GMOインターネットグループが2026年9月15日に開催した「第4回 GMO大会議🍁秋 フィジカルAI 2026」。産官学のトップランナーが集結し、現実世界を認識・判断するフィジカルAIをテーマに、講演やパネルディスカッションを展開。本記事では、GMO代表・熊谷 正寿のオープニングメッセージから、政府要人のビデオメッセージ、日本のフィジカルAI政策をめぐる講演まで、イベント前半の模様をお伝えします。
目次
熊谷 正寿 GMOインターネットグループ 代表取締役グループ代表 会長兼社長執行役員・CEO 兼グループAI変革最高責任者・CAIO「ものづくり日本の再興へ」
「第4回GMO大会議🍁秋 フィジカルAI 2026」は、GMOインターネットグループが描く未来を表現した映像とともに幕を開けました。AIやロボットが社会のさまざまな場面で活躍するビジョンがスクリーンに映し出されるなか、ステージに登場したのは、GMO AI&ロボティクス商事のヒューマノイドロボット「ひとみん」です。
音楽に合わせて全身を軽やかに動かし、息の合ったダンスパフォーマンスを披露する「ひとみん」たち。AIが画面の中から飛び出し、現実世界で動き始めたことを目の前で実感できる、なんとも未来を感じるオープニングとなりました。

「ひとみん」たちが礼儀正しくお辞儀をしながら退場したあと、大きな拍手に迎えられて登壇したのは、GMOインターネットグループ代表・熊谷 正寿です。

熊谷はGMO大会議を開催する理由として、「日本をより良い国にしたい」という思いを語りました。
「私は日本で生まれ、日本で育ち、日本人として、この国を愛しています。世界中の国々から頼りにされる美しい国として、日本に復興してもらいたいと、心の底から願っています」
熊谷の言葉の背景にあるのが、AI革命に対する強い危機感です。
1995年からインターネット産業に携わってきた熊谷は、現在のAIの進化を「過去に経験したことのない変化」と捉えています。とりわけ、2022年11月30日のChatGPT公開以降、成長曲線の角度は急激に変わり、2026年に入ってからは「角度ではなく垂直」と表現するほど進化が加速しています。
AIが自らAIを開発し、24時間休むことなく処理を続け、複製された多数のAIが並列に稼働する。さらに、AIはクラウドからエッジへ広がり、やがて電気が通るあらゆる場所に組み込まれ、生活の基盤になっていく……熊谷はそう予測します。
一方で、日本の現状には大きな課題があります。かつて日本はロボティクス分野で世界シェアの約9割を占め、世界のものづくりをリードしていました。しかし現在は、AI活用や研究開発投資、産官学連携で米国や中国に後れを取り、世界との差は日々広がっています。
「世界中が躍進し、日本だけが置いていかれている。これが私の問題意識と危機感です」と熊谷は率直に語ります。だからこそ、産業界、政府、大学が同じ場所に集まり、最新の知識を共有して連携を生み出す場が必要とされています。
世界では、すでにヒューマノイドをめぐる競争が本格化しています。中国では政府の強力な支援を背景に市場が急成長し、2026年8月に北京で開催された第2回世界ヒューマノイドロボット運動会には、16カ国から157社、666チーム、2,056台のロボットが集結しました。GMOインターネットグループも、陸上種目に日本企業として唯一出場しています。

米国では、テスラがヒューマノイドロボット「Optimus」や完全自動運転車「Cybercab」の開発を進めています。対する日本は、ヒューマノイドの内部に使われる優れた部品を数多く供給していながら、世界をリードする完成機を生み出せていません。「世界に誇る部品技術が残っている今こそ、日本の力を結集すべきだ」と熊谷は訴えかけます。
「今なら、まだ間に合います。みんなで力を合わせて世界に学び、今こそヒューマノイド産業を立ち上げるべきです」
人口減少が進む日本では、2030年に約300万人、2040年には約1,000万人の労働力が不足すると予測されています。そこで熊谷が示したのが、労働人口にヒューマノイドを加えて生産力を高めるという考え方です。人手不足を補うだけでなく、日本の技術を結集した国産の「ソブリンヒューマノイド」を世界へ供給できれば、フィジカルAIは日本の産業を再び成長させる切り札になります。
GMOインターネットグループでは、国内最大級のヒューマノイド研究開発拠点「GMOヒューマノイド・ラボ 渋谷ショールーム」や販売サイト「GMOヒューマノイド.shop」を展開。安全な運用を支える「GMO SAFE」、現場データによって性能を高める「GMO LOOP」、故障時に駆けつける「GMOヒューマノイド救急車」など、導入後の運用まで見据えた基盤づくりにも乗り出しています。

