したり、より楽しいものにしたり……という発想が形になったものを、誰もがデプロイナウを通じて公開できたらいいなと考えています。

———想定されているユーザー像を教えてください。

深野

将来的に広めたい層は「生成AIによってコードは書けるようになったけれど、公開の仕方がわからない」という一般の方々です。

ただ、いきなりそこを狙っても届きません。多くの方に「このサービスいいよ」と言ってもらえないと広めてもらえないので、最初のターゲットは割とエンジニア寄りに近づけています。すでにアプリを運営していたり、作ったことがあったりする方々ですね。

そこからエンジニアの方が使ってくださって、最終的には「このサービスだったら、あの人も公開できるよ」という形で外へ広がっていってほしいなと思っています。

まずNext.jsから対応したのも、最も使われるフレームワークを最優先にしたかったからです。広く使われているからこそ社内でもNext.jsを使う人が多かったですし、実際にAIにコードを書かせるとNext.jsで書いてくることが多いんです。

AIが書くコードに対応できるのであれば、最初はNext.jsに絞ろうという流れで決まりましたね。現在はNext.js、Nuxt、静的サイトの3種類に対応しています。React、Vite、Vue.js、Astro、Honoといったフレームワークも今後対応予定です。

———「作ったものをすぐ公開できる」という体験は、どのように設計されたのでしょうか。

深野

前提として置いたのは「AIが使えるサービスであること」です。何かしらエラーが出たときでも、そのログをAIへ投げれば解決できるようにすることも設計段階から決めていました。そのためにエラーログを正しく出すことは、かなり意識した部分ですね。

またとくにこだわったのが、コマンドひとつで公開まで到達できる点です。未ログインの状態でコマンドを実行すると、まずログインを促す画面へ移動し、そのあとで「どのサイト名で作りますか?」といった対話形式で進んでいって、そのまま公開まで完了するようになっています。

どうやってコマンドひとつで公開まで完了させられるかというのは、最後まで一貫して議論していた点でした。

深野

CLIですべての機能を提供する設計にしたのも、同じ理由からです。AIがそのサービスを使えなければ意味がないからこそ、CLIという形で全機能を提供する必要がありました。

開発者ドキュメントについても同じ発想です。人間がこのサービスを理解するという以上に、AIがドキュメントを読める状態にすることを心がけました。なので、基本的にこうしたドキュメントはMarkdownでコピーできる形にして、AIがアクセス可能な状態にしています。

これはデプロイナウに限った話ではありません。「ロリポップ!ゼロトラストリンク byGMOペパボ」(ゼロトラストのP2P接続サービス)など、現在提供しているAI関連サービスに共通するテーマが「AIが使える」「AIを使うためのもの」であることなんです。全社的にその方針があり、デプロイナウもその流れの中にあるプロダクトだといえますね。

———リリース後は「ロリポップ!デプロイナウ byGMOペパボ」のユーザーによって多くのアプリやサイトが公開されましたが、とくに印象に残ったものがあればお教えください。

深野

公開後、デプロイナウで公開したサイトやアプリをX(Twitter)に投稿いただいた方も多かったのですが、最初期のもので印象に残っているのは、お笑い芸人のトレーディングカードの交換相手を探すためのジェネレーターですね。この芸人さんのカードが欲しくて、代わりにこれを譲れます、という交換表を作れるものです。これを作られた方は、本格的なプログラミングの経験はほとんどない方だったんですよ。

次に話題になったのが、アイドルグループのチケット申し込みの締め切りや、どのテレビ番組で見られるかといった情報をまとめたサイトですね。こちらも社内で話題になっていました。

非エンジニアの方が「こういうものを作りたい」というアイデアを実際に形にして公開する、その受け皿になれたところは大きいですね。「ロリポップ!デプロイナウ byGMOペパボ」を通じて、いろんなアイデアの詰まったサイトが数多くデプロイされていると感じています。僕らが作りたかったのは、まさにこういうものでした。

———Freeプランをあえて用意したのは、どのような理由からでしょうか。

深野

理由は2つありまして、1つ目は「多くの方に選んでもらうため」です。「ロリポップ!デプロイナウ byGMOペパボ」と同種のサービスは海外にもありますが、どれも無料プランが存在しているんです。Freeプランがない場合、そちらのほうへ流れてしまう可能性があるだろうなと。

もう1つは離脱の問題です。せっかく選んでもらっても、非エンジニアの方は「クレジットカードを登録して決済する」ことに抵抗感を感じて離脱してしまう可能性があると思ったんです。

そもそも受け皿になれるかどうかもわからない状態でお金を使う判断はできないと考えたので、「まず無料で試してもらって、そこから徐々に使い込んでもらう」という導線を考えました。

とはいえ、GMOペパボでFreeプランを提供しているサービスはほとんどありません。かなり挑戦的な取り組みなので、長くサービスを提供するべく、今も調整を加え続けている状態です。

