【EXPERT CROSS #2】「暗号のおねぇさん」が国際標準化の場で残していく、インターネットへの「爪痕」(前編)

私たちが普段から何気なく使っているインターネット。その安全性は、高度な暗号技術によって保たれています。GMOインターネットグループでもこうした暗号技術に取り組む中、営業・採用・開発の3領域を支援するGMOコネクト株式会社で「インターネット × 暗号技術」による安心・安全の実現をミッションとして活動しているのが酒見由美さんです。

GMOインターネットグループを代表するエキスパートとしても活躍する酒見さんは、 数多くの規格や種類がある暗号領域のなかでもペアリングベース暗号や超低遅延暗号という分野で、国際標準化の議論に継続的に参加されています。愛称は「暗号のおねぇさん」です。

本記事では、エキスパートとして今年度で5期目を迎える酒見さんと、上長であるGMOコネクト株式会社CTOの菅野哲さんに、酒見さんのエキスパート活動の歩みや、エキスパートとしての役割や姿勢について伺いました。

エキスパート活動が酒見さんにもたらした変化や、次世代のエキスパートへのメッセージなどを語っていただいた後編もぜひご覧ください!

GMOから世界に羽ばたく「暗号のおねぇさん」

酒見由美(さけみ ゆみ)|GMOコネクト株式会社 開発支援事業部

大手電機メーカー研究所において暗号技術の研究開発に従事した後、株式会社レピダム(現 GMOサイバーセキュリティ byイエラエ)に参画。その後、GMOコネクト株式会社に転籍。暗号技術の研究開発の従事後、IETFにおける暗号プロトコルの標準化活動を開始。GMOインターネットグループのエキスパートとして、暗号応用の領域で現在5期目を継続して務めている。

菅野哲(かんの さとる)|GMOコネクト株式会社 執行役員CTO

電気通信大学大学院修了後、2005年にNTTソフトウェア(現 NTTテクノクロス)に入社し、暗号技術の標準化と実装に従事。情報処理推進機構(IPA)への出向を経て、株式会社レピダム(現 GMOサイバーセキュリティ byイエラエ)取締役を歴任。IETFではRFC策定者として、日本発の共通鍵暗号暗号「Camellia」のTLS / IPsec利用に関する国際標準化仕様を複数策定し、Chrome / Firefox等のブラウザ(OSS)への実装まで導いた。ITU-Tにおける通信インフラのセキュリティ設計貢献、CRYPTREC 暗号鍵管理ガイダンスWG委員等を歴任。2025年7月にGMOコネクト株式会社 執行役員CTOに就任。

———まずは、お二方のこれまでのご経歴をお聞かせください。

酒見

もともとは大学で暗号技術の研究をしており、博士号取得後は民間企業の研究所で暗号技術の研究開発に従事していました。

GMOインターネットグループに参画したきっかけは、研究現場にいて感じた「素晴らしい研究技術があるのに、なかなか社会で使われない」というジレンマです。
暗号の認知度を向上させて、研究と社会実装の距離を縮めたいという思いを抱えていたところに、菅野さんが立ち上げた株式会社レピダムにお声がけいただきました。このレピダムが、現在のGMOサイバーセキュリティ byイエラエの元となった企業の1つなんです。

現在もエキスパートとして行っている、IETFを舞台にした暗号プロトコルの標準化活動を本格的に始めたのは、レピダムに転職してからです。現在はGMOコネクトに所属し、主にペアリングベース暗号や超低遅延暗号の領域で標準化に継続的にコミットしています。

菅野

私はNTTソフトウェア(現 NTTテクノクロス)時代に、当時新しく開発されたCamellia暗号の国際標準化に携わったのが、標準化との最初の関わりです。その後レピダムを立ち上げ、合併によってGMOサイバーセキュリティ byイエラエに加わりました。

現在はGMOコネクトのCTOを務めつつ、公正取引委員会でも活動しています。

———酒見さんはエキスパートとして今年で5期目とのことですが、これまでの活動を振り返って、どのような手応えがありますか。

酒見

国内外からお声がけいただくことが本当に増えてきたなと感じます。たとえば情報処理学会における「若手研究者の登竜門」と言われるIPSJ-ONEに登壇させていただいたり、SCIS2026では招待講演のパネルディスカッションに呼んでいただいたりしました。