「全員が笑顔で誇れる日本へ。これが私たちの願いです」
かつて世界を驚かせた、ものづくり日本をもう一度。日本の技術力への誇りと、未来を自らの手で切り拓く決意に満ちたオープニングメッセージとなりました。
高市 早苗 内閣総理大臣ビデオメッセージ
大会議の開催に当たり、今回も各界の要人から多数のメッセージが寄せられました。最初に登場したのは、高市 早苗 内閣総理大臣 です。

高市総理はフィジカルAIについて、「製造・物流・インフラなど日本が強みを持つ産業現場に蓄積されたデータが競争力の源泉となる『我が国の勝ち筋』」と強調します。なかでもAIロボットは、製造、物流、建設、介護、警備など、肉体的負荷や危険が大きく、人手不足が深刻な分野で、サービスの維持や生産性の向上に貢献すると期待を示しました。
高市内閣では、フィジカルAIを含む「AI・半導体」を日本成長戦略の戦略17分野に位置づけ、官民投資ロードマップに基づく国内投資を加速させています。フィジカルAI分野では、2040年度までに半導体を含め80兆円の官民投資を想定。国産モデルによる開発基盤の構築やAIロボットの研究開発・導入支援、公共調達を通じた先行需要の創出を進め、2040年までに国産製品を含むAIロボット1,000万台を国内へ導入し、世界シェア30%超に当たる20兆円の市場獲得を目指すという、具体的な目標が語られました。
最後に高市総理は、日本の「ものづくりの文化」「精密さへの情熱」「品質への誇り」を土台に、日本の英知を結集し、世界の知性ともつながりながら、信頼されるフィジカルAIを日本から生み出すことが重要だと力説。本イベントを契機に参加者がさらに連携を深め、日本のフィジカルAIの未来を築いていくことへの力強い期待が寄せられました。
片山 さつき 財務大臣 金融担当大臣 参議院議員 ビデオメッセージ
続いて、片山 さつき 財務大臣 金融担当大臣 参議院議員 からもビデオメッセージが寄せられました。

片山大臣はフィジカルAIについて、「単に人を機械へ置き換えるものではなく、人の能力を高め、困難な作業を支えることで、日本の供給構造の強化と成長力向上に貢献する革新的な技術」だと期待を寄せます。
先般、サンフランシスコでフィジカルAIの最前線を視察した片山大臣。AIとロボティクスの融合が、製造、物流、モビリティをはじめとする幅広い分野を大きく変える可能性を、現地で改めて実感したと話します。競争力を左右するのはAI技術だけではなく、ロボットや機械が稼働する現場から得られる質の高いデータです。ものづくりの現場に蓄積されたデータや技術・ノウハウを活かし、日本ならではのフィジカルAI開発と社会実装を加速させる必要性を強調しました。
一方で、AIの高度化に伴う新たなリスクにも言及しました。フィジカルAIの時代には、サイバー攻撃の対象がデータやシステムだけでなく、工場のロボットや物流システムなど現実世界にも広がります。片山大臣は、防御側もAIを活用する必要があるとして、これからのサイバーセキュリティを「AI対AIの攻防」と表現。多層防御などの基本的な対策に加え、安全装置となるガードレールをめぐる国際的な議論を深め、安全性・信頼性・透明性を備えたフィジカルAIを実現することへの期待を語りました。
東條 英俊 Anthropic Japan 合同会社 代表執行役社長「Anthropicが見据えるAIの現在と未来」
政府要人からのメッセージに続いて登壇したのは、Anthropic Japan 合同会社 代表執行役社長の東條 英俊氏です。AIサービス「Claude」で知られるAnthropicがどのような使命を掲げ、急速に進化するAIと向き合っているのか。さらに、フィジカルAIの実現に向けた最新の取り組みについて紹介しました。

