我々の生活を変えつつあるAI。多くの業種・職種で活用が進んでいるものの、活用度合いは企業間で大きな差があるのが現状です。
そして多くの企業がAI導入の前で立ち止まる理由は、「入力したデータがどう扱われるのだろうか」「情報漏洩の危険性はないだろうか」といった、漠然とした不安感にあります。その不安に正面から応えるのが、GMO天秤AI株式会社(以下、「GMO天秤AI」)が提供する「主要AI約款比較」です。
「主要AI約款比較」ではAIをフル活用し、非エンジニアであるGMO天秤AI・プロダクト開発部マネージャーの平田祐介さんが短期間で開発を推進。作業はAIに任せ、AIが出した設計やレポート・評価への最終的な判断を人が担うという役割分担が、本サービスの大きな特長です。
本記事では、同サービスの設計思想や開発背景、今後の展望などを平田さんに伺いました。
目次
AI時代を生きる「すべての方」に向けたプロダクト

——まずは、平田さんのご経歴と現在のお仕事をお聞かせください。

平田
もともとは教育・営業領域で仕事をしていたのですが、2022年5月にGMOインターネットグループへジョインしました。当初は広告系プロダクトのプロダクトマネージャーとして、複数のプロダクトを担当していましたね。その後は2025年9月に、グループ内FA制度を活用してGMO天秤AI株式会社へ移りました。
もともと自分のなかの軸として「より多くの方にサービスのバリューや良い影響を届けたい」という思いがあったのですが、ちょうどAIがこれから一気に広がっていくというタイミングで、良い運やご縁が重なりましたね。AIの時代になりつつある中で自分が影響を出し、広く世の中に良い価値を届けたいと考えて手を挙げました。
現在は主要なAIの回答を1画面で比較できる天秤AIおよび天秤AI Bizをはじめ、全体のプロダクトマネージャーを務めています。少数精鋭の組織なので、機能の企画・要件定義からデザインのディレクション、テスト・品質検証、プレスリリース等の内容確認まで、プロダクトに関わることは幅広く担当させていただいています。
——「主要AI約款比較」とは、どのようなサービスでしょうか。対象となる方も併せてお教えください。

平田
「主要AI約款比較」は、ChatGPTやClaude、Geminiといった主要AIサービスの利用規約やプライバシーポリシーなどの約款を横断的に読み解き、「入力したデータがどう扱われるのか」「ユーザー側は契約上どこまで守ってもらえるのか」などを一覧で確認できるようにしたサービスです。
AIを使うときに「これってどうなんだろう」と引っかかる部分を、横軸で比較できるようにしています。
これから積極的にAIを使ってみたいという方はもちろんですが、すでにAIを使っている方でも、約款を正しく理解して利用している方はほぼいらっしゃらないというのが正直な所感です。だからこそ、サービスの対象となるのは「すべての方」だと考えています。
背景にあるのは、約款で定められた項目・条文の多さと言語の壁です。AIは契約プランごとにデータの扱いなどが変わることも珍しくありませんが、目を通すべき条文が多いと「どれが自分に合ったプランなのか」が判断しづらくなります。そして英語ベースで提供されている約款を正確に読むには、一定の英語力も必要です。
だからこそ、「主要AI約款比較」では各項目を記号で明示するだけではなく、判断の根拠条文まで提示しています。比較表でまず候補を絞れれば、その先で法務担当の方が深掘りするコストや工数も大きく下げられるんです。
保守的な判断スタンス+3つのポイントで信頼性を担保
——このサービスを作ろうと思われた背景を教えてください。

