近畿圏の若手14名、半年の開発の起点に。「京都未踏」ブースト会議レポート

2026年8月20日、近畿圏の若手テック人材発掘育成プログラム「京都未踏的人材発掘・育成プログラム」の「ブースト会議」が、GMOインターネットグループ大阪オフィスで開催されました。高校生から博士後期課程まで14名の採択者が披露した10のプロジェクトの技術的な内容を、AI、通信、光学、データという4つの技術領域に分けて紹介します。

2026年8月20日、京都府を中心とした近畿圏の若手テック「京都未踏的人材発掘・育成プログラム(略称、京都未踏)」の「ブースト会議」が、GMOインターネットグループ大阪オフィスで開催されました。

「京都未踏」は、京都大学の首藤一幸氏が立ち上げたプログラムです。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「未踏事業」に倣った審査と伴走のやり方を採り、経済産業省「地方の若手人材発掘育成支援事業補助金(AKATSUKIプロジェクト)」の採択事業として運営されています。2026年度は45件の応募から10件が採択され、開発支援期間の最初の全体会合が、今回のブースト会議でした。

本記事では、当日披露された10のプロジェクトの技術的な内容を紹介します。

統括プロジェクトマネージャの首藤氏
左から、プロジェクトマネージャの石丸氏、谷口氏、平井氏、松岡氏、三林氏

高校生からD2まで、14名が披露した10のプロジェクト

会場には、京都大学や大阪大学、奈良先端科学技術大学院大学をはじめ、近畿圏の大学・高等専門学校・高校に在籍する採択者14名が集まりました。学年も、高校2年生から博士後期課程まで幅広く、1件はオンラインによる発表、1件は動画による発表でした。持ち時間は1件あたり25分で、発表15分の後に質疑応答の時間が設けられました。プロジェクトマネージャ陣は分散システムやフィジカルAIの研究者で構成されており、各発表には専門的な視点からの質問も多く寄せられました。

以下、当日発表された10のプロジェクトを、技術領域ごとに紹介します。

採択プロジェクト一覧
https://kyoto-i-lab.org/selected-projects-for-2026/

会場となった、大阪の GMO yours
発表者への質疑も活発に行われた

AIとソフトウェアの適応

ソフトウェア品質特性を目的関数とするAIモデル適応型ハーネス基盤の開発

山本理雄眞氏(和歌山工業高等専門学校)は、ソフトウェア品質特性を目的関数とする「AIモデル適応型ハーネス基盤」を開発しています。AIエージェントの性能はモデル本体だけでなく、それを取り巻く「ハーネス」の出来にも左右されるという考えに基づき、8種類のモデルで検証を実施。信頼性や保守性の評価は構成によって差が大きいことがわかりました。今後はハーネス自身に品質を監査させる仕組みへ進める計画です。

生活を経験・記憶して育つ携帯型AIペット

仮山史織氏(大阪大学)と西尾春輝氏(大阪大学、株式会社暮らすAI CTO)は、生活を経験し記憶して育つ携帯型の「AIペット」を開発しています。既存の生活習慣支援アプリは記録や通知が負担になりやすいという課題に着目し、ペットとの関係性を介して自然に生活を気にかけられる仕組みを提案しています。カメラで捉えた景色をAIが理解し、ユーザーの興味を推測して反応する設計で、愛着が生まれるかどうかを実機検証で確かめる計画です。

通信とプロトコルの再設計

インプロセスでのゼロコピー通信を実現する言語非依存 Web ゲートウェイプロトコル「NSGI」の開発

設楽朗人氏(京都大学)は、言語非依存のWebゲートウェイプロトコル「NSGI」を開発しています。WSGIやRackなど既存の規約は、ホストからアプリケーションへデータを渡す際に文字列型へのコピーを挟みますが、NSGIはポインタと長さの受け渡しに置き換え、コピーのコストを削減します。1990年代のISAPIに近い発想を、RustやRubyのIO::Bufferなど現代の言語機構で実装し直した点が特徴です。

QUMO: スケーラブルな双方向通信を実現するコンテンツ配信ネットワーク

奥谷大地氏と鈴木盛之氏(京都大学)は、スケーラブルな双方向通信を実現するコンテンツ配信ネットワーク「QUMO」を開発しています。リアルタイム通信をWebRTCレベルの低遅延に、HLS/DASHレベルの大規模にMedia over QUIC (MoQ)という技術で実現させる設計です。 独自開発したGo言語ライブラリ「gomoqt」は、単一プロセスで15,000同時接続の処理を確認済みで独自開発したGo言語ライブラリ「 gomoqt」で実装した配信サーバーは、単一プロセスで15,000同時接続の処理を確認済みで 、音声ライブ配信アプリ「FOALK」での実用化を進めています。