Anthropicは、2021年にサンフランシスコで創業し、現在は3,000名を超える社員を擁するフロンティアAI企業です。
同社が掲げるミッションは「世界が、変革をもたらすAI時代を安全に乗り越えられるようにすること」。東條氏は、AIが社会課題の解決に貢献する一方、悪用されれば人類を望ましくない方向へ導く可能性もあると指摘します。そのうえでAnthropicが目指すのは、「人間中心のAI社会、安全で信頼できるAIインフラ、透明性と説明可能性、社会課題の解決と生産性向上」であると説明しました。
なかでも昨今は、「AIモデルの内部で何が起きているのかを解明する解釈可能性の研究に力を入れている」と東條氏。Anthropicではこの研究に注力しているものの、現在、解明できているのは全体の5~10%程度だといいます。ブラックボックスの中身を少しずつ明らかにし、出力を予測できるAIシステムを構築することで、創業時の原点である「安心して安全に使えるAI」につなげることが狙いです。
安心・安全なAI活用の普及に向けて、日本政府との連携も進めています。2025年10月には、AnthropicのCEO兼共同創業者であるDario Amodei氏が高市総理と面談。同月にはAIセーフティ・インスティテュートとの覚書も締結し、安全で信頼できるAIに関する知見を日本の政策へ活かす取り組みを開始しました。
AIの性能は、いまや年単位ではなく、月単位、週単位で進化しています。東條氏は「まさにAIがAIを開発する、そういうサイクルに入っている」と説明。2026年9月2日に発表した「Claude Fable 5.1」と「Mythos 5.1」では、数時間にわたり自律的に動くエージェントや、科学研究の成功率向上、長年原因を特定できなかったバグの発見などが可能になりました。米国のRamp社では38時間にわたって人の手を介さずに作業を続け、Millennium社では4~5年間解明できなかった不具合を突き止めたといいます。
一方、AIが強力になるほど、安全対策の重要性も高まります。そこでAnthropicが提供する仕組みが「Enterprise Frontier Safeguards」です。利用企業のデータをAnthropic側ではなく、企業自身のクラウド基盤に保存しながら、AIの悪用を検知します。人による確認が必要な場合も、原則として利用企業自身がレビューできる設計です。これにより、企業は機密データを自社の管理下に置いたまま、高性能なAIを自社のガバナンスに沿って活用できます。AIの進化を止めるのではなく、その力を安全に業務へ取り込める環境を整える狙いです。
ここで東條氏は、今回のテーマであるフィジカルAIと深く関わる取り組みとして、「Model Hardware Standard(MHS)」も紹介しました。MHSは、AIエージェントが実験機器やロボット、製造装置などを安全に動かすための共通仕様です。プログラムで操作できる装置であれば、特定のAIモデルに依存せず、MCPなどの標準プロトコルを通じて接続できます。現在はリサーチプレビューの段階ですが、すでにワシントン大学の研究室では、6台の装置を1週間以内で接続した実績も生まれているといいます。

さらに、科学者向けのAIワークベンチ「Claude Science」では、文献レビューやデータ解析、図表作成といった研究のデジタルな工程をエージェントが支援します。知能がチャット画面を飛び出し、研究室や工場など現実の現場へ進出し始めていることが、さまざまな事例から示されました。
講演の最後には、GMOインターネットグループとAnthropicの戦略的パートナーシップについても紹介されました。世界最先端のAI開発を進めるAnthropicと、日本のインターネットインフラやサイバーセキュリティを支えてきたGMOインターネットグループが本格的にタッグを組みます。両社は、サイバー攻撃対策サービスへのClaudeの適用、AI・ロボティクス事業での活用、グループ全体へのClaude Enterprise導入、AI活用イベントの共同開催という4つの取り組みを進めています。
東條氏は「この日本のために、私たち2社が協力して、いろんな新しい取り組みを進めていく」と力を込めて語ります。世界トップクラスのAIを日本の現場へ導入するだけでなく、そこで培った技術や知見をもとに、次のAI活用を日本から生み出していく取り組みが始まっています。
内田 朋宏 GMO AI&ロボティクス商事株式会社 代表取締役社長「ヒューマノイドをすべての人へ。GMO AIRが挑む社会実装」
Anthropicによる講演に続き、GMO AI&ロボティクス商事株式会社(通称:GMO AIR)の取り組みが紹介されました。登壇したのは、同社の代表取締役社長を務める内田 朋宏です。