平田
最も大きいのは、シンプルに「AIが広がってきたから」ですね。
グループ代表の熊谷がよく口にしているのですが、AIは「秒進分歩」で進化しています。新しいモデルのリリーススパンもそうですし、各モデルのバージョンアップのたびに精度・速度が上がり続けています。
昔は「どのモデルが賢いか」という性能部分の比重が大きかったと思いますが、その進化の先で最も重要になるのは「AIにどのようなデータをどれだけ渡せるか」だと捉えています。とくに個人に紐づく情報や、会社の売上・人事といった「濃い」データをどこまで与えられるかという観点は、自分や会社にとって「どれだけAIが使えるのか」という分水嶺になるでしょう。
AIに入力するデータの機密性や重要度が高ければ高いほど、機械学習に使われてしまうのかといった点も含めた全体的な情報の扱いや、問題が発生した際の問い合わせ先などをきちんと知っておく必要性は高まるんです。
実際にお客様の声を聞いていても、会社での利用は増えている一方で「どんなデータをどこまで入れていいか、すごく悩む」という声を多くいただいていました。
提供する企業や各AIのプランごとに、認証の取得状況やデータの保管リージョンなどが大きく異なりますが、それを意識してAIを使っている方もまだまだ少ないのが現状です。AIの利活用が進んでいる時代だからこそ、我々がよく使う主要なAIがユーザーの入力したデータをどう扱うかを、横断的に比較した情報を届ける必要があると強く感じました。
そして天秤AIは複数のAIを同時に実行し、回答を1画面で見比べられるプロダクトです。同じ質問でもAIごとに答えは違うので、横並びで比較すれば、誤り(ハルシネーション)を見抜きつつ、いちばん意図に沿った回答を選ぶことができます。
「ユーザーが安心して最適なAIを選べるようにする」という、天秤AIが解決するニーズの延長線上にあるサービスとして作ったというのが開発の経緯です。
——3段階の記号は、どのような基準で設計したのでしょうか。

平田
評価の大方針として、やや保守的なスタンスを取っています。
「主要AI約款比較」は法人でAIを導入いただく際にも参照いただきたいため、リスクヘッジの観点からこうした「守りの姿勢」を意識していますね。視覚的にも、各項目の評価を○・▲・×という記号で表すことで一見して見やすいUIを実現しています。
この評価ルールも明文化していまして、たとえば「○」は、明示的に「これは大丈夫です」と書かれているものに付けている評価です。条文として、「やらない」「きちんと提供される」といったことが読み取れるものだけに○をつけています。
「▲」は、自分で設定を変更すれば可能になるものです。よくある例だと、オプトアウト設定(入力した会話データをAIの学習に利用させるかどうかの設定)の項目は、複数人で使うビジネスプランではデフォルトでオフになっていることが多い一方、個人の無料利用ではデフォルトでオンになっていることも珍しくありません。
それを知らずに使うのはリスクがあるので、比較画面では条件付きであることを示しつつ、どこで設定を変更すればよいかも案内しています。
「×」は明示的にできないと書かれているものに加えて、「明示はされていないが、人の目で見てリスクが高いと判断したもの」もここに当てはめています。「できない・悪い」という意味ではなく、「注意してほしい」というニュアンスでの×ですね。
また、評価の種類をあえて少なくしているのもポイントです。細かく設定しすぎると直感的に分かりづらくなってしまうので、ひと目で理解できる分かりやすさを優先しています。

——解釈の信頼性は、どのように担保しているのでしょうか。

平田
大きく3点で担保しています。
1点目は、先ほど申し上げた評価ルールの明文化です。それぞれの記号が何を指すのかを曖昧にすると、評価判断の軸や条文解釈が感覚論・属人的なものになってしまいますからね。
2点目は、根拠の明示です。それぞれの解釈はどの条文・表現に基づいているのかを、各セクションごとに記載しています。「AIが言ったからそうなんだ」ではなく、「実際にここに書いてある」と人間の目で見て確認できるかどうかですね。
これはハルシネーション対策であると同時に、法務担当の方が実際に確認しに行ったときにもすぐ見て取れるという面でも大きいです。
3点目は、専門家による助言・確認です。法律専門家である増島弁護士に、GMO天秤AI独自の基準に基づいて作成された本比較表について、法的観点からの助言・確認をいただいています。
約款自体は変わっていくものなので、免責として「法的助言ではなく比較資料として利用してほしい」という旨を明記したうえで、解釈や観点の妥当性を専門家の目に通していただいている形です。
人間との分業で実現する、AI時代における「転ばぬ先の杖」
——約款の読み取り・要約・変更通知は、どのような仕組みで動いているのでしょうか。