光学とセンシングのハードウェア

飛翔するシャボン玉を用いた死角可視化装置「シャボン・アイ」の開発

古賀荘翠氏(奈良先端科学技術大学院大学)は、飛翔するシャボン玉を用いた死角可視化装置「シャボン・アイ」を開発しています。シャボン玉の球面に映り込む反射像を「飛翔型の一時的ミラー」として利用し、遮蔽物の向こうにある対象の存在や色、概形を可視化する試みです。予備実験では対象のおおまかな色や形を確認できた一方、干渉光による色づきや像のぼけが課題として残り、現在はシャボン玉特有の干渉色をモデル化し、観測結果から分離する取り組みを進めています。

スマホ×万華鏡×複屈折で実現する「時・空・波」高分解能ハイパースペクトルカメラ

藤原和真氏(奈良先端科学技術大学院大学)は、スマートフォンと万華鏡、複屈折フィルタを組み合わせた高分解能の「ハイパースペクトルカメラ」を開発しています。既存のハイパースペクトルカメラは、時間・空間・波長の3軸のいずれかを犠牲にする設計でした。藤原氏は、スマートフォンの複数カメラで同時に3視点から撮影することで、この制約を避ける仕組みを提案しています。核となる複屈折と万華鏡を組み合わせた手法は、すでにECCV2026に採択されており、来月スウェーデンでの発表を控えています。

肉眼で見ながら撮れるスマホ用視覚連動グリップの開発

中村凌氏(大阪大学、動画による発表)は、肉眼で見ながら撮影できるスマートフォン用の「視覚連動グリップ」を開発しています。頭部の動きをIMUで捉え、片目の近赤外撮影による視線推定、深度センサによる目とカメラの位置ずれ補正を重ね、見た方向へスマートフォンを物理的に向ける仕組みです。既存のジンバルや追従型カメラでは「見たい対象」までは追えない点に着目した設計です。

データとインターフェースの設計

判例を一般の人にも読み解く支援を総合的に行う、判例プラットフォーム開発

徳永優人氏(近畿大学)と古川柾斗氏(京都産業大学)は、判例を一般の人にも読み解けるよう支援する判例ビューワー「再考裁」を開発しています。開発のきっかけは、最高裁判所裁判官の国民審査に関する情報の少なさでした。生成AIを活用して判例を要約・構造化するサービスを1週間半で公開したものの、公開後に検索機能の不足や読みづらさといった課題が見つかりました。法学を専攻する古川氏と連携し、検索機能の追加やデザインの見直しを進めています。

視線履歴から人と空間の関係を育てる空間インターフェースの開発

片岡昴晴氏(灘高等学校)は、視線履歴から人と空間の関係を育てる「空間インターフェース」を開発しています。写真やメモ、付箋では、見比べた関係や言葉になる前の再訪といった情報が残らない点に着目しました。Apple Vision Proで視線と頭部姿勢を取得し、物体への停留・再訪・遷移を蓄積、本人による意味づけを介して検索や整理などの空間UIに反映する仕組みです。

個性的な日本語フォントを実用可能な規模まで補完するフォント制作支援ソフトウェア

高柳慶太郎氏と西見優輝氏(いずれも京都大学)は、少数の文字だけのフォントを実用規模まで補う「フォント制作支援ソフトウェア」を開発しています。不足する文字を他書体で代用する従来の「混植」ではなく、拡散モデルで元の書体から生成する「補完」を提案。太さなどのスタイルをスライダーで調整できる点も特徴です。オープンライセンスでの公開を目指しています。

意見交換会・懇親会

発表会の終了後には意見交換会が開かれ、参加したクリエイターとPMや運営関係者、協賛企業関係者などを交えた交流の場となりました。それぞれが発表したテーマや構想についてなど深く知見を高めあう姿が印象的でした。

意見交換会・懇親会の様子の写真

さいごに

京都未踏のプロジェクト期間は、ここから約半年間続きます。2026年11月には中間発表会、2027年1月には成果報告会が予定されており、今回披露された10のプロジェクトが、どのような形に育っていくのか、楽しみです。

ブログの著者欄

加藤 由香子

GMOインターネットグループ株式会社

グループ広報部 技術広報チーム マネージャー
エンジニア・デザイナーの魅力を届ける仕事をしています。

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