GMO AIRは「AIとロボットをすべての人へ。」を掲げ、2024年6月18日に設立されました。ロボットを販売するだけではなく、開発や導入、運用、保守までを支え、ヒューマノイドが実際に働ける市場そのものをつくろうとしています。
冒頭の映像では、最先端のヒューマノイドを販売する「GMOヒューマノイド.shop」や、研究開発拠点「GMOヒューマノイド・ラボ 渋谷ショールーム」、羽田空港での実証実験など、設立からわずか2年余りで、多様なプロジェクトを展開してきたことが紹介されました。

なかでも注目を集めたのが、2026年8月に北京で開催された世界ヒューマノイド運動会への挑戦です。GMO AIRは、一般に購入できる汎用機体を独自に改良し、陸上種目に日本企業として唯一出場。ニューイヤー駅伝を制したGMOインターネットグループ陸上部の選手データを学習に活用し、100m、400m、1,500mのすべてを自律走行で完走しました。最高順位は7位で、専用機体を除く汎用機体の中では世界最速となりました。
一方、その舞台裏では、「ヒューマノイドを現場で動かす難しさにも直面した」と内田は話します。400mの予選後に機体が転倒し、予備パーツで修理したものの、頭部に生じた目視では分からないほどのズレによってカメラの視界が変化。準決勝ではレーンを正しく検出できず、再び転倒してしまったのです。
さらに、「事前に30の競技場から集めた計5,000枚の画像を学習させていたにもかかわらず、現地では照明の違いによってレーンの誤検出が発生した」と内田は明かします。しかしスタッフは諦めることなく、現地データを集めて急きょ調整を重ね、1,500mの完走を実現。その健闘ぶりについて、「現場でデータを集め、改善を続ける必要性を痛感した」と内田は振り返りました。記録の背景には、転倒や修理、現地データを用いた再学習と再調整の積み重ねがありました。
こうした北京での経験から、GMO AIRはヒューマノイド運用の課題を「セキュリティ」「データ学習」「ハードの保守」の3つに整理。それぞれに対応する新たなサービスを展開しています。
このうちセキュリティ面を支えるのが「GMO SAFE」です。ヒューマノイドの活用には、情報漏洩や不正操作といったリスクが伴います。そこでGMO AIRが掲げるのが「リスクがあるから使わないのではなく、リスクを把握して安全に使う」という考え方です。この方針を具体化したGMO SAFEでは、GMOサイバーセキュリティ byイエラエによるリスク診断、GMO AIRによる安全な運用環境の設計、SOCによる継続的な監視を組み合わせ、「調べる・整える・見守る」の3段階でヒューマノイドの安全な運用を支えます。

データ学習を担う「GMO LOOP」は、学習データの不足と、シミュレーションと実環境の間に生じる「Sim2Realギャップ」を乗り越えるための取り組みです。カメラ映像や稼働ログなどを収集し、モデルを改善して実機へ展開。さらに、そこで生じた失敗を再び学習へ還元し、使うほど性能を高めていく仕組みです。内田は、北京で現場データの重要性を痛感した経験も踏まえ、「特に大切にしたいのは失敗データ」と強調。どこで、なぜうまくいかなかったのかを記録し、次の改善につなげていく考えを示しました。

そして、3つ目の課題がハードの保守です。内田はまず、「ヒューマノイドはよく故障します。我々のヒューマノイドも例外ではありません」と率直に話します。しかし、ロボットが故障すれば、修理が終わるまで開発や運用も止まってしまいます。この課題を解決するのが、国内初となる「GMOヒューマノイド救急車」です。工具や部品、診断機を積んだ専用車両にヒューマノイドエンジニアが乗り込み、故障した現場へ急行。その場で修理できない場合は代替機を提供し、故障した機体をラボへ搬送します。人間の救急医療さながらの仕組みで、ロボットが故障しても現場の運用を止めない、ヒューマノイド時代の新たなインフラです。

トークの最後には、Unitree Roboticsの国内正規代理店であるTechShare株式会社との資本業務提携も発表されました。会場にはTechShare株式会社 代表取締役の重光 貴明氏も登壇。「私どもの事業経験をこのシナジーに活かし、日本のフィジカルAIを盛り上げていけるよう頑張っていきたい」と意気込みを語りました。
パネルディスカッション「『うちはAIにいくら使っている?』から始めるトークンマネジメント」
続いては、パネルディスカッション「『うちはAIにいくら使っている?』から始めるトークンマネジメント」が行われました。登壇したのは、OpenAI Forward Deployed Engineer(FDE)の齊藤 初雲氏、株式会社デジライズ 代表取締役CEOの茶圓 将裕氏。モデレーターはGMO天秤AI株式会社 代表取締役社長の山城 博規が務めました。