平田
ベースは、クロールやスクレイピング、AIでの1次評価という形で自動化しています。
GMO天秤AIでは全社員がClaude CodeをはじめとするAIツールをフル活用していて、手元でアプリケーションを作って業務を効率化したり、社内共通のダッシュボードを作ったりと、多くの業務をAIで代替・進化させる勢いで活用しています。約款のモニタリングも、同じ座組で実装しましたね。
というのも、約款は数が非常に多いだけではなく、毎日のように条文の一部が変わっているんです。
これまで行われた変更の多くはユーザーに影響のない些細な変更ですが、たまたま今までクリティカルな箇所が変わっていなかっただけで、明日には急に重要なところが変わっている…という可能性もあります。これを人手で追い続けるのは無理がありますから、自動検知していくことが不可欠でした。
「主要AI約款比較」はAIが自動で差分を検知して人間に通知するというフローなのですが、単に「ここが変わりました」と示すだけではなく、その変動が評価軸に影響するのか・しないのか、どう変わったのかといったサマリーまで付けています。
人は最後にチェックして意思決定するだけで、AIが反映の実装まで完了させるというところまでしっかり作り込んでいるんです。
そして、データの保持期間や入力データの学習利用など「主要AI約款比較」が比較する13種類の評価項目に影響するような変動があれば、ユーザーにもメールで通知しています。入れておけば最新情報が分かる、いわば「転ばぬ先の杖」として使っていただけるものになっていると自負していますね。
開発においては、プロセスと結果の両方を、人間が判断しやすい状態にきちんと構築することを意識しました。そのうえで、人間の手をなるべく減らしてAIが動き切れるフローや仕組み作りや、何度実行してもAIの解釈や挙動がブレない再現性を重視して進めています。

——約款比較は、AIが得意とする領域なのでしょうか。

平田
結論から言うと、AIが非常に得意な領域だと思っています。
大量かつ複数の長文を、同じ観点で整理し、毎日差分をチェックしていく。この繰り返しの定常業務を正確にこなすことが必要になるので、24時間365日同じことを繰り返せるAIとの相性はいいんです。
現在はOpenAIやAnthropicをはじめとする6社の約款比較を提供していますが、それぞれのAIには個人・法人など4つ前後のプランが用意されており、さらに「主要AI約款比較」で比較する13項目があります。これを毎回ゼロから人が見ていくのは、当然現実的ではありません。しかしAIであればそれを数分で終わらせることができますし、差分の検知も機械的にできます。
ただし、現状ではすべてをAIに任せられるわけではありません。「主要AI約款比較」の先には多くのユーザーがいるので、最終的なアウトプットの責任は人間にあります。情報の収集や取りまとめ・分析といった領域はAIに任せ、最終的な評価・解釈・判断は人の責任で行うという役割分担を徹底しています。
AIの得意領域ということもあり、開発全体のスピード感もかなりのものでした。私はエンジニアのバックグラウンドを持っていませんが、作ると決まってから数日でほぼ全てを作り終えました。
Claude CodeやCodex・Antigravityなど複数のAIツールを併用し、わずか数日でクオリティを担保した製品を作れたというのは、GMOグループが培ってきた技術力に加え、AIを開発プロセスに取り入れて使いこなす実践力があったからこそ実現できた開発だったと思っています。
「迷わないデザイン」でユーザーにコミットし、さらなる適用拡大を目指す
——開発で苦労された点はどこでしたか。

平田
一番大きかったのは「どこで区切るか」です。
各AIでもプランごとに約款の内容に差がありますし、個人・法人で分けるべきなのか、さらにその中で細分化すべきなのか…という線引きに悩みましたね。
まずAIと壁打ちをして詰めていったのですが、たとえばClaude Codeで作ったものを、CodexやAntigravityなどの他AIにレビューさせる…といったクロスチェックを重ねていくことで、抜け漏れもなくなり自分が納得のいく形に落とし込めました。
「せっかくAIの環境があるのに、1つのAIで出して終わりにするのはもったいない」と思って始めたクロスチェックでしたが、複数のAIという「集合知」で見ていくことで、だんだんと集約化されていったのは新たな発見でしたね。最終的には社長や増島弁護士にお墨付きをいただき、リリースできるまでの品質を高めることができました。
このクロスチェックは、AIの迎合性への対策という意味でも効いています。1つの流れのなかで、あるいは人間のインテント(意図)を含んだプロンプトを投げてしまうと、どうしても肯定的な結果が返ってきやすい傾向があります。
そこで、同じツールでも別のセッションに切り出してレビューさせたり、別のツールでレビューさせたり、ときにはプロンプトで批判的に出すよう指示したりといった工夫をしました。
たとえばClaude Codeで作ったものをAntigravityにレビューさせると、観点や性能の違いからかなり厳しく指摘されることもありましたね。そこがむしろ面白い部分だと感じています。
——UIデザインでこだわった点はありますか。