他にも大学院での講義に呼ばれることもあれば、研究会の運営委員として声をかけていただくこともあります。こうした1つ1つのご依頼や発信に取り組み続けることで「呼ばれる側」に立つようになっていく感覚があるので、積み重ねって大事だなとしみじみ思いますね。

菅野

グループの想定を超えるレベルの結果を出してくれていますよね。大きなカンファレンスやイベントから「呼ばれる」「招待される」という状態は、コミュニティから一目置かれている証拠です。

酒見の存在は研究者や標準化コミュニティの内側だけでなく、暗号の専門家ではない方が集まる場でも認知されてきていて、グループの技術的プレゼンスにも直接効いていると思います。

———「暗号のおねぇさん」という呼称も、そうした活動の積み重ねのなかで生まれたものなのでしょうか。

菅野

これ、実は私が名付け親なんですよ(笑)。2019年のIETFにて、標準化活動を開始するタイミングで酒見を紹介する際に「暗号のおねぇさん」と呼んだのが始まりです。

酒見

いつの間にか定着していて、社内でも役員の方まで「ねぇさん」と呼んでくださるようになりましたね…。英語名がまだないので、海外で名乗るときには別の呼び方を考えないといけないんですけれども。

アジア人の女性で暗号をやっている人間はかなり珍しいので、国際標準化の場に出ていくと、印象に残していただきやすいんです。最初は戸惑いもありましたが、今ではその立ち位置を前向きに捉えています。

菅野

IETFでの活動などを通して、酒見が暗号領域へ継続的にコミットしているということが、結果として「GMOインターネットグループは、インターネットの基盤に責任を持っているグループだ」というメッセージにもつながっていると思います。後で​​英語名称も考えてみようかな。

「技術者としての酒見」がモチベーション

———酒見さんがこれだけ長​​く活動を続けてこられた、その熱量の源はどこにあるのでしょうか。

酒見

「GMOインターネットグループの酒見」ではなく、「技術者としての酒見」を育てたいと思っているんです。会社の看板を背負っているのは事実ですが、それ以上に「酒見由美という個人として、何を世の中に残せるのか」という自己ブランディングの気持ちで取り組んでいます。
そうしたブランディングの中で、世界で誰もまだ思いついていないアイデアを自分が思いつけたときは、研究者としての嬉しさを感じられます。ここも大きなポイントですね。

最終的には、10~15年先にインターネットの転換期を振り返ったときに、「議論の場と実装の場の両方を繋いだ数多くのエンジニアの中に、酒見由美という技術者がいた」と思ってもらえる仕事をしたいんです。本当に多くの方に支えられながら続けている活動ですので、それが今の自分のモチベーションになっています。

菅野

RFC(Request for Comments、インターネットの技術仕様)を発行できれば、それは技術者としての名刺代わりにもなりますし、何より「自分のやった仕事が世界中で使われる」という、エンジニアとして相当アツい展開が待っています。

「すべての人にインターネット」を掲げるGMOインターネットグループとしても、標準化に貢献するのは大きな意義がありますね。

酒見

世界初のネットワークであるARPANETが1969年に誕生してから今年で57年目になりますが、今でも黎明期に作られた技術がインフラの根幹で動き続けていますからね。

菅野

RFCとしてインターネットの技術に採用されると、自分が亡くなった後の世界でもその技術が使われていたり、教科書に載って後世の誰かが学んでくれたりする可能性があります。標準化に関わるということは、突き詰めればインターネットの歴史に爪痕を残すということなんですよね。

インターネットの世界にはそういう仕事ができるテーブルが用意されていますが、歴史に名を残せるレベルの機会は滅多にありません。酒見はその機会を本当によく活かしていると感じますね。

難しいことを難しいまま伝えても、誰も幸せにならない

———技術発信のなかで、伝え方そのものに対するスタンスも変わってきたのでしょうか。

酒見

エンジニアあるあるだと思うんですけれど、つい難しいところを喋りたくなっちゃうんですよね。相手は求めていないのに、自分が喋りたい話を延々としてしまう。私自身も、以前は発表スライドに難解な内容を詰め込みすぎていた時期がありました。

それに気づいてからは、「私が喋りたいこと」と「相手が知りたいこと」は違うんだ、という点を意識してスライドを作るようになりましたね。聞き手にとっての価値から逆算するという視座は、エキスパート活動を続けてきたからこそ起きた大きな変化だと感じます。