最初のテーマは、日本企業における生成AI活用の現在地です。
国内では、業務で生成AIを活用している企業が34.5%に達する一方、18.8%が従業員間の使いこなし格差を課題として挙げています。さらに、会社が承認していないAIを従業員が利用する「シャドーAI」を管理できていない企業は73%に上ります。
齊藤氏は、生成AIを導入している企業のうち、業務や経営に明確な効果を生み出せている割合は、34.5%よりもさらに低いのではないかと指摘します。企業の現場に入り、経営層や現場とともにAIソリューションを開発し、導入から業務での活用まで伴走するFDEとしての経験から、「AIを使い始めた企業は増えているものの、実際の成果につなげる段階にはまだ課題が残っている印象だ」と語りました。
茶圓氏も、約600社のAI導入を支援してきた経験を踏まえ、「アカウントを導入してもほとんど使われていない企業は少なくない」と説明します。しかしその一方で、「会社が有料版を提供しなければ、従業員が無料のAIを独自に使い始める可能性がある」とも話します。導入しても使われない問題と、管理されていないAIが使われる問題が同時に起きているとして、「シャドーAI」の危険性に警鐘を鳴らしました。

続いて山城が投げかけたのは、セッションのタイトルにもなった「先月、AIにいくら払いましたか」という質問です。
山城が2026年8月に利用したAIは、APIの従量課金に換算して合計40万225円。AIの自動改善ループ構築やダッシュボード開発などに使用し、最も多い日には2億4,100万トークン、5万5,491円相当を利用していました。
これに対して齊藤氏は、1カ月で約100億トークンを利用したと紹介。ソフトウェアの開発や保守運用、改善ループの構築に加え、自身の仕事を支援する秘書型のAIエージェントにも活用していると話しました。
さらに茶圓氏は、複数のAIサービスで約8アカウントを最大限利用し、トークン換算では毎月約1,000万円相当を使っていると紹介しました。山城から最も優れているサービスを尋ねられると、「すべていい。どれもいい。AIは最高です」と回答し、会場の笑いを誘いました。サービスごとの得意分野を見極め、使い分けることが重要だといいます。

議論は、「AIを導入しても一部の従業員しか使わない」という課題へ移りました。
齊藤氏は、「まず、使われない理由を明らかにする必要がある」と説明。社内データやSlackなどの業務ツールを活用できていないケースに加え、AIの精度が実務で求められる水準に達していない場合もあると話しました。FDEは、こうした課題に対して企業の現場へ入り、OpenAIのプロダクトや研究開発のチームとも連携しながら、AIを実用レベルへ引き上げていく役割も担っているといいます。
対する茶圓氏は、AIの全社活用には経営層によるトップダウンの推進が有効だと指摘しました。ただし、定額制のWeb型AIと、長時間自律的に動き、使用量に応じて料金が発生するデスクトップ型のAIエージェントでは、企業が抱える課題が異なります。前者では導入したAIを従業員が使わないこと、後者では使いすぎによって費用が膨らむことが問題になると整理します。
では、AIを使いすぎた場合、誰が止めるべきなのでしょうか。
茶圓氏が重視するのは、AIへの投資によってどれだけの成果を得られたかを示す「Return on AI(ROAI)」です。「自分が使うAIの費用に対して、どれだけの価値を生み出しているかを意識することが大切」と語り、成果を生み出せるのであれば、利用を一律に制限する必要はないとの考えを示しました。
齊藤氏もこの考えに賛同し、「使いすぎを問題にするより、どこに適量を使うかを考えるべき」と説明。営業部門へ資料作成AIエージェントを導入し、顧客向け提案資料の作成時間を24時間から約10分まで短縮した事例を紹介しました。単なる作業時間の短縮にとどまらず、顧客への訪問回数が増え、営業成績の向上にもつながったといいます。