平田
「専門知識がなくても、ひと目でパッと分かること」を何より重視しました。
法務担当の方だけでなく、個人で使う方にも見ていただきたいサービスなので、パッと見で分かることはUI/UXにおいてとても大切なポイントだと考えています。
具体的には、比較表を画面上部に配置したり、評価の種類はあえて少なくしたり、色で直感的に分かるようなデザインにしたりといった工夫をしています。評価内容をもっと詳しく知りたい方のために、評価の記号をクリックすると、根拠となる条文や設定変更の箇所といった詳細へアンカーで遷移するようにしていますね。
上から下へスクロールしてまずは概観をつかみ、必要に応じて詳細へと深掘りしていけるという「迷わないデザイン」が大きな特長です。

——ローンチ後の手応えはいかがですか。

平田
SNSを見ていると、個人のユーザーの方から「便利なものが出たよ」とリンクを載せて言及いただくことがありますね。ありがたいと感じるとともに、やはり関心の高い分野なのだと改めて実感しました。
対応するAIサービスも段階的に増やしています。当初はChatGPT・Claude・Geminiの3つでスタートし、そこからGrok・Gensparkが加わり、6月5日にはManusにも対応しました。いわゆる「3大AI」に加え、利用者の多いサードパーティへと広げているところです。
またユーザーの反応などを見ていると、AIに限らず「約款」そのものの面倒くささや煩雑さに言及される方もいらっしゃいます。そしてAIまわりでも、Meta社の提供しているスマートグラスや、会話を録音して活用するLimitless AIのような傍流のサービスがどんどん増えていくと見ています。
もし可能であれば、生活者の暮らしに入り込んでいくサービスについても、AIに限らず比較の対象を広げていきたいと考えています。
——「主要AI約款比較」を、どのような方に使ってほしいですか。

平田
AIを業務で使おう、会社で導入しよう…となったときに立ち止まる理由はいくつかありますが、なかでも根強いのが「入力したデータがどう扱われるんだろうか」という、セキュリティや機密保持に関する不安です。
大きな会社ほどこうした不安は強くなりますが、個人の方にも「どこまで自分の情報を預けていいのか」という懸念があります。法人・個人を問わず、これがAI活用を妨げる大きな要因の1つになっていると感じています。
そうした不安を、根拠ある情報で1つひとつ解消できるのが「主要AI約款比較」です。私は「なんとなくAIって怖いよね」と思って使わない方も、「よく分からないけれど使ってしまう」方も、どちらももったいないなと思うんですよ。
このサービスを通じて正しく分かりやすく理解したうえで、自分に一番合うAIを安心して選ぶ判断材料として、ぜひ使っていただけたらと思います。
私たちも常に変わっていく約款をしっかり追い続け、ご利用者の方に継続して最新情報を届けていくことで、「主要AI約款比較を使っていればAIのことも約款のことも分かる」という状態を実現したいと考えています。
まとめ
「データを預けて大丈夫か」というAI導入のボトルネックに対し、主要AIの約款を横断的に読み解き、ひと目で分かる比較表として提示する。GMO天秤AIが提供する「主要AI約款比較」は、その不安を根拠とともに1つずつ解きほぐすサービスです。
その裏側にあったのは、約款の自動検知から要約・反映までをAIに担わせ、最終的な判断と責任は人が引き受けるという明快な棲み分けでした。
そして非エンジニア出身のプロダクトマネージャーが、複数のAIツールを使いこなして実質数日で形にしたという事実は、AI時代の開発のあり方そのものを示しているのではないでしょうか。
GMOインターネットグループは、これからもAIをはじめとする先端技術を活用し、誰もが安心して新しいテクノロジーを使える環境づくりに取り組んでいきます!

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