菅野

難しいことを難しいまま伝えても、結局0ビットしか伝わらないんです。喋った本人は満足するかもしれないけれど、聞いている側は何も持ち帰れない。それでは誰も幸せにならないので、エキスパートには「相手の言葉に翻訳して届ける」というスタンスや、それを実現するスキルが求められますね。ここも継続していってほしいところです。

———そうした「警戒心」を解いていくことも、エキスパートとしての役割なのでしょうか。

酒見

暗号って、「魔法のようなことができる」技術なんですよ。たとえば「データを暗号化したまま計算ができる」というような話をすると、「それ、裏で復号して戻してるんでしょ?」と疑われます(笑)。

未知の技術って、怖かったりよくわからなかったりすると「別に使わなくてもいい」となりがちなんですよね。最先端の技術ほど本来一番恩恵を受けられるはずなのに、警戒心が先に立って採用に至らない。

「暗号のおねぇさん」として暗号技術を分かりやすく発信し、そうしたジレンマを解いていくことが、エキスパートとしてのミッションだと思っています。

菅野

エキスパートの肩書をもらうことで、GMOインターネットグループ全体でその活動を支援してもらえるので、暗号技術の知名度を上げやすくなるのではないかという期待もありますね。

「暗号のおねぇさん」というキャッチーな看板も、暗号への心理的距離を縮める装置として機能していると感じます。こうした点も、グループの技術的プレゼンスに効いているのではないでしょうか。

「衝突しないで仲間を増やす」が、エキスパートとしての作法

———「自分が起点となってつながりや仲間を増やしていく」ことでプレゼンスを発揮することも、業界をリードするエキスパートの大きな役割のように思います。酒見さんはどう向き合われていますか。

酒見

たとえば標準化の現場では、どのパラメータを推奨するかで意見がぶつかることがあります。そのときは関係性を壊さないように、客観的なポリシー設計を提示して「自分の使いたいものを入れているわけではなく、こういう基準で選んでいるんです」と、公平性を持って説明することで納得していただきました。

標準化はこれからも続いてゆく活動なので、対立して関係を切ってしまうと、後々の協力の芽まで摘んでしまうんです。

菅野

強硬的にやれば一時的に押し通せるかもしれませんが、それでは遺恨が残ります。それよりも、まず相手を認めて「あなたはここがターゲットですよね。私たちはここをやるので、一緒に頑張りましょう」と整理する方が、結局はうまくいくんですよ。

そうやっていくと仲間は乗算で増えていきますし、コミュニティとしてもいい循環が生まれるんです。

酒見

自分だけの力ではなかなかやっていけないというのは、この活動を続けるほど実感しますね。標準化は、周りのコンセンサスや応援してくれる人たちがいないと絶対に進められませんから。

もともとは1人でテーマを抱え込むタイプでしたが、こういった活動がなければ閉じたコミュニティの中で完結してしまうので、そういう意味でもエキスパートの皆さんと交流できて本当によかったなと思っています。
またVR領域の方など他分野の専門家とも接点ができるようになったことで、「暗号と他領域を組み合わせると何が起きるか」という発想が出てくるようになりましたね。こうした仲間作りの副産物も、自分にとっては大きな変化でした。

菅野

やっぱりエキスパートなので、他のエンジニアの規範となるような行動を続けていってほしいところですね。これからはより一層、グループ内の憧れの存在となってもらいたいです!

まとめ

GMOインターネットグループの「インターネットの基盤を支える」という旗を、暗号という難解な領域で世界の標準化テーブルに掲げ続けてきた酒見さん。その活動の根本にある「技術者としての酒見」というアイデンティティを、ともに新しい価値を作る仲間と共に伸ばしていくのが、酒見さんのエキスパートとしての姿勢だと言えそうです。

難解な技術を相手の言葉に翻訳していくスタンスや、衝突せずに仲間を増やしていくコミュニティ観は、新たな仲間をつくるためには不可欠な要素ではないでしょうか。

GMOインターネットグループは、これからも「ネットのセキュリティもGMO」のスローガンのもと、インターネットの安全を支えるエキスパートの活動を支援してまいります!

エキスパート活動を通じて起きた組織への影響と、2026年に向けた具体的な挑戦などについて伺った後編もぜひご覧ください!

後編はこちら

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GMOインターネットグループ株式会社

イベント活動やSNSを通じ、開発者向けにGMOインターネットグループの製品・サービス情報を発信中

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