最後のテーマは、「企業はAIにどこまで費用をかけるべきか」です。
齊藤氏は、同じ成果を生み出すために必要なトークンのコストは急速に低下していると説明。現在は高額に見える取り組みでも、今後のモデルの効率性や費用対効果の向上を見据えて投資を判断する必要があると語りました。
茶圓氏も、AIを前提とした組織や業務フローを構築するには時間がかかるため、コストが十分に下がるまで待つのではなく、今から使い始めるべきだと主張します。ただし、AIによる変革の余地は業種によって異なります。Web上で完結する事業では大幅な自動化が可能な一方、現場作業を伴う業種には限界もあります。まずは営業後の議事録作成や社内共有、メール、提案書の下書きなど、効果を得やすい業務から始めることを勧めました。
セッションの締めくくりとして山城は「昨日、AIにいくら使ったかを測ることから始めてほしい」と会場に呼びかけました。使用量と得られた成果を可視化することが、AI時代の投資対効果を考える第一歩となります。AIを安く使うことではなく、投じた費用を上回る価値をどう生み出すか。トークンを経費ではなく投資として捉え直す、AI活用の投資対効果を考えるディスカッションとなりました。
松本 尚 衆議院議員・デジタル大臣「日本のフィジカルAI政策と社会実装」
続いて登壇したのは、衆議院議員・デジタル大臣の松本尚氏です。日本の成長戦略とフィジカルAIの可能性について、医師としての経験も踏まえ、熱のこもった講演を行いました。

高市内閣が掲げる日本成長戦略は、17分野・62事業で構成されています。松本氏は、「そのすべてを横断する基盤こそがAIとサイバーセキュリティ」だと指摘します。ただし同時に、AIを誰が、どこで、どのようなデータを使って開発したのかという「ソブリンティ」、すなわちAIやデータに関する主権を守ることも重要だと訴えます。国民が安心してAIを利用し、政府がその開発を支援するうえでも、国産技術と国内データの確保が信頼のよりどころになるという考えです。
具体的な政策テーマとして最初に挙げたのが、自動運転でした。松本氏は2026年8月末にロサンゼルスを訪れ、Wayve、Waymo、Teslaの自動運転車に乗車。その技術力に驚く一方、日本が世界をリードできていない現状に危機感を覚えたといいます。
帰国後は国内の大手自動車メーカーに対し、「完全自動運転レベル4」「自家用車」「海外展開」という3つの共通目標を掲げるよう要請しました。「国内市場だけを狙って自動運転車を作っていても、国益にはならない」と語り、デジタル庁だけでなく、経済産業省や国土交通省も一体となって、日本の自動運転技術を世界へ展開する必要性を強調しました。
もうひとつ、松本氏が日本の勝ち筋として挙げたのが「AI×医療」です。自身も医師である松本氏は、日本の高度な医療技術や知識をAIに学習させることで、世界で戦える大きな産業を生み出せると展望しました。
現在の手術支援ロボットは、執刀する医師に血管や神経の位置を示すなど、治療を補助する段階にあります。しかし、松本氏はその段階にとどまらず、「手術までもをAIに任せられるようになれば、さらなる未来が開ける可能性がある」と一歩踏み込んだ構想を披露。「たとえば熟練した日本人外科医の技術をAIに学習させ、定型的な手術をロボットが担う未来すらも実現できるはずだ」と展望を語りました。
ここで再び重要になるのが、AIの「ソブリンティ」です。海外製のAIに日本の医療データや外科医の技術を学習させれば、重要なデータが国外へ流出するおそれがあります。一方、日本人のデータを使って国内で開発したAIロボットであれば、患者からの信頼も得やすくなります。松本氏は、国産手術支援ロボット「hinotori」などを活用し、日本の医療技術を国内のAIへ蓄積する必要性を訴えました。

日本のフィジカルAI、その可能性を社会実装へ
前編では、日本のフィジカルAI産業を再び世界へ押し上げるという熊谷のメッセージを皮切りに、政府が描く成長戦略、Anthropicの最先端AI、GMO AIRによるヒューマノイドの社会実装、企業のAI投資、医療や自動運転への応用まで、幅広い議論を紹介しました。
レポート後編では、四足歩行型ロボットによる警備実証実験と「GMOフィジカルAI Awards 2026」の模様に加え、フィジカルAIを育てる学習データ、AI時代のサイバーセキュリティ、産学連携による社会イノベーションについての議論をお伝えします。


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