———SUZURI事業部、メタバース推進室と、さまざまな部署で新しいサービスの立ち上げに関わってこられました。その経験は今回どう活きましたか。

深野

「ロリポップ!デプロイナウ byGMOペパボ」は2026年4月頃から着手して、リリースが7月上旬でしたから、開発期間はおよそ3ヶ月でした。この期間で走りきれた背景には、これまでの経験があると思っています。

先ほどお話ししたコラボコンテスト用アプリケーションや「Alive Studio byGMOペパボ」の立ち上げのように、社内で新しいアプリケーションを作ったり、新しいサービスを立ち上げたりする場面に関わることが多かったんです。

その中で、立ち上げの際はどういうことを考えておく必要があるのか、運用が始まったらここが後から必要になるから今のうちに準備しておこう、といった勘所が蓄積されていました。

深野

とくに効いたのが各種申請まわりですね。グループとして新しいサービスを出すときには、セキュリティ診断などの許可をもらう必要があります。ただ、エンジニアもディレクターも、プロダクトを作ることに一生懸命になっていると見落としがちなんですよ。

直前になって「やっていなかった」と気づいても、「そんなタイミングでは申請通らないよ!」と怒られたり(笑)。今回はそうしたケースを未然に防ぐことができましたね。

ディレクターが「何をすればいいんだろう」と迷う前に、「こういうことが必要ですよ」と示せたのは大きかったですね。開発そのものというより、まだこの世界にないものを作って公開するまでのプロセスで必要になることに知見があったという感覚です。

———今回の「ロリポップ!デプロイナウ byGMOペパボ」は、GMOペパボが提供するAI関連プロダクト群の中で、どのように位置づけられているのでしょうか。

深野

GMOペパボでは、AI関連のプロダクトとして「ロリポップ!AIエージェントクラウド byGMOペパボ」「ロリポップ!デプロイナウ byGMOペパボ」「ロリポップ!ゼロトラストリンク byGMOペパボ」「ロリポップ!AIゲートウェイ byGMOペパボ」の4サービスを出しています。これらはいずれも「AIに使ってもらうこと」「AIを使うこと」の2点を意識した建て付けになっていて、相互に連携し合う構想を描いています。

たとえば「ロリポップ!AIエージェントクラウド byGMOペパボ」と「ロリポップ!ゼロトラストリンク byGMOペパボ」では、AIエージェントがプライベートなネットワーク上にある情報を取りに行けるようになっています。

「ロリポップ!AIエージェントクラウド byGMOペパボ」と「ロリポップ!デプロイナウ byGMOペパボ」では、クラウド上で動いたAIエージェントがソースコードを書いて、そのままデプロイナウで公開可能です。

AIが安全に社内やプライベートな場所の情報を取りに行くためのネットワークとしてゼロトラストリンクを提供し、AIエージェントが作ったものを公開する先としてデプロイナウを提供するという形ですね。AIエージェントが情報を取りに行くことも、公開することもできる状態になりました。

この複数のプロダクトを持っていて、それらを連携させられることが僕らの強みですし、今後さらにこの強みは重要性を増していくはずです。

加えて、海外サービスはドル建て決済になるため為替リスクがあります。日本円で決済でき、そのリスクを受け止められることも日本で提供している強みですね。

———AIエージェント時代に、国内でインフラを提供する意義をどう捉えていますか。

深野

AIエージェントがいろんな場所にアクセスするようになったからこそ、「このデータはどこへ行くのだろうか」ということが、より大事になってくると思っています。

ペパボは「ロリポップ!レンタルサーバー」から始まった会社で、これまでもさまざまなデータを扱ってきました。クリエイターやアウトプットする人たちのデータを日本で預かることは、やはり大事にしていくべきだと考えてやっています。

誰でも作れるようになったからこそ、どこにホストするか、どこにデータを預けるかが今後重要になってくる。日本でAIと作ったものを日本のインフラに載せるならどこだろう、というときに、デプロイナウをはじめとする弊社のサービスが選ばれていけばいいなと思っています。

いろんな人が作れるようになったなかで、「ロリポップ!デプロイナウ byGMOペパボ」を通じて「公開」というハードルを下げ、誰でもWebサイトを作って公開できるようなものにしたいですね。そこが一番の目標です。

まとめ(前編)

非エンジニアが作ったトレカ交換のジェネレーター。アイドルのイベント情報をまとめたサイト。「ロリポップ!デプロイナウ byGMOペパボ」で公開され、多くの人に求められたWebアプリは、これまで公開まで至らなかったはずのアイデアだといえるのではないでしょうか。

作ることが身近になった時代に、公開までの一歩をどう軽くするか。AIが使えることを前提に据えるという発想は、CLIでの機能提供からフレームワークの選定、ドキュメントの書き方に至るまで一貫していました。

後編では、ユーザーから預かったコードを安全にビルドする仕組みやFreeプランを成立させるコスト設計、そしてAIとともに走った3ヶ月の開発体制などについて、引き続き深野さんに伺います。

▶︎後編は GMOペパボ Tech Portal で公開中!

後編はこちらから

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